AIが業務の遂行を担う範囲が広がるにつれ、判断力や戦略を有し、テクノロジーを適切に活用できるマーケターに対する需要が高まっている。
AIは、マーケターの必要性をなくしているというよりは、企業がマーケターに求める価値を変えている。
アメリカ・マーケティング協会(AMA)の「2026年マーケティング職の現状レポート(2026 State of Marketing Careers Report)」によると、AIスキルへの需要が高まる一方で、実行業務を中心とするマーケティング職には圧力が増している。AIに言及するマーケティング関連の求人の割合は2025年にほぼ倍増し、1月の8%から12月には15%へと上昇した。AMAはこの変化を、「企業は、判断力を重視しなくなったのではない。実行力を求める必要がなくなったのだ」と総括している。

この変化は、すでに厳しい状況にある雇用市場で起きている。米国のマーケティング職の求人数は、2020年3月の水準を依然として約27%下回っており、2025年にはマーケティング職の求人総数が8%以上減少した。本レポートは、AIの導入が進むにつれて、どのような種類のマーケティング業務の価値が高まり、どのような業務の価値が低下していくかを示している。
実行作業の多い業務は、より大きな圧力に直面
MAの「AIディスラプションマップ」は、AIシステムがどの程度の人間の関与を必要とするかに基づいて、マーケティング業務を分析している。定型的なレポート作成、データ収集、キャンペーンのモニタリングは、比較的人間の関与が少なくて済む。スケジュール管理、ソーシャルメディアのモニタリング、SEO、そして有料メディアの最適化も、自動化の大きな可能性を秘めている。
ただし、この分析はAIの能力を測定するものであり、企業が現在どれほどAIを活用しているかを示すものではない。多くの企業は依然としてAIの導入・活用の実験段階にあり、従業員が個々にAIを活用しているほか、試験導入した取り組みも、まだ標準化されたワークフローにはなっていない。

H1:AIエージェントは、タスクを完全に自律的に処理する。
H2:AIエージェントは最適な成果を出すために、最小限の人間による入力を必要とする。
H3:AIエージェントと人間が対等なパートナーとして協働し、どちらか単独よりも高い成果を生み出す。
H4:AIエージェントがタスクを完了するためには、人間による入力が必要。
H5:AIエージェントは、人間が継続的に関与しなければ機能しない。
しかし、採用データを見ると、実行業務を中心とする一部の職種では、すでに需要が減少傾向にあることが分かる。ソーシャルメディアコーディネーター、コピーライター、SEOマネージャーといった職種は需要が落ち込む一方、シニア管理職は、中間管理職や個人貢献者(部下の管理を主な仕事とせず、自分自身の専門性やスキルによって成果を出す職種)のポジションよりも堅調に推移していた。
アナリティクスの領域は、これが個々のマーケターにとって何を意味するかを示している。AIがデータを収集し、定型的なパフォーマンスレポートを作成できるのであれば、レポートを作ること自体は差別化要因ではなくなってしまう。マーケターの貢献の中心となるのは、何を測定すべきかを決定し、データが信頼できるかを評価し、その意味を解釈し、企業が次に取るべき行動を提案することである。
つまり、アウトプットを生み出すことよりも、そのアウトプットをどう活用すべきかを理解することの方がより重要になってきているのだ。
マーケターは、AIが提供できないスキルを過小評価している
マーケターは、テクノロジーの重要性が高まっていることを明確に認識している。回答者の92%が、今後5年間でAI関連のスキルがさらに重要になると予想している。マーケティングテクノロジーは87%で4位、データプライバシー、コンプライアンス、セキュリティは84%で6位、データリテラシーとストーリーテリングは83%で8位となった。
しかし、このレポートは、見過ごせない重要な認識のズレも明らかにしている。

クリティカルシンキング(批判的思考)、コミュニケーション、協調性、適応力といったスキルについては、いずれも前年の調査に比べて重要度の認識が低下した。しかし、AMAの分析によれば、こうした能力こそが、最も人間の関与を必要とする領域として挙げられている。
AIを使って分析やキャンペーン、コンテンツを生成することと、その結果が妥当であるか、ビジネスの文脈に合致しているか、そしてそれに基づいて行動すべきかどうかを判断することは別の話だ。後者には、マーケティングの専門知識と判断力が求められる。
キャリアの初期段階にある人材はどうなるのか?
実行業務と中心とする仕事からのシフトは、別の問題も引き起こしている。というのも、そうした仕事の多くは、キャリアの初期段階にある人材によって担われてきたからだ。
組織のフラット化により、若手向けのポストやインターンシップは減少しており、雇用する側は候補者にAIリテラシーやデータリテラシーといった能力を求める傾向が強まっている。
これにより、人材に関する長期的な課題が生じている。若手マーケターは、レポートの作成、原稿の作成、キャンペーンの詳細管理、リサーチ、その他の戦術的な業務を通じて学びを得てきた。こうした業務を通じて、より重要な意思決定を行うために必要な経験や業務に対する理解を得ていたのだ。
企業は、経験豊富なマーケターに必要な判断力を育成するための新しい方法を見つけなければならない。
それには、若手マーケターにAIのアウトプットを検証する責任を委ねたり、意思決定の場により早い段階から関与させたり、経験豊富なマーケターとより密接に連携させたりすることが考えられる。これからは、すべての業務を手作業で行うことを通じて学ぶのではなく、AIが生成した成果物を指示し、評価し、改善できるだけの、業務に対する深い理解を身につけることが求められる。
職種ではなく、まずタスクから考える
このレポートは、AI導入に取り組むうえで、より有効な方法を示唆している。それは、まずどの職種を自動化できるかを決めることから始めるのではなく、その職種に含まれるタスクに目を向けることだ。AIが確実に実行できるタスク、人間による確認が必要なタスク、そして継続的に人間が関与する必要があるタスクを見極めよう。そして、その分析をもとに、それぞれの役割の構成を見直すのだ。
定型的なレポート作成、モニタリング、または制作などが中心となっている職種では、解釈、計画立案、品質管理、意思決定といった業務をより重視する必要がある。
また、採用基準も変える必要がある。単にAIツールの使用経験があるというだけでは、その人物の能力を判断する上であまり参考にならない。より有用な評価基準は、その人物がマーケティング分野でAIを活用できるか、質の低い、あるいは誤ったアウトプットを見抜けるか、そして、その成果をビジネス上の目標に結びつけられるかという点である。
研修についても、同様のことがいえる。AIツールを使えるようにするだけでは、従業員はソフトウェアの使い方を学ぶことはできても、そのソフトウェアが生み出す成果物を監督する方法までは身につかない。それには、業務上の専門知識、ビジネス上の文脈を理解する力、そして実際の意思決定を行い、その結果を評価する機会が必要になる。
企業が重視するものが変化している
このレポートは、マーケティングの専門性が時代遅れになりつつあると言っているのではない。むしろ、これまでマーケティングの専門性を示すために用いられてきた業務の一部が、AIによって自動化しやすくなりつつあると指摘している。
これは、労働市場の両者にとって課題をもたらす。マーケターは、単にAIツールの操作方法を学ぶだけでなく、AIを有効に活用するための判断力や専門知識を身につけなければならない。一方、雇用する側は、生産性の向上によって、従業員がそうした能力を身につける機会が失われないよう配慮しなければならない。
より難しいのは、機械に何をさせるべきかを判断できるだけのマーケティング知識を備えた人材を育成することなのだ。
本レポートはこちらからダウンロードできる。(登録が必要)
AMAの調査結果は、2025年12月から2026年1月に実施された1,412人のマーケティング実務担当者を対象とする調査に加え、インタビュー、求人市場のデータ、その他の二次調査に基づいている。AMAは、今回の調査対象者が主に北米に偏っていたほか、AMA会員や特定の業界・職位の回答者が過度に突出していたと説明している。