Googleは5月、エージェント型コマース分野における過去最大級の取り組みとして、検索、Gemini、YouTube、Gmailをまたいでカート情報を保持できるショッピングカートである「ユニバーサルカート(Universal Cart)」を導入した。この横断的な統合により、買い物客はGoogleのエコシステムを通じて、さまざまな販売業者を横断して商品を発見し、比較し、購入できるようになる。

消費者にとっての魅力は、利便性にある。一方、小売業者やブランドにとっては、はるかに大きなリスクがある。消費者が小売業者のサイトにアクセスする前から、Googleが購入の意思決定を握る方向へと近づいているからだ。

Wayvia(旧PriceSpider)のCEO、Anthony Ferry氏は、Googleのユニバーサルカートを、ブランドや小売業者にとっての重大な警告だと見ている。同氏は、これにより消費者との関係の主導権が変わり、Googleが新たなウォールドガーデン(外部から隔離された独自の囲い込み環境)を構築し、消費者の意思決定がブランドからは見えない同社のエコシステム内で行われるようになると指摘する。

「小売業者は存亡の危機に直面している。GoogleやAmazonが圧倒的な利便性によって消費者のロイヤリティを獲得するにつれ、小売業者と顧客との直接的な関係は崩れつつある。自社の顧客基盤を掌握できない小売業者は、実質的にフルフィルメントセンターや低利益率の倉庫と化してしまうリスクがある」と、Ferry氏は語る。

画像:WayviaのCEO、Anthony Ferry氏

 

買い物客のインサイトの可視性が脅かされている

Ferry氏によると、ブランドはごく少数のAI搭載プラットフォームへの依存に無自覚に歩み寄ってしまうリスクがある。ブランドは、買い物客がどのように意思決定を行うかについての可視性を失いつつあり、さらに消費者がどこで、どのように商品を検索するかに対するコントロールも失いつつある。

「賢明なブランドは、自社メディアへの投資を強化することでこの状況に対抗するだろう。自社メディアでは、依然としてファーストパーティデータや消費者との直接的な関係、そして自社がコントロールできるショッパブルな体験を得られるからだ。その他のブランドは、プラットフォームの鍵を握る者から可視性を借りることになるだろう」と、同氏は述べる。

Wayviaは、ブランドが自社製品をオンライン上で追跡し、価格設定を管理し、マーケティングキャンペーンを買い物客にとって快適な購入体験へとつなげることを支援する、eコマース・インテリジェンス・プラットフォームである。同社は、ブランドが最新の人工知能(AI)搭載のショッピングアシスタントに適応できるよう、ツールを拡充してきた。

Ferry氏は、小売業者がミッドファネル(購買検討の中間段階)の主導権を失い、ブランドのWebサイトが取引を完了するだけの終着点に成り下がってしまうリスクがあると警告する。小売業者の成否は、顧客生涯価値(LTV)とリピート購入にかかっている。最初のデータタッチポイントを失うことは、そのパイプラインを断ち切ることになるのだ。

同氏は、AIエージェントが消費者向けに選択肢を絞り込むようになれば、マーケティング戦略も変えざるを得なくなると指摘する。エージェント型コマースにおける「ブラックボックス問題」により、ブランド側は、販売機会を逃した原因が価格なのか、アルゴリズムのバイアスなのか、あるいはサプライチェーンの指標なのかを知ることができなくなるだろう。

 

エージェント型コマースの「ブラックボックス問題」を解き明かす

私たちは、Googleのユニバーサルカートがブランドや小売業者にとってなぜ問題となるのかについて、Ferry氏に意見を求めた。また、AI搭載のショッピングプラットフォームが、消費者との関係の主導権を誰が握るのかをどのように変えつつあるかについても、同氏の見解を聞いた。

 

ユニバーサルカートが普及した世界において、商品の発見や比較の主要な場としての小売サイトの従来の役割はどうなるだろうか?

Anthony Ferry氏:小売サイトがなくなるわけではないが、その役割はかなり劇的に変化する。過去10年間、小売業者は、買い物客を自社のWebサイトやアプリ、ロイヤリティプログラムへと引き込み、そこで買い物かごを形成しようとしてきた。

買い物客が自社サイトから購入行動を開始すれば、マーチャンダイジングの管理、プロモーションの提示、セット商品の推奨、プライベートブランドの宣伝、メールアドレスの取得、そしてその顧客のリピート獲得といったことが可能となる。しかし、ユニバーサルカートの導入により、こうした行動の多くはGoogleの領域へと移行してしまう。

クロスセルやアップセルの問題もここで浮上する。小売業者は、訪問機会を失うだけでなく、追加購入される商品も失ってしまうのだ。もしユニバーサルカートが買い物かごを組み立てる場所となるならば、小売業者は自社のサイトではなく、Googleのプラットフォーム内で顧客の検討の機会を勝ち取らなければならなくなるかもしれない。

 

ユニバーサルカートは、ショッピングジャーニーにおける小売業者の役割をどのように変えるだろうか?

Ferry氏:AmazonやWalmartのような小売業者にとって、これまで他社のプラットフォーム上のショッピング環境で自社プライベートブランドを宣伝する理由はあまりなかった。プライベートブランドの目的は、自社の環境内で優位に立つことだったからだ。もしGoogleが購入前の会話のより多くの部分を掌握するようになれば、小売業者のプライベートブランドは、メーカーのブランドに近い存在になっていく。

買い物かごがGoogleの中で作られるようになると、小売業者のWebサイトは「入り口」という役割から、「フルフィルメントレイヤー」としての役割へと変化する。商品ページはAIが読み取れる必要がある。在庫情報は正確でなければならないし、価格は最新である必要がある。レビューは利用シーンを裏付けるものでなければならず、チェックアウトのプロセスは確実に機能しなければならない。

 

Googleが検索、YouTube、Gemini、Gmailをまたいで情報を保持するカートを管理するようになった場合、ブランドの最適化戦略はどのように変わるだろうか?

Ferry氏:この新しい情報保持モデルでは、ブランドは自社製品がAIシステムにとって確実に表示され、正確で、推奨しやすく、顧客のカートに入れやすい状態にすることに注力しなければならない。これは単純に聞こえるかもしれないが、その裏側にある作業の多くに大きな変化をもたらす。

商品情報、小売業者の在庫状況、レビュー、そして購入プロセスのスムーズさが、ますます重要になる。AIが2つの商品を比較する場合、より安価で、レビューの評価が高く、内容が分かりやすく、近隣で在庫があり、かつ購入プロセスがよりスムーズな商品を選ぶのは当然のことだからだ。

 

検索エンジン最適化(SEO)は、ユニバーサルカートに商品を入れてもらうようにするためのエージェント最適化へと変わっていくだろうか?

Ferry氏:実際には、その通りだ。ただ、「エージェント最適化」という言葉を、実際よりも複雑に捉える必要はない。SEOは、ページが見つけられるようにするための取り組みだった。一方で、エージェント最適化は、商品がAIに選ばれるようにするための取り組みになる。

 

AIの買い物プロセスは、人間の購入者のそれとどう違うのだろうか?

Ferry氏:AIショッピングアシスタントは、人間のように単に商品を見て回っているわけではない。それは、ショッピングにおける課題を解決しようとしているのだ。もし買い物客が、「子どもの肌を刺激しない日焼け止めで、今日中に届くものがほしい」と頼んだ場合、AIには曖昧なブランドストーリーは必要ない。必要なのは、明確な商品情報、説得力のある根拠、正確な在庫状況、良いレビュー、そしてスムーズな購入プロセスだ。ブランドはそこに注力しなければならない。

 

消費者がGoogleのエコシステム内で買い物をする場合、小売業者はどのようなファーストパーティデータを取得できなくなり、それはCRMや顧客維持の取り組みにどのような長期的な影響を及ぼすのだろうか?

Ferry氏:価値のあるデータとは、注文が確定するまでのプロセスで得られる情報である。それがなければ、小売業者は顧客像を十分に把握できなくなる。これには、買い物客の検索クエリ、比較した商品、検討した他の小売業者、値下げへの期待、そして迅速な配送の重要性などの情報が含まれる。

また、ブランド側が取得できなくなる、次のような情報も重要である。Googleはより安価な代替品を提示したか?レビューによって、ある商品は別の商品よりも優位に立ったか?ロイヤリティ特典は購入判断に影響したか?そして、買い物客自身が小売業者を選んだのか、それともGoogleが事実上選んだのか?

これらは、小売業者が需要を把握するために活用するデータである。また、CRM、ロイヤリティプログラム、パーソナライゼーション、顧客維持のためにも必要なデータでもあるのだ。

 

小売業者は、消費者をGoogleのユニバーサルカートから引き離せるほどの魅力的なショッピング体験を、どのように構築すればよいだろうか?

Ferry氏:ブランド体験や自社が提供する購買体験は、もはや単なるパンフレットであってはならない。ブランドのストーリーを伝えるだけで、買い物客を手探りの状態に置き去りにすることはできない。買い物客が購入に至るまでのサポートが必要となる。つまり、商品に関する具体的な疑問に答え、ブランドの可視性を高めることが求められるのだ。

また、自社が提供する購買体験では、利便性以上の価値を提供しなければならない。たとえば、限定商品、先行アクセス、お得なセット販売、サブスクリプション、商品知識の提供、コミュニティ、サービス、そして実際に消費者の行動を変えるようなロイヤリティプログラムなどである。

 

ブランドは、Googleの保持カートに選ばれるために、値下げ競争を余儀なくされることになるのだろうか?

Ferry氏:最も影響を受けやすいのは、コモディティ化したブランドである。AIアシスタントが、ほぼ同じに見える5つの商品を見つけた場合、最も明確な判断基準を使い始めるだろう。つまり、価格や配送速度、レビュー、在庫状況である。これは、選ばれる明確な理由を持たないブランドにとっては悪い知らせである。

多くの買い物客は、電池、ペーパータオル、シャンプー、医薬品、ペットフード、あるいは美容用品といった商品をどこで購入するかについて、強いこだわりを持っていない。AIが優れた商品、手頃な価格、適切な配送タイミングを見つけてくれるなら、そのために店に行く必要はなくなるかもしれない。

しかし、だからといってすべてのブランドが価格競争に巻き込まれるわけではないと考えている。差別化されたブランドには依然として活躍の余地がある。そのブランドに特定の用途、高い評価、明確な商品情報、安定した在庫状況、そして確かなリピート購入関係があれば、AIが判断材料とするのは価格だけにとどまらないからだ。


※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/14公開の記事を翻訳・補足したものです。