食品メーカーの楽天運営を「事業」として設計する

 

楽天市場に取り組む食品メーカーの多くが、売上と利益の両面で頭を抱えている。売上が以前ほど伸びない。伸ばそうとすれば、今度は利益が削られる。その状況を打開しようと、「LPをどう改善するか」「広告のROASをどう引き上げるか」といった施策に、多くの時間と費用が割かれているのが実情だ。

しかし、ある前提が欠けたままでは、その時間も広告費も成果に結びつきにくい。いま磨いているLPも、投じている広告費も、本来は必要のないものだった——食品メーカーの楽天運営では、そうしたケースさえ少なくない。

では、なぜ食品メーカーは楽天で伸び悩むのか。そこで今回は、その構造的な原因を整理したうえで、LP改善や広告運用に先立って描くべき「3カ年事業計画」という考え方を読み解いていく。

 

※本記事の内容を踏まえ、楽天運営を「事業」として設計するための、「楽天1億円達成診断シート」はこちらからダウンロード出来ます。本記事の内容、および同フォーマットは、食品をはじめとするメーカー企業の楽天市場での市場分析・戦略構築を得意とする株式会社ネットショップスタジオの知見をベースにまとめています。

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データで見る、食品ECと楽天市場の現在地

 

まず、食品メーカーが置かれている市場環境を、客観的な数字で確認しておきたい。

食品・飲料・酒類のBtoC-EC市場規模は、2024年時点で3兆1,163億円に達し、前年比6.36%で拡大している。この伸び率は物販系の主要カテゴリーの中で最も高く、市場規模としても物販系で最大である。コロナ禍を経て、ネットスーパーの利用や食品・飲料のオンライン購入が定着したことが、成長を支えていると考えられる。

一方で、食品・飲料・酒類のEC化率は4.52%にとどまる。物販系分野全体のEC化率が9.78%であることを踏まえると、その半分にも満たない水準だ。EC化率が56.45%に達する「書籍、映像・音楽ソフト」や、43.03%の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」と比べても、食品のオンライン化はまだ途上にあると言える。裏を返せば、食品ECには大きな伸びしろが残されているということだ。

そして、その成長市場の主要な受け皿となっているのが楽天市場である。食品・生鮮分野では、楽天市場が32.4%という最大シェアを握るとされ(富士経済「通販・eコマースビジネスの実態と今後 2025」)、食品メーカーにとって最も優先度の高いチャネルの一つに位置づけられる。

つまり食品ECは、「市場規模は大きく、伸び率も高い。しかしEC化率はまだ低く、これから伸びる」という局面にある。だからこそ、場当たり的な施策ではなく、3年先を見据えた設計図を持って臨めるかどうかが、この先の成否を分けることになる。

 

 

楽天を「作業」として捉える限り、伸び悩みは続く

 

食品メーカーが楽天でうまくいかない背景には、楽天運営を「作業」として捉えてしまう構造がある。

日々の広告運用、LP制作、イベント対応——目の前のタスクに意識を奪われ、本来であれば経営判断として向き合うべき楽天の位置づけを見失ってしまうのだ。

ここで押さえておきたいのは、楽天は「作業」ではなく「事業」だという視点である。まずは3年で年商1億円、広告費率5%の達成を目指す。そうした一つの事業として捉え直すことが、すべての出発点になる。

 

 

出発点は、たった一つ。「3カ年の事業計画」を描けるか

 

楽天ECで最初に問われることは、突き詰めればたった一つに集約される。それは、3カ年の事業計画を描けるかどうかだ。

この一点さえ押さえられれば、食品メーカーにとって楽天は十分に勝算のあるチャネルになる。逆にこれが欠けていれば、どれだけLPを改善し広告を運用しても、施策は空回りしやすい。

やること自体はシンプルである。まず3年後の売上目標を設定し、その目標を「どの市場(セグメント)で、いくらの売上を作るか」へと分解していく。実のところ、この分解までやり切れている食品メーカーは多くない。だからこそ、ここを描けた時点で、他社に対する優位はかなりの程度見えてくる。

 

 

計画が定まると、「やらないこと」が決まる

 

3カ年の事業計画を描くと、戦略——すなわち「やるべきこと」と「やらないこと」——が明確になる。

とりわけ重要なのは、「やらないこと」が定まる点だ。いま制作しているLPや投下している広告費も、3年後のゴールから逆算すれば、優先度が高くないケースは少なくない。計画があるからこそ、限られたヒト・モノ・カネを、本当に効く領域へ集中させられる。

 

 

長期で見れば、楽天は「100年の販路」になり得る

 

楽天にそこまで本気で向き合う価値があるのか、という疑問もあるだろう。短期的な投資対効果だけで判断すれば、迷う場面もあるかもしれない。

しかし長い時間軸で見れば、販路は百年単位で入れ替わってきた。百貨店、スーパー、コンビニ、そしてEC——一度市民権を得た販路は、その後の長期にわたって残り続ける。前述のとおり食品ECが拡大基調にあることを踏まえれば、楽天への取り組みは一過性の施策ではなく、これからの100年を見据えた布石になり得る。

 

 

事例に見る、「どこで戦うか」を変える効果

 

「どの市場で戦うか」を見直すだけで、楽天の売上が伸びた事例は少なくない。ここでは、主体や固有名詞を伏せたうえで、代表的な2つのパターンを紹介する。

 

事例1:百貨店・スーパーに販路を持つ老舗の食品・製菓メーカー

複数カテゴリ(仮に「食品ジャンルA」「食品ジャンルB」「お菓子ジャンルC」とする)で売上を構成する企業のケースである。

社内の認識では、「食品ジャンルA」は歴史こそあるものの成熟市場でECの優先度は低く、「食品ジャンルB」を成長領域と位置づけて、人的リソースと広告費を集中投下していた。しかし楽天での売上は年商2,000万円前後で伸び悩んでいた。

ところが3C分析を行うと、楽天市場においては競合が限定的な「食品ジャンルA」こそ、積み上げてきた商品力を適切に訴求すればシェア獲得が可能だと見えてきた。そこで「食品ジャンルB」への集中を見直し、「食品ジャンルA」へ主戦場を移したところ、約3年で年商1億円規模まで成長し、広告費率も5%程度に抑えられたという。

 

事例2:ドラッグストア流通を持つ健康食品メーカー

ドラッグストアを中心に流通を持つメーカーが、楽天ではEC専用商品の育成を目的に多額の広告投資を行っていたケースである。広告を投下している間は売上が伸びるものの、停止すると失速する状態が続き、年商は2,000万円程度にとどまっていた。

3C分析の結果、まず優先すべきは、既存のドラッグストア流通品で「指名買い」のシェアを獲得することだと判断された。楽天市場は、一定の売上とシェアを獲得すると、そこから加速的に成長しやすい構造を持つためである。この方針へ切り替えた結果、約2年で年商2億5,000万円規模まで成長したという。

両者に共通するのは、LPや広告といった「手段」ではなく、「どの市場で戦うか」という上流の設計を見直した点である。そしてその判断を支えたのが、次に述べる3C分析だ。

 

 

3カ年事業計画は、こう組み立てる

 

ここからは、3カ年事業計画の具体的な組み立て方を、4つのステップで整理していく。

 

① 3年後の売上目標を「強気で」設定する

まずは、3年後の楽天市場での売上目標を定める。ここは勢いで構わない。自社の年商にEC化率を掛け、そのうち4割程度を楽天市場に持たせる、といった置き方でも十分だ。

ポイントは、強気に設定すること。仮に3年で届かなくとも、5年あれば到達できる水準を狙えばよい。ここから先は、この強気の目標に現実味を持たせていく作業になる。

 

② 売上目標を市場(セグメント)ごとに分解する

次に、設定した売上目標を、楽天市場のセグメントごとに分解していく。たとえば「肉まんで5,000万円、チャーハンで3,000万円、餃子で2,000万円」といった具合だ。この分解の局面で活用するのが3C分析である。

3C分析とは、Customer(顧客・市場)、Competitor(競合)、Company(自社)の3視点から事業環境を分析し、成功要因を見出すマーケティングの基本フレームワークだ。楽天運営の実務では、「市場規模がある程度あり、価格も低すぎず、競合も強すぎず、そのうえで自社の強みが活きるセグメントを見つける作業」と捉えると分かりやすい。

セグメントの判別で最も手がかりになるのが、楽天市場のランキングのジャンル構造である。1商品は1ジャンルにしか紐づけられないため、そのジャンルが、その商品の属するセグメントだと考えられる。ランキング検索で自社商品名を検索すれば、どこに紐づいているか、そしてランキングのセグメント構造が見えてくる。たとえば肉まんであれば「食品 > 惣菜 > 中華惣菜・点心 > 肉まん」というセグメントになっており、「中華惣菜・点心」の直下には、エビチリ、酢豚、餃子、シュウマイ、小籠包、あんまんといったセグメントが並ぶ。これを全商品について行い、自社が当てはまるセグメントを洗い出していく。

続いて、市場規模を見極める。市場規模のないところで売るのは難しいため、必ず一定の規模があるセグメントを選びたい。トップシェア30%を目指すと仮定すれば、1億円程度の市場規模があるセグメントなら、年間3,000万円の売上が見込める計算になり、目線としては悪くない。それを下回る規模であれば、資本を投下するかどうかは慎重に判断すべきだろう。

ちなみに、ランチェスター戦略のマーケットシェア理論では、市場でトップに立つために必要なシェアの目安として、上限目標値73.9%、安定目標値41.7%、下限目標値26.1%が知られている。シェア30%は、おおむね「下限目標値を超え、市場の主要プレイヤーになる」水準と捉えると、目標が立てやすい。

そして、自社の強みが活きるセグメントを見つける。楽天で永続的に勝つには、楽天の中だけを見るのではなく、日本経済全体における自社の立ち位置を俯瞰する視点が欠かせない。具体的には、次のような自社の資産を棚卸ししていく。

  • 歴史
  • 物流体制
  • ブランド
  • 商流上の立ち位置
  • 全販路(流通チャネル)
  • シェア状況
  • 社内の組織構造

これらの強みが、全国規模で競合する楽天市場のどのセグメントで最も活きるのか。そこを見極めることで、短期ではなく、永続的に勝ち続けられる構造を描ける。先の事例1で競合の少ない「食品ジャンルA」を主戦場に選び直したのも、まさにこの3C分析が導いた結論だった。

 

③ セグメントを攻める「商品MAP」を描く

売上目標をセグメントごとに分解できたら、次は、各セグメントへ投下する商品を選定する。これは経営資源「ヒト・モノ・カネ」のうち「モノ」にあたる領域であり、曖昧にせず、しっかり詰めておきたい。

具体的には「商品MAP」という形で、どの市場をどの商品で攻めるのか、その商品の役割は新規獲得なのか、F2(2回目購入)なのか、リピートなのかを、Excelなどで定めていく。あわせて、たとえば肉まんで5,000万円を作るうえで、ラインナップとして十分な厚みがあるかも吟味したい。

 

④ 市場ごとのKPIを月次で設計する

最後に、セグメントごとのKPIを、3カ年分・月次に落とし込んで設計する。KPIは基本的に、アクセス・転換率・客単価の3つで足りる。これを市場ごとに計画として設計していく。単品リピート通販であれば、新規・リピートの件数をKPIに加えるとよい。

この計画をどこまで作り込めるかが、3年後に年商1億円・広告費率5%へ到達できるかどうかの分かれ目になる。もっとも、最初から月次KPIを精緻に当てるのは難しい。計画と実績に乖離が生じたら、「なぜ乖離したのか」「どうすれば近づけられるのか」を検証し、PDCAを回していけばよい。経験を重ねるほど、市場ごとのKPIは月次でかなり近い精度に寄せられるようになる。

 

 

計画ができれば、あとは「回す」だけ

 

ここまで来れば、3カ年事業計画はほぼ完成である。改めて整理すると、次の4ステップになる。

  1. 3カ年の売上目標を設定する
  2. 3C分析を用いて、売上目標を市場(セグメント)ごとに分解する
  3. セグメントを攻める商品群を「商品MAP」として設定する
  4. 3年分の市場ごとのKPIを月次で設計する

あとは、月次のアクションプランと実行管理体制を整え、PDCAを回していくだけだ。月次で目標を達成し続ければ、日々投じるヒト(労働力)とカネ(広告費)が、3年後の年商1億円・広告費率5%へと着実につながっていく。

LP改善も広告運用も、それ自体が無意味なわけではない。3カ年事業計画という設計図の上に置かれて初めて、その投資は成果へと結びつく。食品メーカーが楽天で伸び悩む最大の原因は、施策の巧拙よりも、この設計図の不在にあるのではないだろうか。

なお、月次アクションプランの立て方や実行管理体制、PDCAの具体的な回し方については、改めて、毎月の売上目標を必達させるメソッドとして整理していきたい。