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Amazon Freshは日本で生鮮食品市場を切り開けるのか?リリースから現状までを振り返る

Amazon Freshは日本で生鮮食品市場を切り開けるのか?リリースから現状までを振り返る

トレンド
2018/02/08

Amazon Freshは日本で生鮮食品市場を切り開けるのか?リリースから現状までを振り返る

 

日本では2017年4月21日からサービスを開始したAmazon Fresh。生鮮食品がAmazonで注文できるということで注目を集め、現在でもサービスを継続している。しかし日本では、楽天との提携が発表されたウォルマート傘下のSEIYUイトーヨーカドーなども生鮮食品のオンラインサービス、いわゆるネットスーパーを展開しており、Amazon Freshはいまいち定着しきれていない印象である。生鮮食品のEC市場において、今後覇権を握るのはAmazon Freshなのか、それとも他のネットスーパーなのか、現状を元に分析していく。

 

<参考>

楽天とウォルマートが提携、楽天西友ネットスーパーの運営を今夏にスタート、Koboを米国展開へ

ネットスーパーは店舗の商圏を拡大できるか - 独自配送網の諸刃の剣

 

 

Amazon Freshとはどのようなサービスか

 

Amazon Freshは、Amazonが展開するプライム会員向けの生鮮食品配送サービスである。Amazonプライム会員であれば追加費用なしで利用でき、さらに月額500円を支払いAmazon Fresh会員に登録することで、配送料無料でサービスを受けられるようになる。通常の配送との最大の違いは、Amazonが自社配送を行っている点だ。

 

新料金プラン導入でどのように変わったのか

2019年9月12日に料金プランが改定され、利便性の向上が図られたAmazon Fresh。以前はプライム会員であることに加えて月額500円を支払いAmazon Fresh会員に登録しなければならず、敷居の高さは否めなかったのだが、この改定によりプライム会員であれば追加会費なしでも利用できるようになった。プライム会員、プライム+Amazon fresh会員ともに最低注文金額は4,000円と共通だが、前者は配送料が390円かかるのに対し、後者は配送料が無料という違いがある。プライム会員でも10,000円以上の注文であれば配送料無料になるが、日常的な買い物の範囲で10,000円を超えることはあまり考えられないので、実質的には送料390円を支払って利用することになるだろう。

月2回以上利用するのであればAmazon Fresh会員に登録する方が経済的だが、プライム会員のみであっても必要に応じて利用できるため、間口が広がり使いやすくなったと評価することができる。

 

Amazon Freshの強み

Amazon Freshの最大の特徴は、その配達の速さである。注文から最短4時間で商品が発送されるほか、配達時間の指定範囲が午前8時から深夜0時までの2時間刻みと幅広い点も特徴的だ。生鮮食品以外にも冷凍食品や日用品、雑貨など様々な商品を購入でき、値段も一般的なスーパーとさほど変わりはないようである。また、多数の専門店と提携しており、こだわりの食材を取り寄せることができる。実店舗やネットスーパーではなかなか購入できない高級食材や有機野菜などを注文し、その日のうちに自宅に届くことは、Amazon Freshの大きなメリットといえるだろう。

 

もう1つは、Amazon Freshの生鮮食品はプライム会員向けのセール「プライムデー」の対象となるため、割安で購入できるチャンスがある点だ。プライムデーでは人気の食品や高級食材などが最大50%OFFとなるほか、それ以外のセールやキャンペーンでも一部商品が20%OFFになるなど、一般的なネットスーパーと比較して価格面のメリットがある。プライムデーを含め、プライム会員のサービス内容自体がかなり充実しているため、その中に生鮮食品のカテゴリが増設されたと考えるとイメージしやすいだろう。

 

<参考>

ECの即日配達サービスの限界への挑戦 - 頼んだものがすぐ届くのが当たり前の未来はやってくるのか

 

 

Amazon Freshの弱み

まず、サービス対象範囲が狭いことが挙げられる。現時点(2021年1月)での対象エリアは、

東京都 : 世田谷区・目黒区・千代田区・中央区・台東区・墨田区・江東区・渋谷区・品川区・大田区・港区・杉並区・新宿区・文京区・荒川区・足立区・葛飾区・江戸川区・調布市・狛江市

神奈川県 : 川崎市(高津区・中原区・多摩区・宮前区・川崎区・幸区・麻生区)、横浜市(西区・神奈川区・港北区・中区・都筑区・緑区・鶴見区・南区・磯子区・保土ケ谷区・旭区・青葉区)

千葉県 : 浦安市、市川市

となっており、東京・神奈川・千葉の一部地域に対象エリアが限られている。これは、配送拠点がプライムナウ拠点と川崎市高津区のフィルメントセンターとなっているためである。

もう1つは、不在時の再配達が不可能で、注文した商品が返品扱いになってしまうことである。一般的なネットスーパーよりも時間指定の幅は広く設定されているものの、当日中の再配達ができず問答無用で返品されてしまうため、ライフスタイルによっては利用しづらいシステムとなっている。また、生鮮食品という特性もあり、置き配指定や宅配ボックスへの配達にも対応していない。しかしながら、一部のネットスーパーは当日中の再配達や置き配に対応しているところもあるため、今後の改善に期待したいところだ。

 

<参考>

Amazonフレッシュ、配送対象エリアを東京6区から18区、千葉県と神奈川県の一部地域に拡大

 

 

Amazon Freshの展開の歴史

 

Amazon Freshは2007年にシアトル等のアメリカの一部地域から試験的にサービスが開始され、その後アメリカの各主要都市に拡大しているものだ。イギリスでは2016年7月にロンドンの一部地域で開始され、現在はサリーおよびハンプシャー地域でも展開されている。日本以外の展開を見ていくと、日本での導入後にドイツのベルリンとポツダムへ。また、オーストラリアでサービスを開始するというリリースも出されている。しかしながら最新動向として、2017年11月にアメリカのニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルバニア、デラウェア、メリーランド、カリフォルニアの各地域でAmazon Freshのサービスを停止したとを発表している。これは合衆国郵便公社(USPS)との関係が影響しているようだ。上記の地域ではUSPSが多くの配達を担当していた。しかしUSPSは食料品を所定の時間で配達出来ないことが多く、また人口密度の低さから事業の経済性が困難であるとのことで停止に踏み切ったようだ。

 

 

ネットスーパーとの違いから見るAmazon Freshの今後

 

それでは、現時点での、Amazon Freshとネットスーパーはどのような違いがあるのだろうか。イトーヨーカドーネットスーパーを例にとり比較していく。

 

Amazon Freshは商品数の多さ、配達可能時間の柔軟さで優位に立っている。しかしながら、送料、配達可能地域ではネットスーパーの方が優れており、日本全国には浸透しきれていないことがわかる。具体的に見てみよう。

▲イトーヨーカドーのトマトカテゴリページ

▲Amazon Freshのトマトカテゴリページ

Amazon Freshとイトーヨーカドーオンラインショップ(西日暮里店1/30時点)の「トマト」カテゴリの商品一覧ページを見てみると、商品数はAmazonでは41商品あるのに対しイトーヨーカドーでは11商品となっている。一方トマト1個の最安値を比較するとAmazonが139円、イトーヨーカドーが119円となっており、イトーヨーカドーの方が若干の割安となっている。また、ラインナップもAmazonの方が高級感が若干ある商材が並んでいる。このように、Amazon Freshよりも既存のネットスーパーの方が対象地域、値段共に優れており利用のハードルは非常に低い。裏を返すとAmazon Freshは魅力的な高級食材や有機野菜を取り揃えることで富裕層をターゲットとしているような印象だ。

 

 

アメリカと日本の違いから考える日本Amazon Freshの可能性

 

アメリカから始まったAmazon Freshだけに、アメリカと日本の文化の違いという問題もありそうだ。アメリカのAmazon Freshに関わる環境について少し見てみよう。

 

生活の違い

まずアメリカと日本の最大の違いとして「面積当たりのスーパーマーケットの数」と「1店舗あたりの店舗面積」の差が挙げられる。アメリカでは日本ではほとんど目にすることがない規模の「超」大型のスーパーマーケットが主流となっている。また面積当たりのスーパーマーケットの数も日本に比べて少ない。つまり生鮮食品を買う際にはスーパーマーケットへの移動と店舗内での移動に手間と時間がかかることになる。その為アメリカでは週末に1週間分の食材をスーパーマーケットでまとめ買いし、平日は少ない買い物のみという家庭が一般的だ。一方日本では郊外でも数多くのスーパーマーケットがあり、また最近では生鮮食品を扱うコンビニエンスストアも身近に多くある。毎日スーパーで買い物をする主婦も少なくないのである。つまり、日本ではアメリカと異なりわざわざネットを経由せず直接生鮮食品を買いやすい環境があると言える。

 

ホールフーズ買収

2017年、アメリカのAmazonが高級スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)」を買収。アメリカでも浸透が思うように進まないAmazon Freshのテコ入れのための買収だとの声が多く聞かれた。2017年8月に買収完了したが、米ワンクリックリテールによると、翌9月からの4カ月間での、米Amazon Fresh売上は、1億3,500万ドルでり、前年比35%増となるなど買収の成果はすぐに数字に表れている。またAmazonは「365 Everyday Value」というホールフーズの自然食品PBの販売を開始するなど、生鮮食品の施策を立て続けに行っている。アメリカでは、スーパーの生鮮食品の質が日本ほど高くなく顧客がより良い質を求めておりそのような層にホールフーズの商品は支持されていた。顧客の生鮮食品の配送に対しての不安をホールフーズのブランド力でカバーしたとも言える。

 

<参考>

【米国】AmazonがWhole Foodsを買収した後の影響

 

このような背景から、Amazon Freshが日本で定着するのはもう少し先になりそうだ。料金プランの改定で利便性は向上したものの、サービス対象範囲の狭さや再配達非対応などの弱みは依然として残っており、現状では都市部の富裕層向け、もしくはプライム会員のオプションサービスに留まってしまうだろう。まず解決すべきは販売範囲拡大だが、それによって得られる利益が必要なコストに見合うかは疑問である。アメリカと比べて日本ではまだまだ生鮮食品のEC自体が認知されていない状況であるのも、定着が進まない大きな理由の一つだろう。都市の富裕層に向けて更にサービスを拡充していくのか、それとも一般層にむけて価格競争、販売範囲拡大へ進むのか。今後に注目したいところだ。