アメリカの最先端スタートアップに見る、日本の今後3年のEコマース関連サービスのゆくえ
日本市場より3年ほど先を行っていると言われるアメリカのスタートアップ市場。この市場を分析することが近未来の日本の市場を予想できうるといわれている。前回の続きとして、近未来の日本市場を予測する方法の一つとして最近シードアクセラレータのYcombinatorやAngelPadなどから資金調達をしたサービスや大型資金調達をしCrunchBaseで取り上げられたサービス、バイアウトしたEコマース事業者を支援するサービスについて見ていく。
<参考>
アメリカの最先端スタートアップに見る、日本の今後3年のEコマース市場のゆくえ
テクノロジーをもとにEコマースショップの売上に貢献するサービス
Amplience
Amplienceは2015年3月26日に1050万ドル(SeriesB)の資金調達をしたばかりのスタートアップだ。
AmplienceはSaasをベースとしたプラットフォームで、最新のテクノロジーをスキル不足などが原因でなかなか活かせないマーケティングチームに対して、非常に簡単に最新テクノロジーを生かしたオンラインキャンペーンの実施やメディアを提供するサービスだ。例えば、Eコマースのチームに対してAmplienceのプラットフォームを提供することで、良いコンテンツを簡単に作成することが可能となり、重複するコンテンツを削減するなどメディア運営の効率化が可能となる。
ほかにはユーザーフレンドリーなコンテンツを提供できるようにするために、よりリッチなメディアの導入も可能で、様々な施策を打てるのが特徴だ。インタラクティブな操作が可能なショッピングに適したコンテンツ画面を作成でき、UGC(=User Generated Content:Naverまとめなどのユーザーによって制作されたコンテンツ)にすることを容易にしたり、動画を提供ベンダーとコラボしたりすることもできる。これらは商品詳細画面からより多くの人をコンバージョンさせる可能性を高めるため、Eコマースオーナーにとっては非常に重宝するサービスといえよう。
Amplienceを取り入れているサイトとしてBoohoo、Charlotte Olympia、Halfordsなど様々なサイトがある。例えばラグジュリーシューズを扱っているCharlotte Olympiaでは、Amplienceのテクノロジーを導入し、リッチでインタラクティブなEコマースサイトとなった。その結果商品ページへのCVRが10%になり、メディアを形成するための時間を90%も削減することに成功し、顧客のエンゲージメント率も34%になった。Charlotte Olympiaのグローバルマーケティング&PRディレクターのTara Ffrench-Mullenは「Amplienceを使うと手軽にアニメーションなどを追加することが可能で、何週間もかけてデザイナーなどに外注するのと比べて、一時間以内にインスピレーショナルなコンテンツを作ることができる」と語っている。
<参考>
ECサイトのメディア化は集客の最終兵器となるか - 最近のトレンドから見えてきた3つの方向性
PICT
PICTはコンテンツ&コマース会社であるPopSugarが2014年1月に買収したスタートアップで、テクノロジーを用いてサイト上にある写真をショッピング可能にするサービスだ。PopSugarが手掛けるものの一つとしてShopstyleというサイトがあるがその中でPICTのテクノロジーが使われている。
共同創業者でありCEOのBrent Locksはかつてインタビューの中で「PICTはB2B用の出版と分析をするプラットフォームでショッピング可能な写真を自由にSNSでシェアすることができ、またすぐに買いたくなった場合もすぐにECサイトに戻りやすくすることで、オンライン購買を促すものだ」と語っている。これにより、より多くのタッチポイントで購入機会を増やすことを可能にしている。Facebook上で写真にタグつけができるようなシンプルさをPICTでも同様に実現できるようになっている。他のショッピング可能な写真を生成することをサービスとした競合他社と比べるとPICTは特にモバイルにフォーカスをおいており差別化をはかっているのも特徴だ。
テクノロジーで顧客とのコミュニケーションを活性化するサービス
The Shelf
AngelPadから2013年春に資金調達を受けたThe Shelfはビッグデータ、機械学習、バズマーケティングなどを促進させるサービスだ。
The Shelfは発見・調査・発信・分析という、バズマーケティングのはじめから最後までを包括的に網羅して対応することができるのが特徴だ。具体的には20万人以上のブロガーのデータベースがあるので、そこから適切なインフルエンサーを抽出しマーケティングを行うことができる。特別なサーチエンジンによりサイトごとに最も適切なインフルエンサーを短時間で探すことができるので、今まで適切なブロガーを探すことに時間をかけ、苦労していた人達にとっては素晴らしいサービスといえる。例えば、地域、フォロワー数、エンゲージメント率、どのようなブランドについてよく発信しているかなど様々な観点からフィルタリングをかけることが可能となっているため、そこからマーケティングのためのキャンペーンの施策を、ブロガーを巻き込みながら打つことができるのだ。様々なSNS(Facebook、Pinterest、Twitter、Instagram)やブログなどからのエンゲージメントを測定をすることも可能となっているのも心強い。またそれぞれの施策に対してリアルタイムでの分析や、自社のブランドに対してのモニタリングを行うことも出来るため、バズコミマーケティングの包括的なプラットフォームとして活用していくことが出来るだろう。
ShopLogic
ShopLogicはAngelPadから出資を受けた後、2013年にBloomreachに買収された。
ShopLogicはサイト上での顧客のアクションや購買履歴などのデータを用いて、ショップオーナー側のプロモーションをよりスマートにさせるサービスだ。国内でも昨年頃からよく聞くようになってきたマーケティングオートメーションや、接客サービスの先駆け的な存在と言える。考え方はシンプルで、顧客が見たくもない時のプロモーションやディスカウントなどをなくし、価格設定とインセンティブ設計を最適化することで、顧客のニーズとショップオーナーのシーズの乖離をなくしていくというものだ。インセンティブは時に利益を減じる結果になってしまうことがあるがこのサービスは顧客のライフサイクル全体を通して最も利益が出るようにするため、非常にROIも高い。すでにサービスとしては買収されBloomreachの一部となっている。
<参考>
ECサイトでも使えるマーケティングオートメーションサービスを4つのセグメントで整理してみた
決済の可能性を追求するサービス
Celery
一風変わったサービスとして、Ycombinatorから2012年夏に投資を受けたAirbrite社が展開するサービスであるCeleryを紹介する。
概念としては少し分かりにくいかもしれないが、“プリセールス”という1ステップでオーダーを先に完結させ、後にシッピング先や他の情報を集め、お金を支払わせるというペイメントフォームだ。これにより、ECサイト事業者はより高いCVRを達成させることが可能となる。後払い決済ならぬ先払い決済という、決済の盲点をついたような流れをユーザーとECサイト事業者に提供している。デザインもシームレスに物事が完結するようになっていて、それぞれのサイトに対してカスタマイズしたデザインを届けることができ、もちろんモバイルにも対応している。
またペイメント以外にも、様々なサポート機能を有しており従来のペイメントサービスであるPaypalやStripeを増強するような形になっている。
Celeryに登録してからペイメントをセットアップするときに、Stripe、Paypal、Affirmを選択することからバックではこれらのサービスを利用していると考えられる。
つまりPaypalなどのような普通のペイメントサービスをより機能を増やして導入したいというユーザーに向けてのサービスであるということがわかる。手数料としてはPaypalやStripeの手数料に加えて2%の追加料金がかかる。このようによりCVRをプリセールスであったり、追加機能で上げることを目的に導入するサービスといえる。
<参考>
新たな決済サービスLINE Pay・SPIKEと世界標準のPaypalは日本のEC決済の常識を覆すのか
Ribbon
最後に紹介するRibbonは、AngelPadから2011年に資金調達し、2013年2月にも163万ドルの資金調達をしたオンラインのペイメントプラットフォームだ。
Ribbonは全てのデバイスでお金を送ったり受け取ったりすることが可能となるサービスだ。ユーザーは誰でもアクセスすることが可能なプロフィールページから、デビットカードとクレジットカードからお金を送受金できる。現時点においては招待性となっている。Linked Inなどのサービスの浸透により、アメリカでは4人に1人がフリーランサーであるといわれている。そのような環境もあり、Ribbonはよりフリーランスが活動しやすいようにソリューションを提供しているというポジショニングを得ることに成功しているのだ。
よりリッチでモバイルファーストのコンテンツ、テクノロジーでの自動化の時代へ
このようなサービスを見ていくと、今後さらにPCからスマートフォンへユーザーとECサイト事業者の主戦場は移行していくことが前提となっていることがわかる。かつてはモバイルデバイスではあくまで情報収集という要素が大きかったが、購買に関してもユーザーの心理的障壁が低くなっておりより市場としては拡大していくことは規定路線となっている。さらなるブロードバンド化や、CPU性能の向上や同じ時間内に処理できるデータ量の拡大に伴いよりリッチなサイトとして動画やインタラクティブなUIが購買を促す方法として使われていくだろう。
またシンギュラリティ(技術的特異点)などの話題が科学技術界隈を賑わせているが、Eコマース市場も無縁ではなくなってきている。機械学習などのテクノロジーを用いてマーケティングや顧客の動向把握など様々なデータを自動的に解析して施策を打っていく全自動化の時代へ、Eコマースの運営も進んでいくであろう。Eコマース関連の膨大なデータの分析などの数字的定量的部分に関しては、定性的で人間の判断が必要とされることよりも機械のほうがうまくやっていけるというところがあり、またもちろん効率的であるからに他ならない。
ECに限らず時代の傾向に即したモバイルファースト、機械学習などのテクノジーはどの分野にも及んでおり、今後も時代のトレンド×ECサイトという組み合わせで勢いづけていくスタートアップは多く増えて行くのではないかと考えられる。
<参考>
ECサイトでのマーケティングオートメーション元年がやってきた - 前編:ECサイトでもマーケティングオートメーションが重要な4つの理由
ECサイトのマーケティングオートメーション元年がやってきた - 後編:ECサイトでマーケティングオートメーションで成果を上げる5つのポイント
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文責: eコマースコンバージョンラボ編集部 Kenji Oda
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