ゼロクリック検索とAIアシスタントは、オンライン上の価値の流れを変えつつあり、パブリッシャーとブランド双方に新たな戦略を迫っている。
Webはかつて「注目(アテンション)」の市場として機能した。しかし今や、それは「意図(インテント)」の市場となりつつある。大規模言語モデルは、ユーザーが入力した内容だけでなく、その意図も理解する。ユーザーの意図に直接回答することができるため、回答を見つけるために利用者をWebサイトへ誘導する必要はもはやなくなった。
20年以上、Webは暗黙の取引関係の上に成り立ってきた。クリエイターはコンテンツを制作し、検索エンジンは対価としてトラフィックを分配していた。人々はWebで知識をシェアし、Webは可視性をもたらした。
この取引はデジタル経済を構築し、ジャーナリズムをビジネスとして成立させ、ブランドを成長させてきた。それぞれの記事やレビュー、チュートリアルは、いわば、相互性を基盤としたシステムの中で交わされる小さな「握手」のような役割を果たしていた。しかし、その握手が今、ほどけつつある。
Claude、ChatGPT、PerplexityのようなAIアシスタントは、今や自力で回答を生成する。AIアシスタントは世界中のコンテンツを参照するが、利用者をその情報源へ誘導することはめったにない。Googleの「AI Overviews(AIによる概要)」機能は、ページ全体の要約を検索結果に直接表示する。チャットボットはクリックなしで回答し、多くの場合、出典も示さない。
かつては均衡が取れていた関係が、今や一方に傾いている。その影響はビジネスモデルによって異なる。コンテンツそのものを商品として収益を得る企業もあれば、コンテンツを手段として、別のビジネスで収益を得る企業もある。簡単に言えば、コンテンツとは「商品」か「プロモーション」のいずれかであり、これは「コトラーの4P」(マーケティングの父とも称されるコトラー氏が提唱した商品:プロダクト、価格:プライス、流通:プレイス、販促:プロモーションの頭文字を取ったマーケティングの操作可能な4要素)でおなじみの区分である。
- パブリッシャーにとって、コンテンツは商品である。
- ブランドにとって、コンテンツはプロモーションである。
ゼロクリック検索:「回答を見つける」から「回答を得る」へ
私たちはすでにゼロクリック時代に突入している。「Webサイト上で答えを見つける」から、「検索ページ上で直接回答を得る」時代へと移行しているのだ。ゼロクリック検索とは、ユーザーがプロンプトを入力するだけで、何もクリックすることなく結果を受け取ることができる検索だ。AIアシスタントや検索エンジンは今や、スニペット、ナレッジパネル(Google検索を行う際に、検索結果の上部に表示される情報ボックス)、回答ボックス(検索結果の上部に表示され、質問に対する直接的な回答を抽出して表示する機能)、計算機、地図、定義、そしてAIが生成した要約などに依存している。実際、ユーザーはクリックして外部サイトへ移動することなく、必要な回答を入手している。
正確な数値を特定することは難しいが、あらゆる一次資料が同じ傾向を示している。主流はゼロクリック検索なのだ。米国のソフトウェア企業でオーディエンス調査ツールを提供するSparkToroは、2024年時点で59% に達すると推定している。イスラエルに本社を置き、アクセス解析ツールを提供するSimilarwebによる2025年初頭のデータでは69%と示されており、同じくSimilarwebによる2025年5月の分析では83%に達したと報告されている。これらの数字を総合的に見ると、明らかな変化の軌跡をたどることができる。
この変化の背景にある交換レートこそが、真実を物語っている。かつては健全だったが、Cloudflare(米国に本社を置き、コンテンツデリバリネットワークやインターネットセキュリティサービス、DDoS防御、分散型ドメイン名サーバシステムを提供する企業)によると、今や限界点に達しているという。
検索エンジンの場合
- 10年前:1アクセスを送客するために、2ページをスクレイピング(Webサイトからデータを抽出すること)
- 6か月前:1アクセスを送客するために、6ページをスクレイピング
- 現在:1アクセスを送客するために、18ページをスクレイピング
AIエンジンの場合、その差はさらに広がっている
- OpenAI(ChatGPTなどAIの研究開発を行う米国の機関):1アクセスを送客するために、約1,500ページをスクレイピング
- Anthropic(ClaudeなどAIの開発を行う米国企業):1アクセスを送客するために、約60,000ページをスクレイピング
OpenAI、Claude、PerplexityのようなAI企業にとって、これは大きなプレッシャーを生む。最も価値のあるリソースである、「人間がキュレーションもしくは作成したコンテンツ」の維持が難しくなるのである。AIは自身の情報源を食い尽くそうとしている。だが、ブランドやパブリッシャー、クリエイターにとっては、そのプレッシャーはより深刻で、存在そのものに関わる問題だ。もはや、努力したからと言ってトラフィックが返ってくる時代ではない。
パブリッシャー:コンテンツは商品
ニュースサイトへのオーガニックトラフィックは急激に減少している。米国に拠点を置くニュース配信サイトBusiness Insiderのようなクリエイターやパブリッシャーは、2022年4月から2025年4月までの間に50%以上の減少を経験している。このパターンは業界全体で繰り返されている。次のSimilarwebの図が示すように、オーガニックトラフィックが減少する一方で、ゼロクリックの回答が増加している。AIは、ソースとなる「素材」を食い尽くす。つまり、コンテンツを消費するが、オーディエンスを情報源へ返さないのだ。
ニュースサイトへのオーガニックトラフィックとゼロクリック検索比率の推移
(米国、パソコンおよびモバイル、2024年1月~2025年5月)

これによって、パブリッシャーは新たな立場に置かれている。彼らのコンテンツはただのプロモーションではない。彼らの専門知識そのものを商品として販売しているのだ。プラットフォームが価値だけを搾取して、ユーザーを送り返さない場合、その商品は市場を失うことになる。
パブリッシャーは新しい収益モデルで対応している。目的は同じである。プラットフォームがトラフィックを還元せずに価値だけを得ているのであれば、パブリッシャーはそれらのプラットフォームの価値の源となっているコンテンツに対して対価を求めるというものである。
その1つが「有料クロール」というモデルである。CloudflareのCEOであるMatthew Prince氏はこれを「ペイ・パー・クロール(Pay per Crawl)」と呼んでいる。サイトをスクレイピングするボットは、訪問するたびに料金が発生する仕組みだ。Cloudflareはすでに、Webトラフィックの大部分が通過する位置に存在しており、このルールをインフラレベルで適用することが可能である。
これは変化の兆しである。パブリッシャーは直接の交換関係を望んでいる。AIシステムが人間の作成したコンテンツに頼るなら、その作成や維持にかかるコストを分担すべきだ。これらは、Web上のパブリッシャーとクリエイターのための新たな交換レートに向けた初期段階の取り組みである。
ブランド:コンテンツはプロモーション
かつての世界では、ブランドは検索によって「発見してもらうため」に記事を書いていた。SEO(検索エンジン最適化)は、可視性を報酬として与えた。専門性とは、Googleで上位に表示されることを意味していた。しかし、そのモデルは急速に変化しつつある。ブランドは現在、人間だけでなく、言語モデルを含む機械に向けても記事を書くようになっている。
この変化は、コンテンツの役割そのものを変える。キーワードの重要性は下がり、文脈に応じた専門性と権威性がより重要になる。ブランドは、AIモデルがその意図と文脈を理解できる方法で記述しなければならない。質の高いコンテンツは、マーケティングキャンペーンの単なる燃料ではなく、機械が理解するための基盤となるのだ。
マーケティングチームは今や、検索ではなく要約されることを前提に最適化している。これはSEO分野を変革する。オランダと米国に拠点を置くオンラインデータベースプラットフォームMartechMap.comの2025年5月のデータによると、これがいかに急速に進んでいるかが分かる。SEOツールは衰退するどころか、49のサブセグメントで他のどのカテゴリよりも急速に成長している。
2025年・2024年、成長率上位10のマーケティングテクノロジー

統計は明確だ。SEOカテゴリが爆発的に成長している。この急増は、既存および新規のSEO企業が新たな技術に対応する機能を提供し始めたことによるものだ。この新しい技術は、「生成エンジン最適化(GEO)」、「AI最適化(AIO)」、「言語エンジン最適化(LEO)」といった名称で登場している。その考え方は単純だ。コンテンツはAIが解釈、引用しやすいものでなければならない。アルゴリズムが新たな編集者となって、どのアイデアが成功し、どのアイデアが消えていくのかを決定するのだ。
ブランドは新しいWeb経済に突入した。コンテンツは人間と機械の両方に向けて書くものとなった。コンテンツの価値は、AIにどれだけうまく吸収されるかに依存する。そこでの交換レートは、意図(インテント)に基づく専門知識である。
今後の道筋:市場に値付けされる前に自ら動け
現在、2つの新しいモデルがこれからのWeb経済を形作りつつある。
- コンテンツを商品とするモデル(パブリッシャーおよびクリエイター)
この変化は構造的なものである。かつては、検索エンジンからWebサイトへとトラフィックが流れていたが、今では、AIシステムはインタラクションを囲い込むようになっている。「見つけてもらうため」に執筆するのではなく、「要約されるため」に書く必要がある。新興モデルは、クリエイターの専門知識が利用された場合、その対価が払われることを目指している。 - コンテンツをプロモーションとするモデル(ブランドおよび企業)
露出だけでは、もはや対価として機能しない。ブランドは、モデルがその領域での専門的立場をどのように解釈するかを積極的に形成していかなければならない。SEOはGEO、AIO、LEOといった新たな手法へと進化しており、アルゴリズムが編集者の役割を担っている。
AIは新たなルールが整うのを待たない。だからこそ、パブリッシャーは、コンテンツへのアクセスの価値を自ら定義しなければならない。ブランドは、AIモデルがそのブランドの専門性をどう理解し、どう位置付けるかに影響を与えなければならない。プラットフォームは、依存する情報源への対価の仕組みを定義しなければならない。
次世代Webの交換レートは、今まさに書き換えられている。早い段階で条件を定義した者はその価値をコントロールでき、そうしない者は、価値を押し付けられることになるだろう。