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【米国】Amazonの著しい成長の中、従来の小売業者はオンラインで生き残れるのか

【米国】Amazonの著しい成長の中、従来の小売業者はオンラインで生き残れるのか

トレンド
2017/07/26

2017年度第1四半期、米国でのオンライン販売総売上高の40.9%を占めたAmazon。一方、オンライン小売業者第2位のBest Buyのシェアは3%にも満たなかった。

AmazonのCEOであるJeff Bezos氏は、Amazonのeコマースサイトの関連ニュースを、マスコミに大きく取り上げさせるコツを心得ている。先週、同社はWhole Foodsを買収したと発表し、その前にはビジネス向けチャットツールのスタートアップSlackの買収を検討しているという噂もあった。そして今は、Amazonのオンライン収益の市場シェアが拡大を続ける中、Amazon Prime Day(プライム会員の特別セール)を目前に控え、業界専門家たちの大きな注目を集めている。

 

<参考>

【米国】Whole Foodsを137億ドルで買収したAmazonの今後のビジョンを占う

【米国】AmazonがWhole Foodsを買収した後の影響

Amazonプライム会員向けセール「プライムデー」を7月11日に開催

 

 

Amazonは、2016年のホリデーシーズン に、オンライン販売総売上高の38%を占めた。さらに、2017年度第1四半期には、ホリデーシーズンをも上回る40.9%までそのシェアを拡大した。このデータは、消費者がオンライン上のどのサイトで何を購入し、オンラインショッピングの動向がどのように変化しているのかを追跡するeコマース市場調査会社Slice Intelligenceによるものである。トップ10のオンライン小売サイトのうち、Amazonのオンライン販売における市場シェアはほぼ半分を占める。一方で、2017年度第1四半期における、Best Buy、Target、Walmart、Macy’s、Nordstromなどの残りのトップ9のサイトのシェアは、それぞれ3%未満に過ぎない。

▲Slice Intelligence: Q1 2017 online sales market share

 

なぜ、アマゾンは圧倒的に優位なのか

Slice Intelligenceの主席アナリスト兼副社長であるKen Cassar氏は、「他の小売業者が、多様なカテゴリでAmazon並みの商品数を揃えることは不可能だろう」と述べている。Cassar氏はAmazonの市場独占の最も重要な要因として、競争力のある価格や幅広い商品セレクションよりも、常に新しい配送方法を発明し探求する姿勢を挙げた。同氏は、「Amazonが、利便性とは何かということを明確に定義してきたことは、何よりも重要なことだと考える」と述べている。「Amazonは価格競争力を維持しているが、ここ数年は最低価格で商品を提供することに固執していない。Amazonが、常に安い価格で商品を提供していることは、消費者に知られている。しかし、勝つためには絶対に最低価格で商品を提供する必要があると考えていた10年前と違って、現在のAmazonは、消費者にとってより重要なのは利便性であることを認識している」と言及した。

eコマースプラットフォーム会社Radialが2016年12月に発表した消費者調査によると、Amazonの顧客がAmazonで買い物をする理由として、「価格面」が依然として上位に挙げられている。1,000人のAmazon顧客を対象としたこの調査。Amazonを選ぶ理由に、38%が商品セレクション、29%が価格、13%が配送スピードだと答えた。

しかしRadialのテクノロジー・サービスのエグゼクティブVPであるStefan Weitz氏も、Amazonがeコマース業界を支配する本当の理由は、利便性であると考える。Weitz氏は、次のように述べている。「Amazonは、eコマースプロセスのあらゆる過程でのフリクション(売上の機会損失に繋がる顧客の手間、ストレスやサービスの断絶)を軽減することに成功している。私の考えでは、Amazonの商品セレクション、配送スピード、価格設定のいずれも、そのフリクションをなくす働きをしている。Amazonの強みは、消費者が買い物を途中で放棄する要因を排除できていることだ。これは、多くの小売店、ブランド、そしてオンライン小売業者も、未だに苦戦していることである」

 

衰えを知らない成長

Amazonが40%のオンライン市場シェアを獲得したことは驚きではないが、Slice IntelligenceのCassar氏曰く、「ここ数年の間のe-コマース業界のどんな出来事よりも、Amazonの着実で継続的な成長に驚かされた。20年前からオンライン市場を観察してきたアナリストとして、成長率について知る限り、40%のシェアを持つほど巨大なAmazonが、流通ルート全体よりも早いスピードで成長することは考えられなかった」とのことだ。しかし、Cassar 氏によると、Amazonは巨大事業者であるにもかかわらず、他のeコマース部門の成長スピードよりも急速に成長を続けている。Slice Intelligenceの市場調査ではAmazonの2017年度第1四半期のオンライン販売シェアは40.9%であったが、同四半期の売上高は前年比で30%の伸びを見せた。彼は、Amazonの成長は異例であり著しいと言う。

▲Slice Intelligence: Year-over-year growth rate for Q1 2017

 

従来の小売業者は対抗できるのか?

Cassar氏とWeitz氏は、従来のオンライン小売業者の入り込む余地はあると考えている。Weitz氏曰く、「Amazonは、フリクションレスコマースを独占していない。実店舗を訪れて、欲しいパンツを選ぶことはできないのだ。現時点で、Amazonは、店舗での商品受け取りや、商品の魅了的なディスプレー、また商品を友好的にまとめる能力も持っていない。Amazonがすでに確立した戦略を真似して、Amazonと同じレベルで競争しようとするブランドは負けるだろう。実店舗への客足、多数の実店舗、魅力あるロイヤルティプログラム、Amazonで取り扱わない商品を仕入れる方法など、“独自の強みが何か”について考える必要がある。 それが他の小売業者がAmazonと競争することができる、また、実際に競争をしているやり方である」。Slice IntelligenceのCassar氏は、Weitz氏と同様の考えを示した。 「消費者が実店舗に来店することなくオンライン上で食料品を注文できるWalmart Groceryは、従来型の実店舗小売業者が既存顧客のニーズを理解し、顧客に誠実であり続けている素晴らしい事例だ。Walmartは、Amazonの戦略を真似ることなく、顧客のニーズに応え、Amazonと競争するまでになった。AmazonがWalmartの戦略に対応を迫られている状況を目にするのは、eコマースの歴史上初めてのことだろう。私は実際のところ、AmazonがWhole Foodsを買収した理由は、Walmart Groceryサービスを急速に立ち上げたWalmartの今後の戦略に脅威を感じたからだと考えている」

Cassar氏によれば、Walmart は2016年に多くの市場でbuy-online/pick-up-in-storeサービス(オンラインで注文した商品を店舗で受け取るサービス)を積極的に展開し始めており、その結果、食料品がWalmartのオンライン販売高の10%を占めるようになったという。

▲Slice Intelligence: Walmart’s quarterly growth

両氏によれば、 Amazonの戦略のもう一つの弱点は、ブランドとの関係にある。

「通常、ブランドと小売店は強固な協力関係にあるが、Amazonとブランドパートナーにおいては協力関係がない。基本的に、Amazonがブランドにその意向を伝えるだけだ」とCassar氏。またWeitz氏によると、RadialはAmazonとの取引から撤退する多くの高級ブランドを目の当たりにしているという。「Amazonのトラフィックと売上に依存することはリスクだと認識したドイツのシューズブランドBirkenstockは、Amazonからの引き上げをし、自社で運営する販売路線に移行しようとした」とWeitz氏。

一方で、ほとんどのブランドは引き続きアマゾンを活用して商品を売り込んでいる。 2017年7月11日、アマゾンは年に一度プライム会員限定の30時間特別セールである第3回Amazon Prime Dayを開催。Amazonの発表によれば、プライム会員は、さまざまな製品カテゴリから何十万点という商品を特別価格で購入することができる。更にAmazonは先日、3点以上の衣類、靴、アクセサリー商品を注文し、届いた商品から自分が気に入ったものだけ購入するという新たな返品サービスである Prime Wardrobeの提供を開始したばかり。Amazonは他のオンライン小売業者にとっては悪夢のような存在だが、消費者にとってのメリットは明らかだ。このeコマースの巨大企業が、提供商品を拡大し、食料品市場のような分野にも深く浸透していく一方で、従来の実店舗小売業者は、Amazonが競争できないサービスを提供し、オンライン買い物客にとっても利益がある環境を作り出す必要がある。

 

<参考>

【米国】Amazonプライム、自宅で試着できる「プライム・ワードローブ」を発表

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の6/29公開の記事を翻訳・補足したものです。