進化を続けるオンライン決済サービス - ここ数ヶ月の動向まとめと今後のトレンド
ここ数ヶ月にわかに決済サービス関連分野がせわしなく動きつつあるようだ。昨年5月に鳴り物入りでサービスの提供が開始されたAmazonログイン&ペイメントだが、その後も順調に導入社数を増やしている。そんな中、決済関連サービスを提供する各社も次々と施策を打ってきている。今回はオンライン決済サービスの新たな流れを占う意味で、ここ数ヶ月のトレンドを見ていきたい。
大手決済サービスの動向
Amazonログイン&ペイメント
Amazonログイン&ペイメントは、Amazon以外のECサイトでもAmazonのアカウントでログインして決済できるサービスだ。2015年5月の提供開始から1年半で、1,000社以上のECサイトが導入するまでになった。
同サービスが消費者から支持されている最大の理由は、Amazonのアカウント情報を利用することで、その都度個人情報を入力することなく決済に進める点だ。またAmazon同様、出品者と顧客間でトラブルが生じた場合、購入代金のうち最大30万円まで保証する「Amazonマーケットプレイス保証」が適用される。ただし、ECサイトの運営者にとってAmazonログイン&ペイメントは導入が繁雑という課題があり、同社は対応したカートシステムを増やすように取り組んできた。2016年4月からは「グローバルパートナープログラム」を開始し、ECサイトのソリューションプロバイダーを公式に認定。現在、フューチャーショップやecbeing、GMOメイクショップなど、30社以上のソリューションプロバイダーがAmazonログイン&ペイメントの急拡大を支えている。ここ最近のトピックスとしては、2016年9月から定期購入機能の提供を開始。新聞などの定期購読や食品の定期宅配サービスなどでもAmazonログイン&ペイメントで支払いができるようになり、メガネスーパーが国内初の導入店舗となっている。また、モバイルでの決済が多いことを踏まえ、2016年10月からはモバイルアプリでも同サービスが使用できるようになった。先月末にはファストファッションモールのSHOPLIST.com by CROOZが日本で初めてモバイルアプリ版を導入した。
<参考>
Amazonログイン&ペイメントは何が凄いのか - 他の大手ID決済サービスと徹底比較してみた
Apple Pay
iPhoneやApple Watchを使って決済ができるApple Payが、2016年10月からついに日本でサービスを開始した。
日本向けに作られたiPhone7、iPhone7 Plus、Apple Watch Series 2にクレジットカードやプリペイドカードを登録するだけで、手軽に決済を行うことができる。登録できるカードの数は8枚までで、これらはWebサイトやアプリ上での決済に利用することも可能だ。カードの登録方法はいたって簡単。対応するカードをカメラにかざし、有効期限とセキュリティーコードを入力するだけで手続きが完了する。連携している電子マネーは、JR東日本のSuica、ドコモのID、JCBのQUICPayの3種類。端末のバッテリーが切れている場合は使用不可だが、通常は機械にかざしたりTouch IDに指を触れるだけで支払いが完了する。もちろんモバイル端末の紛失時のセキュリティも担保されているので安心だ。現在Apple Payへの対応を発表しているのは、ECプラットフォームのBASEやハンドメイドマーケットのminne、じゃらん、出前館、giftee、TOHOシネマズ、日本交通など。Apple Payの上陸により、国内の電子マネー決済の普及が一気に進みそうだ。
PayPal
1998年の設立以来、オンライン決済サービス業界を牽引してきたPayPalは、日本では2010年にサービスを開始した元祖FinTech企業だ。
現在202の国と地域において、決済は100通貨以上、銀行口座への入金は57通貨、支払いの受け取りは26通貨で可能となっている。11月に発表された第3四半期(2016年7月1日~9月30日)の決算では、収益は26.67億ドル、アクティブアカウント数は1.92億人、決済件数は15億件、取扱高の総合計は870億ドル。これは、収益、アクティブアカウント数、決済件数、取扱高のいずれも二ケタ成長という結果だ。
LINE Pay
2014年12月にサービス開始したLINE Payは、LINEのユーザー間で送金をしたり、ネットショッピングや対応サービスの決済を行うことができるモバイル送金・決済サービスだ。
これまで外部企業との連携、ZOZOTOWNやFelissimoといったECサイトの加盟店確保、実店舗でも使えるLINE Payカードの発行など、さまざまな角度から使い勝手の良さを追求してきたが、先月ゆうちょ銀行と連携すると発表した。ユーザーがゆうちょ銀行に口座を持っていれば、キャッシュカード利用の総合口座として登録することができるようになる。今回の連携をもって、LINE Payが連携する銀行は全18行となった。さらに2017年春頃からは、セブン銀行ATMでLINEアプリを用いた現金による入金(チャージ)および出金を可能にすることが発表されている。
GMOペイメントゲートウェイ
顧客は民間企業から国・地方自治体にまで及び、加盟店数は約5万9,000事業所という、業界でも圧倒的なシェアを誇るGMOペイメントゲートウェイ。同サービスが、先月横浜銀行が2017年3月から提供を開始する銀行口座連動のスマホ決済サービス、はまPayを共同開発すると発表した。
はまPayはスマホのアプリから口座引き落としによる支払いができるサービスで、リアル店舗での支払いからECサイトでの支払いまで、あらゆるシーンでの利用が可能となる。一見地味な取り組みにも見えるが、この取り組みは非常に革新的だ。基本的にここで紹介してきた決済サービスはチャージしたり、クレジットカードと紐付いていたり、必ず消費者の銀行口座からはワンクッション離れたところで機能していたが、このサービスは銀行口座直結型だ。中国などの海外などでは主流となっているトレンドだけに今後他の地方銀行にも展開を見据えている同サービスの展開には注目していきたい。
新興決済サービス
コイニー
スマホやタブレットなど、モバイル端末のイヤホンジャックに専用リーダーを差し込むだけでカード決済ができるコイニー。2012年10月のサービス開始以来、中小小売店を中心に開拓を進めてきたコイニーは、類似サービスとの差別化を図るため、これまでさまざまな機能を追加してきた。それらはすべて、対面での決済を効率化するためのものだったが、2016年8月より、EC事業者も対象にしたCoineyペイジの提供を開始した。
Coineyペイジを利用すれば、商品名と金額を入力するだけで決済用のページが作成でき、メールなどで顧客へURLを送信することで請求が完了する。決済後は、相手のメールにレシートが届けられる仕組みだ。これにより、例えば実店舗とECサイトの両方で物販を行っている事業者は、リアルとオンラインの決済をまとめて管理することが可能となる。提供開始当初は日本語のみの対応だったが、旅行業界からの声に応える形で、英語、繁体字中国語、簡体字中国語、韓国語、タイ語の5ヶ国語が追加された。今後は、LINEやFacebookなどのSNSでの共有や、支払期限を設定して自動的にリマインドをかける機能などを提供していく予定とのこと。さらにコイニーは、中国のテンセントが提供するモバイル決済サービス「WeChat Pay」のアクワイアリング(加盟店獲得・契約・管理業務)との契約締結を9月1日に発表。WeChat Paymentは、中国で7億人以上のユーザー数を誇るメッセンジャーアプリ「WeChat」の決済機能で、コイニー導入店舗の訪日外国人対応を強化する狙いだ。年内にサービス受付開始を予定しているが、一般公開に先立ち、東急カードにWeChat Payの提供を開始し、各施設への導入を推進する。
AnyPay
2016年9月にローンチしたばかりのAnyPayは、個人でも手軽に利用できるスマホ決済サービスだ。
初期費用や月額費用は一切かからず、誰でもすぐにアカウントを作成することができるため、飲食店やECサイトの運営者でなくても気軽に利用することができる。例えば、ピアノ教室や英会話レッスンを主宰している個人事業主が、生徒からクレジットカード決算にして欲しいと頼まれることもあるだろう。そんなとき、このAnyPayを使えば簡単にカード決済に切り替え、個人間送金を行うことができるのだ。発行されたQRコードやURLなどのリンクを伝えれば、支払う側はそこから決済手続きを行う。現在は、キャンペーン期間中として決済手数料は無料(月額売上が5,000万円以下の場合に限る)。今後は、年内にもAnyPayからカテゴリ特化型のフリマアプリをリリース予定とのことで、そことの連携でサービスの拡大を狙う。
Stripe
2011年9月に米国で開始したオンライン決済サービス、Stripeが先日日本で正式リリースされた。
Stripeは数行のJavaScriptコードをWebサイトに埋め込むだけで決済機能を導入できるサービスで、世界ではFacebookやTwitterをはじめとした10万社以上に採用されている。最大の特徴は、130を超える通貨に対応している点だろう。例えば、海外向けのECサイトなどを展開する場合、クレジットカードの不正使用被害や各国の通貨対策が懸念材料となるが、Stripeを導入すればこういった問題も簡単にクリアできる。主な機能としては、事業者向けの「Connect」や、決済用のWebサイトに遷移することなくモバイルアプリの購入ボタンで直接決済を完了させられる「Relay」機能、決済ステータスや収益チェックなどの各種管理が行える「ダッシュボード」機能などがある。日本では2015年5月から招待制のベータ版サービスが提供されており、現在ANA、BUYMA、IIJ、KADOKAWAなどが同サービスを利用している。
PAY.JP
2015年9月よりBASEが提供している開発者向けオンライン決済サービスPAY.JPは、手数料率を抑えた新プランを提供すると発表した。
決済回数が多い事業者向けに手数料率を抑えた新プラン「プロプラン」は、VISAとMasterCardであれば決済手数料が2.59%(従来のプランは3%)、AMEX・JCB・Diners・Discover Cardは3.3%(従来のプランは3.6%)で利用が可能。月額1万円は発生してしまうが、VISAとMasterCardの場合は月間250万円以上の決済がある事業者であれば安く利用できる。またこれと同時に、スタートアップを優遇する支援制度「PAY.JP Seed」を開始することも発表。特定のベンチャーキャピタルおよび事業会社の紹介を受けたスタートアップを優遇するもので、申込日より1年間、月額費用無料でプロプランの手数料率が適用される。
ここ数ヶ月の動向まとめと今後のトレンド
EC関連の決済サービスはこれまでそれほど大きな動きがあまりない業界だった。しかし巷にはFintechというキーワードが溢れ出し、EC経済圏以外からも注目を浴びるなど、徐々に活発化してきている。特にAppleやLINEなど決済以外の巨人も事業に参入するなど、ここ数年で競争は激化の一途を辿っている。また店頭でのスマホ決済、銀行口座直結決済など決済手段も多様化し、数行のスクリプトをサイトに埋め込むだけのものや、スマホ以外の端末は使わずに店頭決済できるものまで登場し導入の手間の低減も進んでいる。
ただ、海外と比較するとまだまだ市場の活性化の余地は大きいのも事実だ。例えば日本では個人間決済に関する法規制が今年になってから緩和されたこともあり、まだまだ中国などのいわゆる個人間決済先進国に比べたらサービス内容はお堅いものが多い。今後ECもオンラインだけでなく店頭も含めた様々なチャネルでのトータルでの取り組みが進んでいくことが予想されるが、決済サービスについてもあらゆるボーダーを乗り越えたサービスが登場するのではないだろうか。今後のEC関連の決済サービスの進化に注目していきたい。