D2C全盛の今、ブランドはAmazonとどう付き合っていくべきか
Amazonの流通総額は国内においても年々増加しており、2020年、長らく国内トップだった楽天の流通総額をAmazonが初めて超えた。多くの消費者はAmazonを日常的にオンラインショッピングの際の第一、もしくは第二候補として考え利用しているが、このような状況下で、これまで楽天やAmazonといった大手モールへの出店にそれほど積極的ではなかったメジャーブランドも、ここ数年は積極的な姿勢を見せ始めつつある。そこで今回は、D2Cが声高に叫ばれる今、ブランドがAmazonとどのように付き合っていくべきかを考えていく。
Amazonのベンダーセントラルとセラーセントラルの違い
Amazonに出店・出品する際の形態は、「ベンダーセントラル」と「セラーセントラル」の2種類に大きく分けられる。
ベンダーセントラル
ベンダーセントラルとは、販売主がAmazonに商品を納品し、Amazonに商品販売を一任する販売形態だ。価格や広告、梱包などのすべてをAmazonが行う形態で、生活必需品などの商品単価が低い商品がよく売れる傾向にある。主なメリットは、Amazonが販売を一括で行うため販売プロセスを簡素化できることと、商品購入ページで「この商品は、Amazon.co.jpが販売、発送します」と表示されるので消費者から信頼感を得られ、売上を上げやすいことである。さらに、ユーザーに予約商品や新商品のサンプルを利用してもらい感想をカスタマーレビューとして投稿してもらえるほか、招待制プログラムのAmazon Vineが利用可能であり、商品の認知度アップも狙える。デメリットとしては、Amazonが価格設定を行うため最低価格が変動し利益が予想よりも上がらないケースがあること、Amazon側で商品を買い取ってもらえない場合は新製品の販売ができないこと、注文書作成の基準が厳しく適切な在庫管理を行うのが難しいことが挙げられる。
セラーセントラル
セラーセントラルとは、Amazonの販売システムを借りて、販売主が直接消費者に販売する形態だ。この場合、価格設定から配送までをすべて自社で行うことになる。商品単価が高い商品の販売に適しており、ベンダーで売るよりも利益率が高くなるケースが多い。販売主による価格設定が可能なため、価格や在庫を管理して売上のコントロールを図れるなど、主体的な販促活動を行うことができる。さらに、Amazonの大きな市場において詳細な販売分析を行うことが可能であり、製品の販売状況について細かく知ることができる。フルフィルメント by Amazon(FBA)を利用すれば商品の保管から配送までAmazonに委託でき、煩わしい発送手続きをAmazonに委託可能であるなどメリットは多い。しかし、月額料金が発生するため価格競争力が乏しくなってしまうこと、FBAを利用していないと「この商品は、Amazon.co.jpが販売、発送します」という表示がされないうえ商品保証も自社で行うことになるため、ユーザーが購入をためらう可能性がある点はデメリットである。
Amazonとの付き合い方を考える上での基礎知識
次に、Amazonに出店する上で、必要な基礎知識を2つ紹介する。
Amazonの商品情報(ASIN)の持ち方
Amazonは、他の多くのショッピングモールやマーケットプレイスとは異なる商品情報の持ち方をしている。ASINとはAmazon Standrd Identification Numberの略で、Amazonグループが取り扱っている書籍以外の商品を識別するために割り振られた10桁の番号である。商品を特定するために世界共通の番号をつけることで海外製品を手配できるようになるのと同時に、一つの商品に対して原則一つの商品ページで表示することが可能になる。便利な反面、消費者は自分がどの店舗を利用しているかについての意識が低くなり、競合のいる中で同一商品を販売した場合に価格の低い方が購入される傾向が強まるため、企業やブランドへの愛着を持ちづらくなってしまう。購入者を獲得できた割合をカート獲得率というが、Amazonで販売するにあたっては、このカート獲得率が重要な指標の一つとなる。この指標はAmazonセラーセントラルにログイン後、レポートから確認することができる。Amazonを活用する場合は、これを見ながら販売戦略をしっかりと練っていく必要があるだろう。
Amazonブランド登録
Amazonで販売することには多くのメリットがあるが、もちろん問題も存在する。ブランドから許可を得ていない非公式な販売者の存在や、偽造品の流通、最低広告価格(MAP)違反など、いずれもブランドがAmazon上で健全な運営を行う際の妨げとなるものだ。これらは時間の経過とともにブランドの侵食につながる可能性があり、長期的なパフォーマンスに悪影響を及ぼすことになる。それらを避けるためには、ブランド側で多くの手段を講じることが必要不可欠だ。その手段の一つが、このAmazonブランド登録である。Amazonブランド登録をすると、Amazonの商品詳細ページでテキストや画像を使用したブランドストーリーや商品の紹介、コンテンツの利用が可能になる。さらには3点までの商品を無料で広告掲載できるほか、検索キーワードや購入者の行動がわかるデータレポートをまとめたAmazonブランド解析が利用可能になる。これによって偽造品から自社製品を保護でき、登録商標の保護もしやすくなるため、Amazonで成功を掴みたい販売主にとってブランド登録は必要といえるだろう。
Amazonから撤退したブランド
Amazonとの適切な付き合い方はブランドによってそれぞれだ。ここでは、Amazonからの撤退という選択をしたブランドを見ていこう。
ナイキ
スポーツ関連商品の大手「ナイキ」は2017年夏にAmazonでの取り組みを強化したが、2年後の2019年にAmazonから撤退している。以前から偽造品の流通に頭を悩ませていたナイキは、偽造品に対する監視をAmazonが強化する代わりに、限定モデルのシューズやアクセサリーなどをAmazonで販売する取り組みを推進していた。しかし、第三者によるナイキ製品の大量販売、または偽造品の横行をなくすことは難しく、現時点でも対応が完了しているとは言いにくい。さらにその多くがAmazonの収入源になっていたこともあって、Amazonが彼らの排除に積極的になるのも期待できなかった。
一方ナイキの全体戦略として、自社によるECプラットフォームを徐々に拡大し顧客と直接エンゲージメントすることに重きを置くようになり、Amazonでの売上とデメリットを天秤にかけた結果、2019年にはAmazonからの撤退が決定した。現在のナイキは、自社ECやアプリを通じてブランドの完全なコントロールを行うことで、「顧客との直接的かつ個人的な関係」を構築する方針だ。なお、Amazonとの取引を終了した後も、Amazonのクラウド事業やウェブサービス(AWS)に関しては引き続き利用するとしている。
ビルケンシュトック
ドイツのシューズブランド大手「ビルケンシュトック」は、アメリカでは2017年1月より、ヨーロッパでは2018年1月よりAmazonとの直接取引を停止した。こちらも理由はナイキとほぼ同様で、偽造品の排除をAmazon側に期待できなかったためとしている。同社はその後、自社サイトの直販のみに切り換え、D2Cに注力している。
IKEA
世界最大級の家具小売業者である「IKEA」は、2019年11月、アメリカにおけるAmazonマーケットプレイスでの販売を中止した。その理由は明らかにされていない。また、日本においてもAmazonを通じたIKEA商品の公式販売は行われていない。
一般的には自社サイト運営強化を図るほうが利益も大きく、ブランド力の向上にもつながるが、参入ハードルが低く手頃なAmazonからの撤退を選択できるブランドはそう多くない。これらは、偽造品に悩まされるほどのネームバリューがあるブランドならではの選択ともいえるだろう。
ベンダーセントラルからセラーセントラルに移行したブランド
Amazonは2019年からAmazonプラットフォームでの発注額が年間1,000万ドル未満のサプライヤーへの注文を一時的に停止し、一部のブランドの在庫をゼロにして直接販売モデルへと変更した。ベンダーセントラルからセラーセントラルへの移行は販売方法も大きく変化するため、Amazonのエコシステムを理解したうえで戦略的に行う必要がある。例えばセラーの場合、自社対象製品の目標在庫レベルを月間で21日間以上維持すると在庫管理プロモーションが適用され、在庫費用の削減を行うことができるなどだ。うまくFBAを活用することでその商品が有利にランク付けされるうえ、同時にコストの削減も可能になる。このように、Amazonのエコシステムとマーケティングサービスに関する深い理解を組み合わせた戦略によって、ブランドはAmazonでの成功に大きく近づくのである。
以下は、ベンダーセントラルからセラーセントラルへの移行が成功したブランドの例である。
ハヤブサファイトウェア
アメリカ発のMMA総合格闘技ブランド「ハヤブサファイトウェア」は、スポーツの安全性とパフォーマンスを高めるための革新的な商品を扱っている。記事によると、以前はAmazonのベンダーセントラルで出品していたが、価格やコンテンツの十分な管理ができていなかった。しかし、戦略的パートナーと手を組んだことからFBAの活用が可能になり、セラーセントラルへと移行。その結果、平均カート獲得率が12.86%から27.57%に増加し、売上高も前年比603%と大きく増加することとなった。
リトルジラフ
高級ベビー用品や高品質ブランケットなどを扱うカリフォルニア州発のブランド「Little giraffe」は、Amazonでの事業をベンダーセントラルからセラーセントラルに移行した。記事によると価格やコンテンツの管理不足、商品ページの管理不足などが問題だったが、戦略的パートナーと手を組み、FBAを活用したD2Cビジネスに切り替えることで事業の最適化を図った。その結果、収益を低下させることなくセラーセントラルへの移行が完了し、平均カート獲得率も6.74%から44.07%に増加した。
<参考>
Amazonセラーで成功するための、Amazonプラットフォーム戦略
D2Cを行わず、モール中心に展開するブランド
逆に、Amazonなどのモールを中心にデジタル戦略を展開しているブランドも存在する。これは、飲料や低価格帯の生活必需品などはD2Cの恩恵が少なく、モールでの販売が最適解になりやすいためだ。
例えば、世界最大の消費財メーカーである「P&G」や大手消費財メーカー「ユニリーバ」、大手飲料メーカー「アサヒ飲料」などは自社サイトでD2Cを行わず、モールでの販売を中心としている。また、調味料で有名なミツカンは“人と社会と地球の健康”を目指すブランド「ZENB(ゼンブ)」を立ち上げ、2019年にはECサイトを開店しているが、主力商品である調味料などは依然としてモールでの販売を中心としている。また、キユーピーも自社サイト上でおすすめ商品やレシピを紹介する情報サイト「セレクトマルシェ」を展開しているが、商品の販売はAmazonを中心に行っている。
Amazonを適切に活用し、事業を成長させるために
このように、ブランドがAmazonとどのように付き合っていくのか、と言う問いに対する絶対解は存在せず、各ブランドの置かれている状況によって様々な付き合い方が存在すると言うのが現時点での最適解だ。商品価格、商品特性、ブランド認知、偽造品・模造品の有無、競合店舗の販売状況、競合店舗に対する価格コントロールの実現性など、多くの観点から判断をしていく必要がありそうだ。
一方で、Amazonは今後も引き続き、ベンダーからセラーに軸足を移し、セラーの割合をグローバルで増やしていく方針だ。その背景には、価格競争になり利益を減らさければ売れないベンダーよりも、手数料で確実に利益を上げられるセラーの方がAmazonにとって与しやすいという理由がある。しかし、Amazon最大の特徴であったベンダーを減らすことは、その手軽さに目を付けていたブランドのAmazon離れのほか、セラーでは独自の販売戦略が求められるため、結果としてD2Cを加速させていくことになる可能性も否めない。
Amazonで利益拡大を狙うブランドは、収益性と競争力の維持のためAmazon独自の特性や戦略を掌握し、新しい機能やポリシーの変更に適応し続けられるかどうかが成功の鍵となる。販売チャネルが時間の経過とともに再定義されたとしても、今や国内トップとなったAmazonを活用することは、ビジネスの成長を促進する有効な手段のひとつとなり続けるのは間違いないだろう。Amazonの可能性を引き出す戦略を知り、常に実行していくことができれば、Amazonは利益拡大のための確かな礎となっていくはずだ。そのためにも、しっかりとAmazonとの付き合い方を考え、最適解を模索し、活用していく必要があるだろう。