ブレークスルーはあるか。進まない自家用車のオンライン販売、7社サービスを徹底比較
近年、消費者はオンラインでありとあらゆるものを購入するようになり、その心理的な障壁はかなり低くなってきている。しかし、自家用車はどうだろうか。経済産業省によると、2023年の「車」のEC化率は3.64%と物販系分野の中で一番低く、唯一前年度よりも下がっている。カーシェアやライドシェアなどが広まる中、そもそも自家用車を保有しようとする絶対数の減少は避けられない。しかし、購入しようと思った人がオンラインで購入する割合も減っていると言うデータとなっている。そこで今回は、自家用車をオンラインで販売しているサービスをピックアップし、その現状と今後の展望を読み解いていく。
当記事で紹介した世界の7事例の一覧・比較評価データはこちらからダウンロードできます。ご利用に際してデータ出典元を明記頂いた上で、ご自由にお使いください。
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まずは、オンライン販売をしている6メーカー、そして1プラットフォームの合計7サービスを見ていく。
TESLA(テスラ)
テスラが自動車のオンライン販売を軸に行っていることは有名だろう。テスラは本社をアメリカ・オースティンにおき、新車中古車ともにオンライン販売を全世界に展開している。
テスラのオンライン購入の手順は非常に簡単だ。テスラのアプリをダウンロードして試乗の予約をとり、公式サイトで仕様を選択して注文すればネット上で簡単に購入することができる。仕様の選択も複雑ではなく、カラー選択をして外装と内装を確認したあと、「今すぐ注文」をタップすると「カードでお支払い」ページに飛ぶという驚くほど容易な購入プロセスである。360度のバーチャルショールームがない代わりに、他者では見られない走行・駐車・追い越しなどのシミュレーションが見られる。
しかし、テスラのオンライン販売の戦略には賛否両論もある。例えば2019年2月に「米国にある130の販売店を一部を除き閉鎖する」と宣言した際に、コストの削減を目的にオンライン販売に注力し、他のコスト削減策を組み合わせることで、テスラ車の平均価格を約6%下げることを発表していたが、実際はそうはならなかった。また、同年には購入後7日以内であれば、破損していない走行距離1,000マイル以内の新車を返品できる「7日間返品ポリシー」を実現するために、返金不可の手数料100ドルを請求する変更が行われた。しかし、2020年に「7日間返品ポリシー」を廃止し、2021年には返金不可の手数料を250ドルに値上げした。
このようなポリシー変更の背景には、新車として販売した後に返品された場合にその車両を新車と同等の価格で販売することが難しいこともあり、オンライン販売によりコスト削減を達成することが難しかったための苦肉の策と言える。しかし、その結果、テスラは返品ができない、と言う状況になり、車のオンライン販売の最大の障壁である「試さずに買う不安」を取り除くことはできなくなってしまった。テスラのオンライン販売モデルは革新的な挑戦であったものの、体験保障や価格インセンティブがなくなると、オンライン販売ならではの優位性はやや失われつつあるといえる。
BMW
BMWは、本社をドイツのミュンヘンにおき、新車中古車ともにオンライン販売を全世界に展開している。2020年7月から一部の特殊モデルを除く全主要モデルを対象とした本格的なオンライン販売プラットフォームをスタートさせた。
オンラインでの購入方法はテスラと比べるとステップ数は多いものの、サポートが充実している。走行動画や説明動画を含む「デジタルショールーム」とビデオ通話を活用し、車種の選択、装備やカラーのカスタマイズ、24時間の試乗ドライブの予約、見積もりの取得、購入手続という流れとなる。
BMWはオンラインの場合でも直販せず、あくまでディーラーを介した取引を行う。オンライン販売はまだ全体の1割以下であるが、オンラインを通じて、従来ディーラーがリーチできなかった顧客にリーチできるというメリットも生まれた。
BMWでは新車と中古車の両方をオンライン販売しており、中古車購入では走行距離や使用燃料などから理想の車を絞り込むことができる。車を選ぶと新車では車両予約や見積依頼、中古車ではお問い合わせフォームに飛ぶようになっている。
さらに、Stripeと連携したことで、「My BMW」というアプリ上で、自動車の予約販売と、延長保証、メンテナンス、デジタルサービスのオンライン購入を行うことができる。これにより、顧客はシームレスなオンライン決済を利用でき、販売店側も収益の追跡や支払いの管理が容易になった。
BMWでは、オンライン販売に一対一のビデオ通話商談を取り込むことで、「高級車は相談しながら買うもの」という従来からの慣習と信頼形成を、オンラインで再現することに重点を置いた取り組みと言える。
吉利汽車(Geely Auto)
Geely Autoは中国、浜江に本社をおき、東南アジア、欧州などと中国を含む9カ国への販売を行っている(日本では販売していない)。2020年2月から上記9カ国への新車のみ(中古車なし)のオンライン販売を始め、自動車の契約からローンや保険の契約までオンラインで行うプラットフォームを開設した。
公式サイトで車種・装備・カラー・オプションなどを自由に選んで車両をカスタマイズし、車両を閲覧できる「バーチャルショールーム」と、「仮想試乗体験」を提供している。Geelyの顧客の55%がオンラインツールを積極的に活用し、時間や場所に縛られないパーソナライズされた体験を評価していると言う。
Geely Autoの特筆すべき点は、「非接触」というキーワードを徹底的に実現した革新性だ。新型コロナウイルスの蔓延を機に、ディーラーと顧客との接触を避けることを目的に、車両を顧客の自宅まで配送し、さらにドローンによって自動車の鍵をバルコニーまで届けるサービスを導入した。このキャンペーンは2020年2月に開設され、3月までに1万人を超える顧客が新車を注文した。
Geely Autoの特徴は、車を買う・使うという体験全体をデザインしている点にあり、テクノロジーを体験価値に落とし込むことで自動車業界のUXを再構築し、新たな自動車販売の形を提示していると言える。
Alibaba(アリババ)
中国、浜江に本社をおく大手EC企業Alibabaは2017年から2018年にかけて、中国国内向けに、Fordと連携して新車と中古車を自動販売機で販売するという前代未聞のキャンペーンを実施した。
このキャンペーンでは、Alibabaのショッピングアプリ「Taobao」で試乗車を選び、自販機型ショールームに行って、認証すると車のキーが出てきて試乗することが出来る仕組みで、3日間の試乗後に購入するかどうかを決定できる。複数回の試乗が出来ないように、同じユーザーは同じモデルの試乗はできない仕組みになっていた。このキャンペーンは開始からわずか75秒で予約が埋まり、全車両が完売するなど、大きな話題となった。現在はキャンペーンは終了し、同様のプロジェクトは行われていないが、新しいオンラインでの自動車販売の可能性を示し、自動車業界に衝撃を与えた。
また、Alibabaのショッピングモール「Tmall」では車種選びから試乗予約、ローン申請、購入までをすべてオンラインで完結でき、自動車販売のデジタル化を進めている。さらに、SAICやホンダ、吉利汽車などと提携して、単なるコネクテッドカーを超えた“スマートカーエコシステム”を構築。車内に自社決済サービス「Alipay」を組み込み、ガソリンスタンドや駐車場での決済を車内で完結できる車内決済機能を実現。まるでスマートフォンのように、車自体がひとつの生活インフラとして機能する設計となっている。
このようにAlibabaは、自動車のオンライン販売だけでなく、車を使う生活そのものをDX化する取り組みを進めており、従来の自動車メーカーとは全く違う視点でのサービス展開が興味深い。
Carvana
Carvanaは、2012年に創業し、2017年に上場した、米国のアリゾナに本社をおく中古車販売業者である。オーランドを始め、米国国内の約10か所に中古車自動販売機を建設しオンライン中古車ディーラーとして成長した。
米国では中古車販売市場を独占する企業は存在せず、4万3,000ものディーラーが乱立し、最も市場シェアを占めている企業の占有率は1.8%であるという。
ここを狙うのがCarvanaであり、車両の検索から購入、融資手続き、配送・引き取りのスケジュール設定まで、すべてをオンラインで完結できる。また、各車両には360度の画像や詳細な情報が提供されており、2018年に画像技術プラットフォーム「Car360」を2,200万ドルで買収し、車両の3D画像技術を強化した。全米に30以上の多層構造の車両自動販売機を設置し、特製のコインを挿入することで、購入した車を自動で受け取れる仕組みである。購入した車両は、7日間の試用期間が設けられており、返品可能であることも大きなメリットである。車両再整備や物流管理を自動化する独自ソフトウェア「Carli」により、業務効率化を目指していることも特徴的である。
CARSOME
CARSOMEは、2015年にマレーシアのクアラルンプールで創業した、中古車の売買を完結できるオンラインサービスである。中古車業界における非効率性と透明性の欠如の解決を目指し、信頼できるマーケットプレイスの構築で人気を博している。マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピンを含む東南アジア諸国への展開にも成功し、2021年にマレーシア初のテック系ユニコーン企業として浮上した。
CARSOMEのサービスを支えるのは、「CARSOME Certified Lab」と呼ばれる大規模な修理工場だ。これは約17,271m²の広大な施設で、30以上のブランドの車を月に2,000台を改修することが可能で、175項目の車両検査を通過し、安全が確認された車のみが塗装や洗浄を経て売りに出される。
CARSOMEでは車の購入だけでなく、売却もオンラインで行うことが出来る。売却希望者はオンラインで車両情報を入力し、複数の認定ディーラーからの入札を受ける仕組みである。車両情報を入力することで自分の車のおおよその値段を瞬時に知ることもできる。
様々なサービスを内包しているCARSOMEは自社アプリ「MyGarage」から、あらゆることが可能となっており、各種管理や予約などを済ませることができる。リコメンド機能によって、希望の値段や車種を入力して現在購入できる車を提示してくれたり、自分の車を下取りに出し、その査定額を新しい車の購入代金に充てることができるTrade-Inサービスもある。
Seez
Seezは2016年にドバイで創業し、中東のUAE・クウェート・サウジアラビアを中心とした自動車ディーラー向けにAIを活用したSaaSソリューションを提供している。ここまで紹介した各社とは異なり、自動車販売のBtoB向けサービスプロバイダーでディーラー各社のデジタル販売の効率化を支援している。また、世界初のブロックチェーンを活用した車両登録システムを導入したことでも話題となった。
Seezの主な製品はSeezClick、SeezPAD、SeezBoost、SeezNitroの4つである。
SeezClickはオンラインでの車両購入をサポートし、金融や保険、Trade-Inをすべてオンライン上で済ませることができるプラットフォームを提供する。
SeezPADは、在庫管理やCRM機能、ショールームなどをデジタル化するためのサービスである。
SeezBoostは、小売業者がマーケティングを強化するためのAI搭載プラットフォームであり、在庫に基づいた広告の自動生成、顧客ごとにパーソナライズされた商品推薦の提供、A/Bテスト、分析ツールによるマーケティング効果の可視化などを行う。
SeezNitroは、ディーラー向けの高度なAI分析プラットフォームであり、車両ごとの魅力度スコア(Car Attractiveness Score)の算出、在庫の最適化支援、顧客把握によるリードの質向上・パーソナライズ対応などを行う。
さらに、SeezarとよばれるGPTを活用した自動車業界初のAIチャットボットで、24時間対応の顧客サポートを実現することもできる。
オンライン販売のブレークスルーの鍵はスムーズさと安心感
自家用車をオンラインで購入する際、他の買い慣れた商品と異なる重要なポイントが2つ存在する。まず、一般的には新車でも中古車でも購入の手続きは非常に煩雑だ。そのため、それをオンライン上でどの程度スムーズに購入に繋げるかと言うポイント「購入プロセスのスムーズさ」が重要になってくる。そして、2点目は「安心感」だ。対面で購入する際にも、自家用車は精密な機械部品の集まりのため、個体による性能の違いや、複雑な価格体系など、不安に感じるケースも多い。そのため、オンラインでどこまで安心感をユーザーに提示できるかが、他の商材よりも重要になってくる。
オンラインでの購入プロセスのスムーズさは、オンラインでの完結度合、平均購入手続き期間、試乗までのプロセスの3つの項目で評価。安心感は、返品可能性、購入時の担当者の介入、ISO 9001の取得状況の3つの項目で評価した。
※Tesla、BMW、Geely Auto、Alibabaは新車、その他は中古車としている。SeezはBtoBサービスのためここでは評価していない。
2軸でマッピングしてみると、購入プロセスのスムーズさと安心感を兼ね備えた右上の領域にはサービスが存在していない。これは、新車と中古車の一般的特徴が大きく影響している部分も大きい。一般的に、新車は購入プロセスが多く煩雑であり、中古車は比較的スムーズである。逆に、新車は安心感が高いが、中古車は安心感が少し劣るためだ。
サービス別にもう少し細かく見ていこう。BMWとGeely Autoは購入プロセスのスムーズさでは劣るものの、安心感は非常に高く、対面ディーラーでの販売経験が大きく活きていると言える。オンライン販売を行うにあたり、既存の顧客サービスを可能な限り提供する形で実現しているのだろう。一方、自動車販売の経験の無いAlibabaは、強みともいえるDX化に注力しており、新車であっても購入プロセスが非常にスムーズであるが、安心感は低い評価となっており、自動車以外の商材のオンライン購入プロセスをある程度ベースに考えた結果とも言えよう。中古車を販売するCARSOME、Carvanaは購入プロセスのスムーズさでは非常に高い評価となっている。特にCarvanaは、安心感においても、返品保障制度などが充実している一方、ISO未取得であることや基本的に担当者の介入がないことなど、足りない要素が見られる。中古車サービスが安心感を獲得するには、購入時の担当者の対応を手厚くすることが重要となってくる。AIによるチャットボットだけでなく、担当者が対面またはビデオ通話などで直接会話することで顧客のサービスへの安心と信頼を得ることができるだろう。さらに、返品対応などのアフターサービスの充実度も重要なファクターである。
自家用車のオンライン販売は拡大するのか
ここまで、国や地域の異なる7つの自家用車のオンライン販売サービスを見てきた。自家用車のオンライン販売の拡大には「購入プロセスのスムーズさ」と「安心感」という二つの軸を両立することがまずは重要になりそうだ。
特に日本では、高額商品である車の購入において「安心感」を重視する傾向が強く、対面でのやり取りを経ずにオンラインだけで完結することには、抵抗を感じる消費者が多い。さらに、カーシェアやライドシェアなどの発展により、車を所有すること自体の必要性も薄れつつある中で、「あえて買う」からこそ安心して選びたいという意識が高まるはずだ。安心感をいかにオンライン上で担保できるかは、日本における自家用車のオンライン販売が今後普及していくうえで重要となってくるだろう。
また、街中に多くのディーラーが点在している現状を考えると、購入プロセスがそれほどスムーズではないと感じるユーザーは、すぐに店頭に足を運んでしまうことも考えられる。
このように、両軸を高い水準で両立することは容易ではないが、スムーズな購入体験と一定の安心感をバランスよく両立させることは、今後の自家用車のオンライン販売における理想的なあり方と言えるだろう。この両立を本格的に実現する企業の登場に期待しつつ、今後も自家用車のオンライン販売の進展に注目していきたい。