「客単価」とは? 今さら聞けないコマース基本用語
デジタルやeコマース関連の用語では、珍しく日本語のみのキーワードで、替わりとなる横文字もない、重要な用語である“客単価”。eコマースだけでなく物の売買が行われる場で頻繁に使われる言葉である。コマース基本用語解説の第4回目は、この客単価について解説する。
客単価とは?
客単価とは、1回の購買によって消費者1人当たりが支払う総額のこと。飲食店、小売店、ECサイトで共通する考え方で、すべてのビジネスで通用する重要な用語である。例えばECサイトであれば、客単価を一定期間や一定の母数で計測、平均化した平均客単価が重要な指標として扱われる。また、この平均客単価も単に客単価と呼ばれることがあり、厳密に区別して利用している人はそれほど多くはない印象だ。
客単価の計算方法
客単価は「1回の購買によって消費者1人当たりが支払う総額」ではあるが、1人ずつ個別に計算するわけでなく、店舗の売上高を購入客数で割って算出する。
客単価[円]=売上高[円]÷客数[人]
客単価は売上高を伸ばすための重要な3つの構成要素のひとつであり、経営における課題を分析する重要な手がかりとなる。売上高を計算式で表すと、次のようになる。
売上高[円]=来訪者数[人]×CVR(コンバージョンレート)[%]×客単価[円/人]
例えば、集客に力を入れたりCVR向上の施策を実施したとしても客単価が低ければ意味がないため、客単価は売上を伸ばすために欠かせない重要な要素である。また、客単価をさらに細分化すると、商品価格と1回あたりの購入点数の掛け算で表すことができる。
客単価[円]=商品価格[円]×1回あたりの購入点数[個]
これらの数式から、客単価を上げるためには「商品価格が適正か」「1回あたりの購入数が少ないのか」のどちらに課題があるかを、しっかりと見極める必要があることがわかる。
客単価を分析するメリット
客単価の分析で得られる代表的なメリットは、「経営戦略に役立つ」「売上の向上につながる」「競合他社や市場の変化を把握できる」の3点がある。
1. 経営戦略に役立つ
客単価の分析により収益性を可視化できるようになるため、経営戦略を立てやすくなることがメリットだ。一定量以上のデータがあれば売上予測の精度が高まり、商品開発や施策検討にも活用できるほか、季節や時間帯など詳細に分析することで様々なヒントを得られるようになる。
2. 売上の向上につながる
適切な施策で客単価や客数を増やすことができれば、それだけ売上高も増加する。客単価の向上にはクロスセルやアップセルのような既存顧客へのアプローチが有効なため、新規顧客の獲得よりも低コストで実現できるメリットは大きいだろう。
3. 競合他社や市場の変化を把握できる
客単価は市場や競合他社などの影響を受けるため、変化に対応しやすくなるという利点がある。例えば情勢が変わったことで消費者のニーズも変わってしまった場合など、外的要因そのものの解決は不可能でも、柔軟な施策や戦略の立案により適切に対処することができるようになる。
LTVとの関係性
近年では、客単価に似た用語としてLTVが用いられることも多くなってきた。LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、顧客の生涯にわたる販売者との関係の中で販売者がその顧客から受け取る総額のことであり、定期購入商材やサブスクリプション型のビジネスモデルで用いられる。LTVは、以下の計算式で表される。
収益[円]=顧客数[人]×LTV[円/人]
LTV[円/人]=客単価[円/人]×粗利率[%]×購入頻度[回数]×継続期間[月]―顧客の獲得・維持コスト[円]
- 粗利率:売上に対する粗利額(売上から売上原価を引いた利益)の割合
- 購入頻度:1年当たりの購入回数
- 継続期間:購入を継続する期間
- 顧客の獲得・維持コスト:新規顧客を獲得するのにかかる費用
LTVは顧客との関係を分析する重要な指標であり、LTVの高さは商品や企業を評価してくれる既存顧客を確保できていることの証である。新規顧客の獲得には既存顧客の維持に比べて膨大な費用を要するため、LTV向上の取り組みは企業にとって欠かせない要素だ。
客単価はLTVにおいても重要な指標のひとつであり、LTVを伸ばすためには客単価の向上が不可欠である。
客単価は何によって影響を受けるのか
1. 商品の単価
商品の単価によって、客単価の意味合いは大きく変わってくる。例えば、取り扱っている商品の最低価格が10万円の高級バッグのショップでは、客単価は10万円以下にはなりえない。逆に、300円の洗剤から取り扱っているショップでは、300円以上の全ての価格が客単価になりえる。実際はこのように分かりやすいパターンばかりではないが、ショップで取り扱っている商品の単価によって客単価は大きく変わってくる。
2. 商品が消耗品か
取り扱っている商品が消耗品の場合、送料との兼ね合いから、消費者がインターネットで購入する際に複数個を購入する確率が高くなる。定期的に消費するものはある程度ストックがあっても困らないため、“まとめ買い”を選ぶ消費者心理に訴えかけることが大切だ。
3. 保存期間の長い商品か
前述の「商品が消耗品か」にも関係するが、消耗品でなおかつ保存期間が長い商品は、まとめ買いの傾向がより一層高まる。それ以外では、重量がある商品なども複数個を購入する傾向があるため、客単価が高くなりやすい。
客単価を上げるための施策
実店舗とECサイトでは、客単価を上げる方法にも違いが出てくる。例えば関連商品の購入を促すことで比較すると、実店舗には従業員による接客が存在するが、ECサイトには直接的な声掛けが存在しない。そのためECサイトでは、購入ボタンの近くや商品詳細ページに関連商品を表示させることが購入を促す施策となる。
つまり、販売チャネルに応じた適切な施策を実施すれば、効果的に客単価を上げられるということだ。ここからは、実店舗とECサイトに分けて施策の例を見ていこう。
客単価の実店舗での向上施策
1. 関連商品の購入を促す(クロスセル)
クロスセルとは、顧客が購入しようとしている商品と別の商品を提案し、購入を検討してもらう手法のことである。販売したい商品と関連した商品を追加で販売できるため、客単価の向上につながりやすい。例えば「関連するものを商品の近くに陳列する」「販売時に直接関連商品をおすすめする」「店内で声掛けする」などが、効果的な施策として挙げられる。
この施策を実施する際には、既存の購買データから消費者がどのようなニーズを抱えているかを把握するため、消費者の購買傾向を分析することが必要になってくる。
2. 複数の価格帯の商品を陳列する(アップセル)
アップセルとは、購入しようとしている製品と同等かそれ以上の高価な製品やサービスを顧客に促す手法のことである。同ジャンルで複数の価格帯の商品が売られている場合、人は無意識に真ん中のランクの商品を購入する傾向がある。その心理傾向を「松竹梅の法則」という。例えば、レストランでコース料理を頼む際、真ん中の価格帯のコースを頼みがちな状態がこれである。
この心理を利用して、複数の価格帯の同じような商品を陳列することで、自然と消費者が中間の価格帯の商品を購入しやすくする。その結果、客単価が上がるという仕組みがアップセルだ。
3. セット商品を作る
セット商品とは「単品商品を複数組み合わせて販売する商品」のことである。良いものを売っていても、その存在を知ってもらわなければ売上アップにはつながらない。そこで、イチオシの商品を含むお得感のあるセット商品を作ると、消費者は少しでもお得感のあるものに反応するので、欲しいものが含まれているお得セットに手を伸ばしやすくなる。例えば、2,000円のコスメを購入する予定だった消費者が3,500円のセット商品を購入すれば、その分だけ客単価がアップすることになる。これは消費者にとっても、欲しい商品をお得に購入できた感覚になれるメリットがある。
4. ポイントカード制度の導入
多くの店舗では、購入額に応じてポイントを付与して貯めたポイントを還元する「ポイント還元方式」を採用している。例えば「500円で1pt」に設定した場合、2,900円の買い物の際にあと100円分買おうという心理につながりやすくなり、客単価が上がるという仕組みだ。
また、「火曜日ポイント5倍」などのキャンペーンを実施して“ついで買い”や“まとめ買い”を促し、客単価を上げることもできる。このようにポイントカード制度は、客単価を上げる施策として効果的である。
客単価のECサイトでの向上施策
1. “●●●●円以上は送料無料”と打ち出す
ECサイトを利用する人の多くは、実店舗で購入するより便利で割安だから、などの理由でネットショッピングを楽しんでいる。ECサイトで購入を検討する際に最もネックになるのが、商品価格に見合わない高い送料だ。その消費者心理に対して効果的なのが、“送料無料”である。最近は多くのショップが“●●●●円以上送料無料”と打ち出しているが、これは消費者心理をうまく利用した購買意欲増進の手法だ。
例えば、2,500円前後のデイリーワインをメインで販売しているワインショップに、試しに1本買ってみようという人が訪れたとする。しかし、“3,000円以上送料無料”という謳い文句を見た瞬間、その人は“1本ではもったいないから2本購入しよう”という心理になる。これにより1本だけ購入予定だったワインを2本購入することになり、自然な流れで客単価が向上する。送料無料のボーダーラインは、あと少しだけ購入すれば送料無料に手が届く、という金額をうまく見極めて設定すると効果的である。また、同じ消費者心理を利用した、“複数購入すると●個目以降半額”という手法も客単価の増加に繋がる。
2. 同梱特典を設ける
ある商品を送料無料商品に設定し、同梱する商品はすべて送料無料と謳う。こうすることで、少し興味がある程度の商品であっても、対象商品さえ購入すれば送料が無料になると判断し、何となく買い物カゴに入れてしまうのだ。また、送料がかさむ大型商品を送料無料のタイミングで購入し、他の商品を複数購入するといったケースも考えられる。この心理をうまく利用すれば、強引な売り方をしなくても客単価が自然に上がっていくようになる。
3. 関連商品の購入を促す(クロスセル)
追加注文がされやすいタイミングは、一般的に商品を買い物かごに入れている段階だといわれている。そこで、ECサイトで商品の購入ボタンのすぐ近くに関連商品やお勧め商品のリンクを表示させることで、“ついで買い”を促すことができる。
4. 複数の価格帯の商品を並べる(アップセル)
前述の通り、同ジャンルで複数の価格帯の商品が売られている場合、人は無意識に真ん中のランクの商品を購入する傾向がある。
ECサイトでもこの消費者心理を利用して、松竹梅の価格を提示するようにレイアウトを変更することが効果的だ。そうすることで、より高額な商品の購入へ誘導し、客単価を上げることも可能になる。このように、本来購入してもらいたい価格帯の商品を、ショップ主導で決めることもできてしまう。
5. セット商品を作る
実店舗の見出しでも挙げたが、セット商品を設けることはECサイトでの客単価向上にも効果がある。さらにセット商品化することで、単品商品の際に毎回発生する梱包費や送料を1回にまとめられるため、客単価以外のメリットも大きい施策である。
6. 優良顧客への特典や商品案内
優良顧客のロイヤリティ向上のための特典やカスタマイズされたメールのやりとりは、非常に重要である。例えばAmazonプライム会員は、一般会員と比べて2倍以上の売上を作っているというデータがある。Amazonプライム会員には送料無料サービスや会員限定価格など様々な特典があるため、一般会員よりも利用率が高いことも頷ける。このことからもわかるように、ECサイトでの売上の大部分は、ヘビーユーザーや会員などの優良顧客が作り出している。
よく商品を購入してくれる優良顧客はそのブランドやWebサイトのファンであるため、その場所で買い物をすることが習慣化する。その結果、商品購入回数だけでなく複数の商品や高額商品を購入する傾向が高まり、必然的に客単価の向上につながっていく。これは客単価において十分な果を発揮するが、リピート率を上げることにもなるため、LTV向上に関しても有効な手段となる。
優良顧客を増やすためには、リピートしてもらうことと、その顧客を手放さないことが大切だ。そのためには、以下のような点を強化することが効果的である。
- 丁寧なアフターフォロー
- プレミア会員だけの特別な特典・キャンペーン
- 顧客一人一人のライフスタイルや好みに合わせたメール・LINE、SNSのやりとり
まとめ
客単価は、商品や施策によって適正な値が変わってくる。過去のトレンドや店舗のコンセプトなどから適正な客単価を見極め、向上施策を積極的に実施していくことが重要だ。