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プライバシーとパーソナライゼーションの狭間でデジタル広告はどのように適応していくのか

プライバシーとパーソナライゼーションの狭間でデジタル広告はどのように適応していくのか

マーケティング
2024/04/02

ブランドは、ストーリーテリングや同意に基づくパーソナライゼーションなどを通じて、デジタルマーケティングをプライバシーファーストの時代に適応させている。

 

デジタルマーケティングが技術の進歩や消費者行動の変化、政策の要求に対応するにつれ、猛烈なスピードで変化することは避けられない。過去30年間、マーケティング担当者は絶え間ない変化に対応しながら、Webをリードしてきた。

 

それにもかかわらず、進歩は減速していない。予測によると、米国のデジタルマーケティングは今後3年間で1,000億ドル増加する可能性がある。現在のマーケティングパラダイムは、GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの規制の枠組みも後押しとなり、より侵襲性の低い戦略への協調的な取り組みを反映している。

 

関連性をうまく維持するためには、ブランドはこれらのポリシーの意味を理解し、消費者のプライバシーとエージェンシーを前面に押し出したマーケティングキャンペーンを作らなければならない。興味深いことに、これはある種の試行錯誤を重ねた戦略を適応させることで可能になる。

 

昔ながらの手法を使いつつ、新しいトリックを学ぶ

デジタルマーケティング担当者は基本に立ち返り、意味のあるエンゲージメントを促進するために基本的な戦略を使っている。特に、プライバシーへの懸念と、押し付けがましい広告に対する消費者の疲労が、オーガニックコンテンツ・マーケティングの復活を後押ししている。30秒でも30分でも、ストーリーテリングに流行り廃りはない。GDPRとCCPAは、データの収集と処理について明示的な同意を得ることを強調しており、ブランドは透明性と価値交換を優先したオーガニックコンテンツ戦略を活用することができる。

 

ブランド主導のコンテンツは信頼と権威を確立し、ユーザー生成コンテンツ(UGC)はコミュニティを構築し、視聴者の感情に関する豊富な洞察を提供する。たとえば、米国の登山用品、サーフィン用品、アウトドア用品、軍用品、衣料品の製造販売を手掛けるメーカーPatagoniaの「Worn Wear」キャンペーンは、顧客が愛用している同社のギア(衣類)についてのストーリーを共有することを奨励し、強引なデータ収集に頼ることなく、本物のストーリーテリングの力を例証した。

 

人工知能(AI)は、コンテンツマーケティングを昔ながらのやり方から斬新なものへと変える。AIは自動化とコンテンツのアイデア出しを強化し、チャネルをまたいでトップクラスのクリエイティブを再利用するのに役立つ。しかし、AIが生成するコンテンツは、規制当局の監視の的となっている。倫理的で偏りのないコンテンツ制作の実践を維持し、反発を緩和するために、ポリシーに沿って更新されるブランドスタイルガイドに、ジェネレーティブAIの使用に関するルールやガイドラインを作成することを検討しよう。

 

プライバシーとパーソナライゼーションのせめぎあい

今日のユーザーは追跡されることを望んでいないが、それでも高度にカスタマイズされた体験を期待している。さらに、GDPRの同意ベースのマーケティングコミュニケーションに対する厳しい要件は、ブランドがよりパーミッション主導の方法で消費者をエンゲージするために広告活動を多様化することを促している。このため、大手アドテク企業、コンソーシアム、データプロバイダーは、ユニバーサル・ユーザーID(UID)を模索している。

 

UIDは、マーケティング担当者がデジタルサプライチェーン全体にわたって、パーソナライズされた広告で消費者をターゲットにし続けることを可能にする一方で、オーディエンスのプライバシー基準を満たすことを目的としている。ユーザーは、パブリッシャーサイトへのログイン時にデータ収集をオプトインすることで、コントロールが得られる。広告主は、Cookieの同期と比較して、より高いマッチング率とより速いデータロード時間から利益を得ることができる。ターゲティングの観点からは、これは民主的であると感じられるが、まだ日が浅い。

 

UIDがない場合、ブランドはコンテキスト・ターゲティングによって、サードパーティのCookieを必要とせずに特定のオーディエンス・セグメントに到達することができる。キーワードに再び焦点を当てることで、ブランドはブランドセーフでプライバシーに準拠した精度で、ニッチなオーディエンスの関心をターゲットにすることができる。世界のコンテキスト広告費は、2030年までに毎年14%近く成長すると予想されている。

 

消費者エクスペリエンスに関しては、スウェーデンの企業Spotify Technologyによって運営されている音楽ストリーミングサービスSpotifyや米国のオーバー・ザ・トップ・コンテンツ・プラットフォーム、Netflixのようなメディア大手は、個人データではなく、ユーザーの消費習慣に基づいてパーソナライズされたプレイリストやレコメンデーションをキュレートするために機械学習を使用している。

 

同意に基づくパーソナライゼーションに関していえば、Coca-Colaの有名な「Share a Coke」キャンペーンに対抗できるキャンペーンはほとんどないだろう。この長期にわたるイニシアチブは、製品パッケージに個人の名前をパーソナライズし、ソーシャルシェアリングを促したもので、世界的なリーチを持つ、非常に効果的でインタラクティブなオプトイン・エンゲージメントを例示している。しかし、オンラインとオフラインのメディアを横断する異種のインタラクションの急増は、オムニチャネルキャンペーンの効果を正確に追跡・測定しようとするマーケティング担当者に課題を突きつけている。

 

どちらの50%?

米国の百貨店経営者Wanamaker氏の名言「広告費の半分が金の無駄使いに終わっている事はわかっている。わからないのはどっちの半分が無駄なのかだ」のおかげで、アトリビューションは広告業界で最も古いジョークとなっている。ブランドは、マーケティングの取り組みがビジネスの成果に与える真の影響を実証することに取り組み続けている。

 

加重測定(すなわち、マルチタッチ・アトリビューション・モデル)は、新しいプラットフォームが登場するたびに、また、消費者がシームレスなオムニチャネル体験を強く期待するようになるにつれて、より現実味を帯びてくる。加重モデルは、消費者のジャーニーを横断する各タッチポイントに比例した信用を与え、各インタラクションの変動する影響を考慮する。ラストタッチモデルは、ダイレクトマーケターやクリックベイト(Web上の広告や記事などに、ユーザーの興味を引いて閲覧者数を増やすため、煽情的なタイトルをつけること)キャンペーンのための一時しのぎである。

 

加重測定は「設定したら後はお任せ」のシステムではない。ウエイト(加重)は、キャンペーンのアウトプットと消費者のインプットに合わせて継続的に再調整する必要がある。ブランドリフト、売上リフト、顧客生涯価値などの指標にあてはめることで、マーケティング担当者はマーケティング効果の全体像を把握し、戦略をより広範な組織目標と整合させることができる。

 

ロンドンに本拠を置く世界有数の一般消費財メーカー、Unileverの「People Data Center」では、匿名化された消費者データを統合し、マーケティング活動の長期的な影響を測定している。これは、成果ベースの測定に向かう業界の勢いを反映している。加重測定はキャンペーン・パフォーマンスのより微妙な理解をもたらすが、ブランドはコンプライアンスと正確性を確保するために、強固な分析機能とデータガバナンスのフレームワークに投資しなければならない。

 

コンテンツ、データ、測定にわたるプライバシーに配慮したデジタルマーケティング戦略

デジタルマーケティングは常に変化している。それは驚くべきことではない。今日有効なテクニックも、新しいものばかりではない。進化とは、うまくいくものを継承し、そうでないものを取りやめることである。

 

今日のデジタル広告の流れは、可能な限り安価なクリックよりも、消費者のプライバシーとエンゲージメントを優先し、より干渉的でない戦略へのシフトを特徴としている。規制の圧力が高まるにつれて、この状況はまるで西部開拓時代のようではなくなり、マーケティング担当者は倫理的かつ効果的に視聴者とつながるよう求められている。これは歓迎すべき転換期といえるだろう。

 

デジタルマーケティングの取り組みに透明性と説明責任を取り入れることで、ブランドは、魅力的で有利な消費者体験を犠牲にすることなく、複雑なプライバシー規制を乗り越えて前進することができるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Martech」の4/1公開の記事を翻訳・補足したものです。