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小売業におけるAIの未来、ChatGPTの熱狂のその先へ

小売業におけるAIの未来、ChatGPTの熱狂のその先へ

トレンド
2023/06/15

2023年、ChatGPTが世界を席巻して以来、他の形態のAIの普及は少し忘れ去られているようだ。しかし、AIと自動化機能は、小売業にとってさらに必要不可欠なものとなるだろう。

 

米国に本社を置くグローバルコンサルティング会社のMcKinseyによると、ビジネスにAIを使用していると報告した企業や組織は、2017年にはわずか20%であったが、2022年までに2倍以上に増加しているとのこと。The World Economic Forum(世界の状態を改善することを約束する独立した国際組織)の2023年次総会では、「小売部門におけるAIサービスは、2028年までに50億ドルから310億ドル超に増加すると予測されている」というレポートがあった。

 

小売業界で競争力を維持するために、AIの必要性がさらに増している。小売業におけるAIには、自動化、データ、機械学習(ML)アルゴリズムのような技術を使用して、高度にパーソナライズされたショッピング体験を消費者に提供することが含まれる。AIテクノロジーの具体的な使用方法の一つはセルフレジ改革である。これは、安全なスキャン方法を提供し、万引き防止にも役立つ。

 

これらのAI小売プラットフォームは、人間の助力なしで稼働でき、顧客はショッピングプロセスをよりコントロールできるようになる。万引き防止のインセンティブとして、AI認証による新システムは、疑わしい万引き犯のデータを記録するために利用される。

 

現代の小売業で成功するための重要な要素

eコマースのマーチャンダイジングチームも、現代のデジタルマーチャンダイジングの要求に対応しようと手一杯である。AIを使って手動のタスクを自動化すると、大幅に時間を節約できるだろう。

 

また、人工知能は、競争上の優位性にもなりうる。AIは、データに裏打ちされたインサイトを提供することで、より有効な製品のおすすめ、オムニチャネルでのエンゲージメント戦略、長期的なビジネス目標をサポートする。

 

しかし、小売業者が検討すべきツールは、OpenAI(人工知能とリサーチを専門とする米国の企業)のChatGPTのコードだけではない。小売企業向け商品検索・発見プラットフォームConstructor(本社:米国)の共同創設者兼CEOであるEli Finkelshteyn氏は、ChatGPTは、ほかのAIを不要にするものではないと語る。世論の高まりとは逆に、ChatGPTはほかの形式のAIを完全に排除しているわけではないのだ。

 

「ChatGPT自体に問いかけても、同じ答えを返すだろう。例えるなら、実店舗で店員に話しかけたい、と思う頻度を考えてみるとよいだろう。ChatGPTは、それをオンラインでやり取りするのだ」とFinkelshteyn氏は語った。

 

詳細な商品発見のためのAIツールのバランス

もちろん、オンラインで店員と話すことが有効かつ適切な場面もある。しかし、製品を購入しようとするたびに必要なことではない、と同氏。「ネットで買い物をするとき、探しているものがはっきりわかっていれば、検索は今でも、そしてこれからも、より便利なツールである」と同氏は主張した。

 

デジタルで商品棚をブラウズし、小売業者が販売するシャツや電化製品、お菓子などさまざまな商品を見て回りたいのであれば、やはりカテゴリページが優れている。しかし、おそらく5%から10%くらいの割合で、専門の店員と話し、探している商品の詳細な説明が必要な場合もあるだろう。

 

eコマースにおいて現在利用できるものよりも、ChatGPTがずっと良い仕事をするのはこういう時だ、と同氏は言う。長文のクエリを理解し、質問に答え、必要なものを見つける手助けをし、取引を成立させることができるのだ。

 

ショッピング体験をカスタマイズするためのAI活用法

AIは、製品カタログのトレンドを理解したうえで、それに基づいて検索結果を順位付け、パーソナライズすることができる。そして、サイトやブランドの他のチャネルでの買い物客の行動からその人について知っていることを活用することができる。

 

たとえば、ある買い物客が「シャツ」と検索すると、その人が好きなブランドや色、好みの価格帯のシャツを優先的に表示することができる。また、収益、コンバージョン、利益といった小売業者の重要業績評価指標(KPI)も最適化することができる。

 

たとえば、Constructorのプラットフォームは、AIや機械学習を使って、すべてのユーザーのクエリから詳細を収集している。また、Finkelshteyn氏によれば、クエリ後に結果とのインタラクションを経て、システムへのフィードバックを毎日何億回も取り入れることができ、このような結果や体験を継続的に改良することもできる、とのことだ。

 

eコマースでのAIの役割とは

Eli Finkelshteyn氏にEC企業が今後数年でAIに期待することについて聞いてみた。彼は、AIを検討する際、小売業者が避けなければならない罠についても知っている。

 

ー 他のAIオプションがChatGPTの影で成功し続けるには、どうすれば良いか?

ChatGPTは素晴らしいものだが、AIのあらゆる問題に最適なツールというわけではない。たとえば、一般的なeコマース検索のように、大量の検索結果やフィルターを返すような分野においては、最適なツールではない。

 

また、サイトトラフィックやクリックストリーム(サイトの閲覧者の訪問から離脱までの行動)データを適切に用いて、その結果をすべて順位付けたり、ECサイトの特定のユーザーベースやクリックストリームデータから適切に学習して、時間の経過とともに順位がどのように変化するのか、または特定の買い物客に合わせてパーソナライズされるべきかを判断したりするのに最適なツールとはいえない。こうしたことは、ChatGPTが解決しようとしている問題ではないので、それは納得できる。

 

その代わりに、ECサイト独自のトラフィックで習得したクリックストリームベースのAIが、小売業者が買い物客のジャーニーを改善し、一貫したオムニチャネル体験を実現するためにより適したユースケースとなるだろう。

 

 

ConstructorのCEO、Eli Finkelshteyn氏

 

― 双方のAIが進化する中、小売業者は何を期待できるだろうか?

どちらもエキサイティングな未来が待っている。ChatGPTと既存のフォーム、特にクリックストリームベースのAIを組み合わせることで、まったく新しいユーザーインターフェースやエクスペリエンスが実現する可能性がある。

 

たとえば、友人の婚約パーティーに着ていく服や鍋料理の食材のような、特定の目的やイベント向けの商品を探していて、それをECサイトで説明しなければならない場合、これは現状では難しい。カテゴリページの検索や閲覧など、現在利用可能な商品発見のフォームでは、上記のようなことを尋ねたり探したりするのに適しているとはいえない。

 

しかし、ChatGPTを取り入れることで、小売業者は買い物客の長文で抽象的な要望を理解できるようになれば、イノベーションがもたらされるだろう。クリックストリームベースの商品発見AIを使用し、ユーザーのニーズに合ったトレンドやパーソナライズされた結果を表示することは、魅力的な提案だ。

 

― ChatGPTの普及や技術の進歩は、Constructorの小売企業向け商品検索・発見プラットフォームにどのような影響を与えたか?

一般的に言うと、誰もがまだeコマース内にChatGPTの使いどころを見出そうとしている状態だ。適切なユースケースとインターフェースを見つけるには、実験と柔軟性が必要だ。特に、ユーザーに展開するChatGPTベースのテクノロジーが本当に便利かどうか確認することも不可欠だ。

 

― Constructorはこのようなイノベーションを推進するためにどのような取り組みをしているか?

私たちは、AIをベースとした、商品検索と発見のためのプラットフォームを提供し、小売業者がKPIも反映した高度にパーソナライズされた体験を複数のチャネルに渡って届けられるように支援している。ChatGPTがConstructorの業務に与えた影響としては、多くの小売パートナーがこの分野で当社のプロトタイプを熱心に試用し、これまでに当社が展開した新技術よりも早く統合できるようにリソースを割くことを厭わない、ということがある。

 

私たちは何年も前から、買い物客が現在慣れ親しんでいる商品発見は、もっとずっと良いものになる、と信じてきた。ChatGPTによって、小売業者は商品発見の新フォームを試し、買い物客がどれを最も評価するかを理解することにさらに積極的になっている。

 

― このような様々な実験が行われる中、小売業者は買い物客にとって真の有用性をどう考えれば良いか?

残念ながら、他の小売テクノロジーとChatGPTを統合するような、この分野でこれまでに見られた多くの取り組みは「ギミック(からくり)」に過ぎない。初めて使うときはカッコよく見えるが、買い物客の役には立たない。

 

ある企業がChatGPTを使ったチャットボットを公開したが、基本的にはユーザーに検索フォームにニーズを入力させ、商品を検索するだけだ。実際はただ検索ボックスを使うより役に立たない。そのため真の価値を提供できず、導入したサイトでは、買い物客が1~2回試すものの、二度と利用しなくなる可能性がある。

 

ChatGPTとそれを取り巻くエネルギーは、商品発見分野に携わるすべての人に、新しいインターフェースとテクノロジーで商品発見の方法に革命を起こす機会を与えている。Constructorの目標は、そのエネルギーと興奮を利用して、買い物客が何度も使いたくなるようなテクノロジーを作り出すことであり、買い物客が1回試しただけでがっかりするようなギミックにその興奮を無駄遣いしないようにすることだ。

 

― 今後数年間で、EC企業がAIに期待できることは何か?

多くの実験を期待している。ChatGPTと、一般的に言えば、それを支える技術であるTransformer(自然言語処理分野で使われる深層学習モデル)や大規模言語モデル(LLM)は、これまでは不可能だった多くのことを可能にしている。だが、可能だからといってそれがEC企業や買い物客にとって価値があるとは限らない。

 

そこで、この新技術に適した最も役に立つ場所を見つける実験が期待される。Constructorでは、ユーザーに返す結果を、より文脈を意識した魅力的なものにするために、すでに水面下でこの新技術を使用している。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。

 

― AIツールを導入するとき、小売業者は何を考えるべきか、また、避けなければならない罠にはどんなものがあるか?

何をおいても、あなたのやっていることが、あなたと買い物客にとって十分な価値がある可能性があるということを確認することだ。すでに大量のギミックがChatGPTを中心に構築されており、それは立ち消えるだろうし、この先ももっと増えるだろう。

 

だからこそ、ChatGPTとその他のAIベースのテクノロジーがもたらす価値について、取り組む前に注意深く考えなければならない。解決したい問題や弱点についても考えてみてほしい。

 

これには、複数のチャネルにまたがるデータの連携、マーチャンダイジングタスクに関連する手作業の削減、検索放棄の削減などが含まれる。あなたにとってベストなAIのユースケースを考えよう。

 

― ChatGPTに価値を追加できるところは、そしてクリックストリームベースのAIがより適しているところはどこか?また、マーチャンダイザーやビジネスユーザー向けの直感的なツールのような、AI以外のもののほうが適切な場合もあるのではないか。

この分野での貴重なテクノロジーが生まれるだろう。しかしその一方で、見た目はカッコいいが、効果をもたらすほどではない、あるいは労力を注ぐ価値がない、いわゆるイノベーションがやたらと増えることも予想される。その違いを見極めることができる小売業者が最も成功するだろう。

 

― AIの利用が増加するにつれて、安全面や倫理上の懸念としてどのようなものがあるか?たとえば、欧州では最近ChatGPTの使用を禁止した国がいくつかある。

会話型AIのような人工知能の中には、自信を持って嘘をついたり、騙したりできるものもある。すでにディープフェイク(AIなど高度な合成技術を用いて作られる、本物と見分けがつかないようなフェイク動画)に使われるAIを含む生成AIの進歩によって、人間は自分が見聞きしたことを信じるのがどんどん難しくなっている。そしてテクノロジーが進歩するにつれて、これはより大きな問題になっていくだろう。

 

― 政府はAI技術の監視にもっと関与すべきか?

政府はAI企業に法整備を頼ることはできないし、そうすべきでもない。政府は、できる限り国民を保護し、教育するために行動しなければならない。AIの最前線にいる企業で権力のある立場にいる私たちが、AIで正しいことを行い、倫理的に行動することが重要だ。しかし、政府が確実にそうなるように導くことも非常に合理的だ。

 

― 政府の介入は、今後のAIの発展にどのような影響を与えるか?

裏を返せば、私たちはインターネットでほとんどすべての国の何十億もの人がアクセスできるグローバル化した世界に生きている。そのため、AIを取り締まるのは難しい。もし、政府が管轄下の企業のAI研究を遅らせるなら、それは短期的には国民を守ることになるかもしれないが、長い目で見れば国民にとって害となるだろう。

 

AIの急速な進歩により、同じ決断ができない国の企業は先手を打ち、大きなアドバンテージを得ることになるだろう。私たちは皆、今もインターネットに接続している。不誠実な場所で開発されたAIは、やはり世界中の人々に影響を与えるだろう。

 

適切なバランスを見つけることは、世界の指導者たちにとって重要な課題であり、私たちの指導者たちに取り組んでほしいことである。一方、AI企業をリードする人たちは、自分たちが取り組んでいることを常に検証し、それが倫理的であることを確認し、同業者にも同じことをするよう働きかけることをお勧めしたい。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の6/9公開の記事を翻訳・補足したものです。