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アプリ内リターゲティング戦略は、優良顧客を見出し、解約の可能性を減らし、LTV向上の鍵となる

アプリ内リターゲティング戦略は、優良顧客を見出し、解約の可能性を減らし、LTV向上の鍵となる

マーケティング
2023/02/24

アプリ内のリターゲティングがアプリユーザーのロイヤルティ向上にどのような効果があるかについて、ドイツのモバイルアドテック企業Remergeのチームに考察を聞いた。

 

ユーザー獲得はパズルの小さな一ピースに過ぎない

アプリベースのビジネスが関心を持つトップレベルの指標の1つに、「インストール数」と「新規ユーザー獲得数」がある。アプリのインストール率は、これらのビジネス(およびその投資家)が自社製品に対する需要を理解するのに役立つことから、重要な指標とされている。あるアプリについて、大量の新規インストールが示された場合、それは、そのアプリについて幅広いブランド認知が達成され、強力なプロダクトマーケットフィット(顧客が満足する商品を、最適な市場で提供できている状態)を獲得できていることを示す良い指標となる。

 

成長可能性を示すことは、ビジネスとしての実行可能性を証明する重要な第一歩だ。そのため、アプリに関しては、ユーザー獲得(UA)キャンペーンにマーケティングリソースを集中させることが多い。インストールと登録のプロセスはセールスファネルにおける重要なステップであるため、インストールと新規ユーザーに関する一貫したフローを確保することは理にかなっている。ただし、ユーザーを獲得したとしても、そのユーザーによる購入やアプリの使用が保証されるものではない。最近のAppsFlyer(広告業界向けのSaaSモバイルマーケティング分析やアトリビューションプラットフォームの開発を行う米国企業)のレポートによると、2022年には、アプリの49%がダウンロード後30日以内にアンインストールされ、そのうちのほぼ半数はわずか24時間以内にアンインストールされていることが明らかになった。

 

製品の種類や業界によって異なる場合があるが、平均的な購入には少なくとも7回のマーケティングタッチポイントが必要であるとされている。つまり、マーケティング活動は最初のインストールだけで終わってはいけないのだ。RemergeのプリンシパルアカウントマネージャーであるEkaterina Li氏は、イスタンブールで開催されたMobidictumカンファレンスで次のように説明している。「ユーザー獲得だけでは十分ではない。多くの調査によると、デイリーアクティブユーザーの約90%が、アプリのインストールから7日で離脱するという。したがって、インストール初日から強固なリテンション戦略を構築しない限り、ユーザー獲得(UA)への投資はあまり意味がないだろう」。

 

フルファネルマーケティング戦略とは何か?リターゲティングが効果を奏する購買プロセスはどこか?

多くのデジタルやアプリベースのビジネスにおける典型的なマーケティングファネルは、通常、潜在顧客にブランドをよく知ってもらうために設計された一般的な認知度向上キャンペーンから始まる。このメッセージングは、単にブランド想起を確立することを目的としているため、必ずしもコールトゥアクションは必要ではない。ファネルの次の段階は検討段階であり、広告は提供する製品やサービスをチェックするようオーディエンスを促す。オーディエンスの中には、ランディングページからクリックして詳細を確認する人もいれば、購入に至る人もいるだろう。このような顧客の行動に関するデータが、最終的かつ最も重要な段階であるリターゲティングの戦略に影響を与えるのだ。

 

トップオブファネルの広告キャンペーンが、潜在顧客と既存顧客の両方から一貫したエンゲージメントフローをもたらし始めたら、リターゲティング広告の運用に注力することができるようになる。リターゲティング広告を見た人は、すでに貴社ブランドを知っているため、貴社はよりカスタマイズされたメッセージを使って、ファネルのボトムで行われる特定の(そして多くの場合)コンバージョンに向けたアクションを取るよう顧客を促すことができる。このアクションとしては、以前見た製品を購入することや、優良顧客やリピーター向けのリワードとして割引を受けたりすることだ。

 

貴社のリターゲティング広告の基準を満たすユーザーは、貴社の製品を知らないユーザーよりも購入に至る可能性が高いため、究極的には最も価値の高いユーザーとなる。その点において、リターゲティング広告は、解約を減らし、収益を向上させ、ユーザーの生涯価値(LTV)を高めることから、顧客獲得戦略を補完するものである。ただし、リターゲティング広告を出すタイミングが重要であることにも注意が必要だ。一部のアプリベースのビジネスでは、最後のタッチポイントから7日以上経過したユーザーにリターゲティングを行っても、すでに遅すぎて効果が得られないと考えられている。

 

リターゲティングが重要な理由

Remergeのチャネルアライアンス担当ディレクターであるSteve Massaro氏は、次のように説明する。「新規ユーザーはいろいろな場所でファネルから離脱する可能性があり、どのように再エンゲージするかは、離脱した場所によって異なる。最近貴社のアプリをインストールしたユーザーは、登録プロセスを完了していないかもしれない。そのユーザーは、貴社のショップでカートを放棄してしまったり、一度購入しただけでブランドとの関わりを失ってしまったりしたのかもしれない。これらのすべての段階に対応するキャンペーンをテストし、繰り返し行うことが、顧客をセールスファネルにうまく誘導し、購買を継続させるように促すための鍵となる」。

 

また、リターゲティングについては、その有効性を証明するレポートが多数存在する。ある調査によると、リターゲティングキャンペーンの対象となったユーザーは、リターゲティングされなかったユーザーと比較して、インストール後の30日間におけるエンゲージメント率(ユーザーごとのアプリ内イベント数)が全体で152%高くなったという。インストール初日では、リターゲティングされたグループのエンゲージメント率は200%とさらに高くなっている。それだけでなく、リターゲティングされていないユーザーよりも、最初の30日間で平均37%も多くの収益イベントをもたらしているという。

 

RemergeのEMEA(欧州、中東およびアフリカ)担当セールスディレクターであるKate Taganova氏は、ベルリンで開催された2022年のApp Promotion Summitでこの点に関して次のように説明している。「あらゆる予算が削減されている現在、できるだけ賢く資金を投入し、クライアントに付加価値をもたらすことがこれまで以上に重要になっている。実際のところ、特にインストールあたりのコスト(CPI)が高くなる成熟期のアプリの場合、アプリ内のユーザーを維持することは、新規インストールを獲得するよりも安価で、費用対効果が高い」。

 

まとめ

説得力のある調査結果を踏まえると、ユーザー獲得キャンペーンは、一時的かつ短期的なビジネスの成功をもたらすに過ぎないといってもいいだろう。新規に獲得したユーザーの大半は、統計的にロイヤルな長期顧客になる可能性が低いからだ。リターゲティングキャンペーンをモバイルマーケティング戦略に組み込むことで、優良顧客を見出し、解約の可能性を減らし、顧客の全体的な生涯価値(LTV)を向上させることが可能となる。これは、Steve Massaro氏が言うように、「売上高と広告費に対するリターンの鍵」なのだ。

 

※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の2/13公開の記事を翻訳・補足したものです。