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デジタル業界も他人事ではない、デジタル広告はいかにしてCO2排出量の削減を先導できるか

デジタル業界も他人事ではない、デジタル広告はいかにしてCO2排出量の削減を先導できるか

マーケティング
2023/01/31

広告主がデジタルマーケティングにおける多額の炭素コストの負担を減らすためにできる5つのステップ

 

人間の活動による地球温暖化により、すべての企業は二酸化炭素排出量を削減することが求められている。特に航空業界は、この10年間で温室効果ガス(GHG)排出の誘因であるという悪名高いレッテルを貼られてきた。

 

驚くべきことに、デジタルエコシステムは現在最も急増しているGHG排出源であり、この5年間、年6%の増加を記録している。フランスのシンクタンクであるThe Shift Projectよると、デジタルイニシアチブは世界のGHG排出量の3.5%を占め、航空業界の2.5%を上回っているという。

 

デジタル広告の増加により、コネクテッドTVプラットフォーム、リテールメディア、屋外広告などあらゆるものが強化され、オンライン広告の炭素コストは無視できないものとなっている。

 

デジタル広告の二酸化炭素排出は、主に以下の5つの領域で生じている。

 

・広告の制作と配信 – 技術チームと輸送

・撮影プロセス(セットやエネルギーコストを含む)

・テクニカルプロダクションリソース

・グラフィックの作成、編集、ポストプロダクション

・管理業務/労務

 

さまざまな規模の広告主が、今後10年間で業界の二酸化炭素排出量をゼロにすることを大胆に約束している。しかし、デジタルキャンペーンにおける実際の二酸化炭素排出量に関する正確で信頼できるデータがないことが、「排出量実質ゼロ」を達成する大きな障害となり続けている。

 

持続可能な活動を推進する上で、何から着手すべきかを把握することは簡単ではない。広告主にとって、気候変動に取り組むための第一歩は、自分たちが環境に与える影響を判断することだ。

 

広告キャンペーンにかかる炭素コストの内訳

信頼できるデータがあることで、信頼に足る測定が可能となり、適切なアクションを起こすことができる。正確な二酸化炭素排出量の測定という業界全体が抱える問題に対応するため、グローバルマーテックコンサルタント企業のfifty-fiveは、ブランドのデジタル広告キャンペーンにおける二酸化炭素排出量への影響をよりよく理解するための研究を実施した(公表:筆者はfifty-fiveの社員である)。

 

オープンソース(公開情報)に基づく本研究報告は、グローバルに共同で行われた研究結果の初版であり、ブランドがデジタルとエネルギーの変革に共同して取り組むことを目的とするものである。

 

この研究では、仮想上のフランスの高級香水ブランドのデジタルキャンペーンを分析し、広告キャンペーンのGHG排出量を計算する方法論に加えて、ベストプラクティスや即効性ある排出量削減のための提言を示した。

 

本レポートは、二酸化炭素排出量の算出にあたっては、主として2004年にフランスの環境・エネルギー管理庁(ADEME)が開発したテストツール「Bilan Carbone手法」に準拠した。

 

この手法は、ある品目、製品、サービスに必要なすべてのプロセス(貨物輸送、旅客輸送、原材料の生産、廃棄物処理など)に由来する二酸化炭素排出量を計算するものである。

 

これらの活動から得られたデータは、十分に実証された排出係数を使って二酸化炭素(CO2)の排出量に換算される。fifty-fiveの仮想的なキャンペーンでは、この手法を活用して、クリエイティブ制作やさまざまな広告チャネルでの放送、オーディエンスターゲティングの影響の測定を行った。

 

この調査によると、単一の広告主による代表的なデジタル広告キャンペーンは、約323トンの二酸化炭素(これは、パリ―ニューヨーク間の往復便160回分に相当する)を排出することが明らかとなった。代表的なキャンペーンには、クリエイティブ制作、デジタル広告チャネルでの放送、オーディエンスターゲティングとオーディエンスによる広告の消費が含まれる。

 

広告主にとって実質ゼロを達成するのは困難なことのように思えるが、いくつかの小さな変化を加えることで、広告主はデジタルキャンペーンの影響を50%近く削減できることも分かった。

 

広告主が二酸化炭素排出量を削減する方法

広告業界が二酸化炭素排出量を削減し、より持続可能なものとなるには、いくつかの方法がある。ここでは、キャンペーンの効率を損なうことなく、排出量を削減するための5つの提言を紹介しよう。

 

1.持続可能な撮影を選択する

動画撮影は、優に200トンを超えるCO2eq(二酸化炭素換算)を排出し、このうち、輸送によるものが80%以上を占める。地元での撮影を選択したり、既存のコンテンツを再利用したりすることで、広告主はキャンペーンによる排出量を大幅に抑えることができる。

 

2.動画コンテンツをより軽くする

動画は最も重い広告フォーマットだ。動画を短くしたり、解像度を下げたりすることで、動画のサイズを小さくすることができる。

動画を3秒短くするとCO2eqが20%削減され、解像度を1080pではなく720pで撮影するとCO2eqは30%削減される。

 

3.モバイルネットワークではなく、Wi-Fiを利用する

モバイルネットワークは、Wi-Fiと比較して約6倍のGHG(温室効果ガス)を排出する。モバイルネットワークの使用を制限するかわりにWi-Fiを使って共有し、よりエネルギー効率の高いデジタル技術を採用することで、二酸化炭素排出量を大幅に削減することができる。

 

4.広告ターゲティングの最大化

ターゲティングとは、マーケティング予算の有効活用であり、不必要に二酸化炭素を排出する無意味なインプレッションを大幅に削減することができる。

オーディエンスターゲティングの段階での二酸化炭素排出量は少ない。ターゲティングの影響を算出するには、広告主は「gCO2PM」(1,000インプレッションあたりの炭素コスト(gCO2eq))を使用することができる。

 

5.オークションの入札者を減らす

オークションの段階では、競争相手や中間業者が多いほど、より多くの計算が必要となり、二酸化炭素排出量の増加につながる。この対策として、広告主はプロセスに関与するステークホルダーの数を減らす必要がある。

 

今後の展望

真の変革には、業界全体での取り組みが不可欠だ。仮想的な広告キャンペーンのメディアプランとデータに基づいた評価は、fifty-fiveの実体験から得られたものだ。仮想的なクライアントの利用は、広告主やエージェンシーが本質的に偏りなく、自社のキャンペーンと研究レポートとの関連づけを促すための手法である。

 

広告主は、デジタルキャンペーンの背後にある広告チャネルとマーケティング戦略を評価することで、メディア購入のための体系的な二酸化炭素排出量の算出と加速度的な削減計画を構築することができる。これは最終的には、業界のサプライチェーンを脱炭素化するための新たな基準を打ち立てることになるのだ。

 

あらゆる業界のマーケターやアナリストが率いる組織が、持続可能な広告が抱える問題の深刻化に対して、業界レベルで専門知識を提供するべく立ち上がっている。広告における二酸化炭素排出量測定の標準化を推進する組織であるScope3は、持続可能なプログラマティック広告の最適化のための信頼できるソースとして評価されている。

 

この組織は、広告キャンペーンごとに簡単に測定できるカーボンニュートラルなメディアとして、グリーンメディア製品(GMP/Scope3データを利用したカーボンニュートラルなメディア製品)を導入している。GMPに費用を割り当てることで、排出量削減に向けた意思決定のために炭素の価格付けを行うことができるようになる。

 

広告業界における持続可能性の取り組みには、まだ大いに進歩の余地がある。広告業界は、より持続可能な手法やテクノロジーを取り入れ、協力して取り組むことで、気候変動との闘いや低炭素経済への移行において重要な役割を果たすことができるのだ。

 

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/11公開の記事を翻訳・補足したものです。