この厄介なインフレ時代、対面ショッピングに戻る消費者が増えていく中で、Wayfair(家具や家庭用品などを販売する米国のECサイト)やEtsy(ハンドメイド製品を扱う米国のECサイト)、eBayなどの多くの企業は、eコマースのリセットに苦慮している。
MasterCardによると、4月の店頭でのショッピングは10%増加したが、eコマースの売上は前年比で2%近く落ち込んだという。Amazonでさえ、第一四半期のオンライン小売売上が3%減となり、痛手を負ったようだ。
このように店頭でのショッピングが返り咲く状況下で、大企業がeコマースでの問題を解決しようとする中、楽器やプロオーディオ機器の小売業者であるSweetwaterは、オンラインショッピングの売上を伸ばしている。同社は、オンラインと1対1のパーソナライズされた独自の顧客サービスを通じて、最高級の体験を提供することが成功の要因であると述べている。
Sweetwaterの最高事業成長責任者(CGO)であるMike Clem氏によれば、マクロ経済は現在厳しい状況にあり、パンデミックはしばらくの間、破壊的な波紋を広げ続けるだろうという。それでも、パーソナライゼーション、プロモーション、付加価値で勝負できる賢い小売企業には、多くの前進があるとClem氏はみている。
小売業者は最近、そのような戦略をよく耳にする。しかし、Sweetwaterにとって、このアプローチは効果的だと証明されている。2003年にClem氏が加わった当時、同社のウェブサイトでの売上は400万ドルだった。ところが昨年、同社は売上高が14億3,000万ドルを突破し、注文件数は400万件に拡大したと発表した。
「Sweetwaterは、コロナ禍によって加速された業界にいることが幸運だった。多くの人が初めて楽器を手にしたり、趣味を再燃させたり、ストリーミングやオンライン演奏に投資したりした。今、そうした顧客が楽器をアップグレードしたり、付属品を買い足すために戻ってきてくれている。このような情熱の高いカテゴリーではリテンションが強いのだ」とClem氏は語った。
音楽の裏側に迫る
Sweetwaterのきめ細かくパーソナライズされたマーケティングのアプローチから、他のオンライン小売業者が学ぶべき点について、Clem氏に話を聞いた。
Sweetwaterの目覚ましい売上成長は、音楽関連の製品ラインとeコマースプラットフォームの両方によるものだろうか?
Clem氏:多くのデジタル技術革新が我々の成長を後押ししてくれているが、当社の核心は、まさに600人の「セールスエンジニア」のチームである。彼らは、一流の音楽のバックグラウンドと、機材について驚くほど豊富な知識を持つ、この業界で最も高度な訓練を受けたアドバイザーである。
彼らは、オンライン、電話、SMS、eメールで、顧客の買い物をサポートする体制を常に整えている。そして、購入後もサポートやアドバイスを提供し続けている。このフォローアップこそが、真の関係を築き、顧客の音楽のゴールへの推進力となっているのだ。
パンデミックの影響が落ち着くにつれて、どのようなトレンドが生まれるとみているか?
Clem氏:ほとんどのカテゴリーが正常化し始めていると思う。アパレル業界のような落ち込んだカテゴリーは回復しつつあり、上昇さえもしている。また、家庭用品のような上昇したカテゴリーは、ピークから引き戻されつつある。多くの小売企業はパンデミック時に新規顧客を獲得したが、今が、彼らとの関係を再構築し、リピート客を増やすチャンスである。
店頭での購入に戻る買い物客が増えつつあるが、eコマースにどのような影響を与えるだろうか?
Clem氏:コロナ禍にオンラインショッピングに移行したことで、多くの人が素晴らしい新ブランドを発見した。
多くの人が、以前はオンラインで買おうと考えもしなかった商品を購入した。素晴らしい体験を提供した小売企業にとって、今、このような顧客を維持し、彼らが店頭での購入に戻らないようにするチャンスを得ているのだ。
サプライチェーンの中断は、オンラインショッピングの安定性にどのように影響を及ぼしているか?
Clem氏:当社のサプライチェーンは依然として大きな混乱が続いている。私たちは、自信を持って入手できるアイテムにウェブサイトを集中させることで成功を収めている。また、人工知能(AI)と人間の両方を使って、代替品を提案している。
これにより、最も混乱を被ったカテゴリーでの広告を最適化することができる。これは、私たちが見ている商品の需要について、ベンダーとのコミュニケーションを増やすものだ。
最も人気のある製品は何か?
Clem氏:私たちは、ギター、ドラム、キーボードなど、多くの楽器ブランドの最大の販売店である。しかし、私たちは、ミュージシャン、学校、教会、プロスタジオ、ホームレコーディングなどのための録音やライブサウンドテクノロジーの専門知識で最もよく知られている。
今、活気づいているカテゴリーは、オンラインストリーミングやコンテンツクリエーター向けのオーディオ機器で、コロナ禍に爆発的に売上げを伸ばした。
Sweetwaterのレコーディングルーム(画像出典:Sweetwater)
Sweetwaterは、インディアナ州フォートウェインに大きな実店舗があるが、他に小売店舗はあるか?
Clem氏:インディアナ州のフォートウェインのキャンパス内に旗艦店を1店舗構えている(写真上)。 ここでは、1か所でたくさんのギアを聴き比べできるので、大変ユニークな「デスティネーション(目的地)」ストアとなっている。展示品や倉庫には5万点近いアイテムがあり、豪華なラインナップだ。顧客はその体験を求めて、何州も離れたところから車でやってくるのだ。
Sweetwaterのベースギタールーム(画像出典:Sweetwater)
もっと多くの店舗を持つ他の楽器店と比べて、Sweetwaterが際立っている点は何か?
Clem氏:私たちは、この業界で最高のオンラインショッピング体験を実現するために、最もプロフェッショナルで知識豊富な専門家を多くの店舗に分散させることなく、1か所に集めることに力を注いできた。
私たちは、最高の価値を提供し、顧客とのあらゆる対話において「感動」を与え、彼らの音楽の旅において価値あるパートナーとなるために、個人的なレベルで彼らと真摯に向き合うことで、勝利を手にする。
楽器は、従来、顧客が購入前に実店舗に行って試してみてから買うという商品の典型例である。 Sweetwaterはどのようにその障害を克服し、eコマースで成功したのか?
Clem氏:まさにその通りである。楽器は、感情的な購入になる場合が多い。しかし、特に複雑なテクノロジー製品の場合、豊富な品揃えや、専門的なアドバイスをもらえる地元の優良店を見つけるのは難しい。
私たちは、そのギャプを埋めるために、優秀なアドバイザーと、リサーチに役立つ多くのリッチメディアを提供している。たとえば、入荷したギターのほとんどを写真に撮り、顧客が細部まで吟味して、お気に入りの1本を選べるようにしている。
(画像出典:Sweetwater)
また、55項目の検査工程を経て、実際に地元店舗の壁に掛かっているほとんどのギターよりも品質が良いことを確認している。
貴社の製品には、かなり大きいものや、重いものが多くあり、輸送コストがかかると思われる。価格競争力を維持するためのフルフィルメントプロセスについて、どのような課題と解決策があるか?
Clem氏:ここ最近では、送料無料が当たり前のようになっている。そこで、私たちは業務効率に重点を置いている。例として、輸送会社の組み合わせ、梱包材、インテリジェントボクシング、まとめ発注などの最適化などがある。また、顧客のより近くで、より迅速な配送を実現するために、新たな配送センターの拡張にも取り組んでいる。
Sweetwaterディストリビューションセンター(画像出典:Sweetwater)
Sweetwaterは、返品を最小限に抑えるためにどのような取り組みをしているか?
Clem氏:当社の返品率が非常に低いのには、3つの理由がある。顧客がリサーチしやすいように膨大な量のリッチオンラインコンテンツを提供していること、顧客が複雑な製品を理解し、その製品が彼らの特定のニーズに合っているかを確認するために専門家を配置していること、そして、販売後も無料のテクニカルサポートを提供し、すべてがうまく機能しているかを確認していることである。
Sweetwaterはマーケティングに多大な投資をしている。それは、企業の成功にとってどの程度重要か?また、貴社にとってどのチャンネルが最もパフォーマンスが高いか?
Clem氏:私たちは、認知度向上と新規顧客の獲得に重点を置いたマーケティングを行っている。そして、私たちのチームは、素晴らしい体験と顧客との関係のナーチャリングに重点を置いているため、非常に強いリテンションを享受している。
当社は、高度な検索エンジンマーケティング(SEM)プログラムを導入しており、情熱の高いこの業界で、インフルエンサーやアフィリエイトパートナーと協力して、素晴らしい成果を上げている。多くの小売業者同様、クリック単価(CPC)が上昇を続けているため、SEMへの依存度を下げることが現在の課題である。
貴社のウェブサイトには、プロのミュージシャンによるデモンストレーションや推薦の動画が多数掲載されている。その制作や、業者やパフォーマーとの関係維持のために必要なことは何か。
Clem氏:私たちは、この業界で、「リサーチのデスティネーション(目的地)」としての評価を得るために努力を重ねてきた。社内に専門家とアーティストで構成された大規模なチームがあり、製品を調査し、カスタムメイドの説明文や写真、スピン写真、リッチメディア、オーディオ、ビデオを制作している。顧客は、私たちのウェブサイトで最も詳細な製品情報を得られることを知っているのだ。
※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の7/21公開の記事を翻訳・補足したものです。