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チャットボットはECの未来にどのように影響を及ぼしていくのか - AIの進化と人間の暖かみの狭間で

チャットボットはECの未来にどのように影響を及ぼしていくのか - AIの進化と人間の暖かみの狭間で

トレンド
2017/01/13

チャットボットはECの未来にどのように影響を及ぼしていくのか - AIの進化と人間の暖かみの狭間で

 

女子高生AI「りんな」をご存知だろうか。2015年7月にMicrosoftが開発、LINEのサービスに登場した人工知能である。

リアルな女子高生感が反映されたマシンガントークとレスポンスの早さが話題を集め、トータルユーザー数380万人超を誇っている。りんなはユーザーとAIとのトークを主な目的としたサービスだが、ビジネスの世界ではAIがお客様とのトークを通してサポート業務を行う「チャットボット」が脚光を浴びつつある。今回はそんなチャットボットの現状と、ECの未来に与えていく影響ついて考えていく。

 

 

そもそもチャットボットとは

 

チャットボットとは、人工知能(AI)を活用して自動対応する会話型プログラムのことを指す。高度なチャットボットになると人間はチャットボットと通常の会話をしているような感覚になるくらい自然な応答が可能となっている。チャットボットの仕組みはアプリのそれと非常に似ている。両方のケースにおいて各企業はインフラとして公開されているフォーマットを利用することにより、自社のサービスを消費者に提供することができる。もちろんインフラとしてのフォーマットを使用せず、独自のチャットボットを開発する企業も存在する。しかしアプリの場合、そもそもインフラとしてフォーマットを提供できる主体がデバイスごとに限定されているのに対し、チャットボットの場合はそうした制限がないため多様な種類のフォーマットが存在する点が異なる。

 

 

チャットボットを構成するツール

 

チャットボットを構成するツールには、フレームワークとAPIの2種類が存在する。フレームワークは、Microsoftなどの開発環境が主体となって提供しているサービス(Microsoft Bot Frameworkなど)のことを指す。Facebookやメールなど複数のチャンネルへの接続が可能だが、あくまで構築ツールとしての役割しかないため、フレームワーク単体では意味を成さない。

APIはFacebook MessengerやKikといったコミュニケーションツールがそのメッセージプラットフォーム内でチャットボットサービスを各企業が展開するためのコードやルールセットだ。各企業はそれぞれのメッセージプラットフォームを跨いだボットは構築することはできないが、チャットボット自体の構築は比較的容易に行えるようになっている。

 

 

メッセージプラットフォームのチャットボットAPI

 

それでは既に多くのサービスに利用されている主要なメッセージプラットフォームのAPIを見ていこう。

 

Messengerボット

Facebook Messengerは2016年4月12日にチャットボットのプラットフォーム「Messengerボット」を公開した。Facebook公式のHPでは、チャットボットを導入したいと考える事業者へ向けて実践的なガイドラインを発表している。ユーザーにボットを見つけてもらうことから表示や会話のカスタマイズ、顧客管理など多岐のシーンに渡って細かく説明している。また特徴的なものとして、新たにMessenger Codesと呼ばれるFacebook独自のQRコードを導入した。ユーザーはMessengerコードを端末でスキャンすることによって特定のボットとつながり、簡単にチャットを開始できるサービスとなっている。初心者でも組み立てやすい設計となっている。

そして9月12日にはFacebook Messengerは支払いをMessenger内で完結させることができるサービスを開始。それまでは商品の決済をするためにはユーザーは一旦外部のサイトへ遷移する必要があったが、これからはMessengerから離れることなく商品の決済を完了させることができる。これはチャットボットで商品を販売するシステムを構築する際の利便性が格段に向上することを意味する。ユーザーはFacebookに決済情報を登録することにより、商品の選択から決済までよりシームレスなショッピング環境を楽しめるのだ。Facebookとは異なるアプリとして歩んでいるFacebook Messengerの利用者は既に10億人を超えており、FacebookはMessengerボットの拡大に積極的な姿勢を見せている。

 

LINE “Messaging API”

2016年9月29日、LINEが提供を開始したMessaging APIとは、Push API(Bot→ユーザー:任意のタイミングでの発信)とReply API(Bot⇔ユーザー:ユーザーへの応答メッセージの発信)をカスタマイズすることで簡単にチャットボットを構築することができるツールキットである。

1対1でもグループでもトークが可能で、豊富なメッセージタイプが特徴となっている。またLINEはチャットボットの開発促進・ユーザーへの普及を目的として優勝賞金1,000万円を冠したLINE BOT AWARDを開催している。

LINEは他にも2016年11月16日にLINEを活用した法人向けカスタマーサポートサービスLINE Customer Connectを2017年春を目途に提供を開始することを発表している。企業はAIとチャットシステムの連携による本サービスを導入することで、LINE上で顧客対応することができる。本格的なサービス開始前の試験運用として、2016年11月21日にLOHACOのマナミさんにLINEのアカウントが実装された。

 

Kik

2009年にカナダでサービスが開始されたメッセージングアプリKikは、アメリカのティーンエイジャーの約40%が使用しているなど、ティーンエイジャーに爆発的な人気を博している。

ユーザーの年代層に合わせ、News and Noteworthy/Entertainment/Fashion&Beauty/Games/Lifestyleの5つのカテゴリに分類されている。Kikの特徴として、トーク・ブラウジング・共有を同一のページで完結できることが挙げられる。例えば友達とチャットしている際、そのトークルームから直接ブラウザで検索をかけ、さらに検索結果をトークルームですぐに共有することができる。Kikではログインの際に自分のアカウントでKik Codes を作成する必要がある。これはFacebookのMessenger Codes同様、Kikが提供している独自のコードである。多くのSNSはアカウント登録の際に電話番号を入力しなければならないが、Kikの場合はメールアドレスと誕生日、ユーザー名を登録するだけのシンプルなつくりとなっており、その手軽さとセキュリティの高さが特徴となっている。

このKikは2016年4月にボットAPIの拠点となるボットストアをスタート。

既に多くの企業がユーザーとチャットボット経由で繋がっており、新たな企業宣伝のプラットフォームとなろうとしている。

 

WeChat

中国のテンセント社が提供するWeChatは中国最大シェアを誇るSNS。中国版LINEと称されるように、チャットの送受信や無料電話などの通信機能だけでなく、マッチング機能「シェイク」や決済などもアプリ内で行うことができるソーシャル機能も兼ね備えている。ショッピングや新幹線のチケットの予約などを企業のアカウントとのチャットを通して簡単に完了させることができる柔軟さが特徴となっている。チャットボットは米国を中心に盛り上がりを見せているが、実は業界の先駆者と言われるのがこのWeChatだ。こちらも企業の公式アカウントを中心に導入が進んでいる。

 

 

チャットボットサービス導入事例

 

それでは、EC関連での具体的なチャットボットの導入事例を見ていこう。

 

eBay “ShopBot”―Facebook Messenger

eBayは2016年10月17日にAIによるパーソナルアシスタントeBayShopBot(ベータ版)を開始

ShopBotとのチャットを通して、eBayに出品されている10億点もの商品から個人の好みに合わせた商品をおすすめしてくれるシステムとなっている。また、テキストでのチャットだけでなく写真の送信や会話も有効で、まるで友達と話しているかのような気軽な感覚でショッピングを楽しんでもらうことを目標にしている。

 

LOHACO「マナミさん」―LINE

アスクル株式会社が運営する通販サイトLOHACOは、2016年11月21日にチャットボットで顧客の問い合わせに回答する人工知能型チャットボットのサービスをLINE上で開始。LINEアカウントの実装に際してLINE Customer Connect(LCC)を日本で初めて導入したことでも注目を浴びた。

LOHACOはユーザーの約4割がサポートデスクの受付時間外に問い合わせている状況を受け、24時間365日対応できる体制を構築するべく「マナミさん」が2014年9月に導入された。マナミさんは「趣味は雑貨屋さんやカフェ巡り」という綿密なキャラクター設定や、メッセージによって表情が変わったりと親しみやすさを持たせた設定が特徴となっている。そして2016年5月にはマナミさんが全問い合わせの3分の1をカバーし、省人化効果は6.5人になるなど高い成果を発揮。またマナミさんによる対応についても、7割のユーザーから「回答について適切である」と評価されているように高い精度を誇っている。カスタマーサポートにチャットボットを導入することによって、問い合わせの量に関係なく均質で正確なサービスを提供することができ、顧客対応にかかる人員・資金面のコスト削減、さらには顧客の意見を蓄積することでマーケティングに応用できるというメリットが得られるとしている。

このLINEマナミさんの登場でよりサポート業務の精度向上が期待されている。

 

 

AIの進化と人間の暖かみの狭間で

 

チャットボットの導入はユーザーと企業の双方にwin-winな関係を期待できる。ユーザーは膨大な候補の中から自分が欲しいサービスを一発で検索でき、時間帯にとらわれない迅速な対応を受けられる点がメリットして考えられる。一方で企業側は、顧客対応の自動化によるコストカット、均一なサービスを高い基準で提供することができ、データを集積することでより精度の高いマーケティングが可能になる点がメリットとしてあげられる。

現段階のチャットボットの導入例としては、例外が少なく解答をパターン化しやすい顧客対応が最適かつ主流であるといえるだろう。だがSalesforce社が2016年12月15日に発表した新機能LiveMessageでは、顧客と企業がメッセンジャーアプリを通して双方向に直接的なやり取りが可能になるなど急速に進歩を見せている。チャットボットは主体と目的を変化させながら、着実にその実現分野を伸ばそうとしていることは間違いない。

しかしそうは言っても現状では完全な自動化に踏み切っている段階のサービスは少なく、自動接客の精度(自然な接客や正確な言語)をいかに高めていくかが今後の大きな課題となっている。言い換えれば人間的な側面や、気付きなどの暖かみを再現するには至っていないということだ。チャットボットがより浸透していくためには、人間的な対応レベルを向上させるだけでなく、デジタルテクノロジーをフル活用した接客レベルの向上が欠かせないだろう。例えば各種の履歴データやビッグデータ分析などと連携させることで、人間を超えるロボットとしての気付きや暖かみを提供するような方向性での進化も1つの解となるだろう。今後どのようにEC業界にチャットボットの活用の波が押し寄せてくるのか。チャットボットの動向に注目したい。

 

<参考>

【米国】Salesforce社、次世代の対話型サービス「LiveMessage」等、複数のチャットボットを発表