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GoogleのFLoC、IDソリューションや広告主に脅威を及ぼす

GoogleのFLoC、IDソリューションや広告主に脅威を及ぼす

マーケティング
2021/04/20

業界はオーディエンスへリーチする他の方法を目下模索中である

 

「結局のところ、これは『ビッグ・テック』が、同業界の小人たちを潰しているのだ」と語るのは、米国の広告マーケットプレイスAd.netのCEOであるJon Waterman氏。

「国や州ごとに政策や規制がばらばらの市場が存在することになるだろうし、それはすでに起こっていることだ。また、さまざまなブラウザが散在し、それらすべてが異なる方針をとることになる。これは、我々全員が備え、目を見開いておくべき現実なのだ」と語る、Engine Technologyとデジタルマーケットプレイスを手掛けるEMX DigitalのCEOであるMichael Zacharski氏。

「我々は、Google、Apple、Facebookといった『ウォールド・ガーデン』が何をしようとしているのかに影響を受けている。これに対抗するためには、現在のサードパーティのデータにおける状況全容を活用することが重要である。サードパーティ・データを所有している限り、彼らはそれを奪うことはできない」と、カスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)を提供するBlueConicのプロダクトマーケティング担当ディレクターであるSam Ngo氏。

 

3月3日にGoogleが発表した短い声明の重要性が理解され始め、広告分野では深刻な不確実性が高まるなか、広告およびデータ分野における3人のプレーヤーがこれに対しコメントしている。

 

もう一つのウォールド・ガーデンになりゆくGoogle

The Trade DeskLiveRampNeustarなどのIDおよびデータのベンダーは、2022年にサードパーティのCookieがChromeのエコシステムから消滅する前に、広告主の効果的なリターゲティングを可能とする代替識別子を開発するために数か月を費やしてきた。これらのソリューションは、基本的には、行動シグナルを合意に基づき取得されたファーストパーティの識別子(ハッシュ化されたメールや電話番号)に関連付けることで機能する。おそらく最もよく知られているのは、The Trade Deskが開発し、現在はオープンソースアライアンスのPrebid.orgが管理しているUnified ID 2.0である。

 

Unified ID 2.0の詳細について

 

しかし、Googleの「我々が個人のウェブ閲覧を追跡するための代替識別子を構築、または、Googleプロダクト内においてそれらを使用することない」という言葉は、Unified ID 2.0のアプローチ全体を弱体化させるものだったのだろうか。

 

Waterman氏は最悪の事態を懸念している。「Googleは、The Trade Deskを使いたければ使えばいいが、パブリッシャーは、メールアドレスや電話番号のような固有の識別子を所有しアクセス権を持つものに限定されるだろうと言っているのだ」。Googleでの広告は、Google自身のFLoC(Federated Learning of Cohorts / 連合学習のコホート)のオーディエンス(Googleブラウザレベルでの行動によってグループ化された集団)への広告に限定される。

 

「Googleは、ウォールド・ガーデンの概念を『プライバシーサンドボックス』という名前をつけた。これは、ウォールド・ガーデンを、より一般の人々に親しみやすい言葉で表現したものだ」そのようにAd.netのビジネス・インテリジェンス担当副社長であるJustin Nakamura氏は付け加えた。

 

「Googleは、自分たちの利益のためにこの混乱を引き起こしている」とWaterman氏。

 

Zacharski氏は、いくつかの可能性を受け入れる準備を整えている。「私は、Googleが『あなたのためにコホート・オーディエンスを構築するつもりだ』と言っていると認識している。一つの解釈としては、Googleが、オーディエンスをどのように構成するかの方策が見えているか否かに関わらず、誰がどのオーディエンスに属するかの決定権者になっていくということだ。もう一つの解釈は、FLoCを通じて、Googleがこの分野における最大のデータブローカーになるというものだ。そうなると、多くの企業のオーディエンス構築に関する考え方と、オーディエンスをカスタマイズし、差別化する方法に変化をもたらすだろう」。

 

あるいは、Googleは、次のことを意図しているのではないかと同氏は考えている。「ファーストパーティを使用している場合、FLoC経由では利用できないが、1対1の同意がある限り、外部からは利用できる。Prebidのシングルサインオンやハッシュ化されたメールや電話番号の照合がChromeでブロックされるかどうかにかかわらず、これは大きな議論となっている。この点についてはまだはっきりしていない」。

 

最悪のシナリオは、GoogleがFacebookのように、独自のオーディエンスを構築して広告主に販売し、その方法についてはほとんど、あるいは全く見えなくしてしまうことだ。最良のシナリオでは、Googleは確実にそうするだろうが、ファーストパーティのデータに基づくオーディエンス展開を完全には禁止しない。

 

「それぞれの抱える確実性、不確実性、疑念の度合いは異なるだろう。立場や枠組みがあるものの、現実には未知のことが多くあるからだ」。

 

そして、消費者が投げ掛ける質問があるとZacharski氏。それは、「Googleのオーディエンスの資格を得るために、私のどのデータ信号が使われているのか。そもそも、コホートから脱退することはできるのか」というものだ。

 

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ファーストパーティデータの利点

Googleの立場がどのようなものになるにせよ、ブランドがファーストパーティデータを重視するようになることは間違いないだろう。そして、それがすべてを解決するわけではないことも確かだ。

 

「当社にとっては、サードパーティCookieの完全なリプレイスメントではなく、企業がファーストパーティのデータ資産を構築し続けることをいかにして支援するかが重要だ。サードパーティCookieをやめる意味は、常に顧客を中心に考えるためであった」とNgo氏。

 

ブランドが信頼性のない低品質のデータを使用している場合、信頼とロイヤルティを築くことはできないとNgo氏は話す。サードパーティCookieはそもそも良いソリューションではなかった。「『これまではアクセスできなかった顧客層に広告を出すことができる』といったたくさんの流行に飛びついてきたが、今こそ、その戦略を見直す時だ」。

 

Blueconicは、ファーストパーティデータの収集と管理を支援することで、クライアントをサポートしている。「我々は、Blueconic(顧客データプラットフォーム)によってペイウォール(有料コンテンツサイト)を強化しているパブリッシャーと協力している。彼らは、必ずしも直ちにサブスクリプションを要求するわけではないが、ユーザーが二回目にサイトを訪問した後には、ニュースレターの登録を求める。新型コロナウイルス感染症の期間中、パブリッシャーの中には新型コロナウイルスの報道についてはペイウォールを完全に撤廃することを決めたところもあった。それが、彼らが望む顧客との関係だからである」。

 

サードパーティデータの迅速な収集については、すべてに通用する方法があるわけではない。「当社の顧客であるベルギーのBelgian Cycling Factoryでは、メールアドレスを要求するのではなく、固有の識別子である自転車の登録番号を要求している。だが、同時に、顧客に延長保証を提供している。つまり、価値交換を生み出すことが重要なのだ」とNgo氏は説明する。

 

「Blueconicは、こういったエクスペリエンスの設計を可能にするテクノロジーであり、バックエンドでは、すべてのファーストパーティデータを管理し、高品質を維持し、複数ブランド間、または、1つのウェブサイト内であっても、同一人物であることを認識しプロファイルを統合することを可能にしている」。

 

Ngo氏は、ファーストパーティデータが、Googleのトレッドミルから降りるための手段になると考えている。「ファーストパーティデータを構築していないのであれば、これから構築するのでは遅すぎるというところまで来ている。ファーストパーティデータの構築はこれまで以上に重要となっており、これなしでは、Googleの次の動きを永遠に追いかけ続けることになる」。

 

 

不利な点

「マーケターにとって、ファーストパーティ・データを所有していて、それを活用できるかもしれないという考え方は素晴らしい。しかし、ファーストパーティ・データは、新規顧客の獲得には最適ではないかもしれない」とZacharski氏は話す。そもそも消費者から賛同を得られればの話だが。

 

「消費者が、自分の個人情報をこれらのシステムに入れることにどれだけ安心感があるかはまだ分からない。素晴らしいと感じるかもしれないし、複雑な気持ちになるかもしれない。業界として、消費者が何に同意し、何に同意しないのかを本当に理解できるような消費者との関係を構築するための取組みが十分に行えているか分からない」と同氏。

 

P&GやStarbucksのように、企業による膨大な量のファーストパーティデータの集積があっても、この問題は解決しない。「P&Gでは、多くのブランドがあり、多くの人々がそれらのウェブサイトにアクセスしているが、同社がオーディエンスを獲得できるのはその場所だけだ。P&Gのサイトにアクセスしているということは、そのサイトに関連する商品の購入にすでに関心があるはずだ。ウェブサイトが以前有していた付加価値、あるいは今はあるが将来的にはなくなる付加価値とは、自社ブランドを訪れたユーザーをリターゲットし、例えばESPN(米国のスポーツ専門チャンネル)を見ているときに自社の動画広告を表示して、そのインプレッションを購入するということだ。それが失うことになるものだ」とWaterman氏は語る。

 

また、FLoCが何を可能にするのかという、まだ答えのない問いもある。「これは、利用可能となるテクノロジーの組み合わせに(ファーストパーティのオーディエンスが)どれだけ適合するかという問題になる。規制で定められた同意は得られるいかもしれないが、それぞれの状況におけるシステムは、検証可能な法的地位を有しているとしても、実際にそれらのオーディエンスとつながることを可能にするだろうか」。

 

Engine TechnologyとAd.netは、さまざまな方法で将来に備えている。前者はCTVに注力し、後者はインテントデータ(顧客の興味や関心を把握するための行動データ)を重視している。

 

 

CTV:Cookieレスで認証付き

「CTVでは、新種の広告が展開されており、リビングルームの大画面がコンテンツを消費するデバイスになっている。技術的な形式においてはアプリと同じだが、同意を得ているフォーマットでもある」とZacharski氏は説明する。

 

これはEngineの戦略の一部である。同社は、広告主にマルチチャネルの機会を提供することにも注力しており、アドレッサビリティの将来について業界全体の議論に参加している。そして最後にZacharski氏は、「我々は観察し、対応していく」と述べた。

 

このマルチチャネルサービスは、EngineのDevice Graph+ソリューションに基づいている。これは、Engine独自のSSP(Supply-Side Platform)からのデータと、自動コンテンツ認識(ACR)プロバイダーからのデータやサードパーティからのアトリビューションメトリクスを組み合わせたものである。

 

「我々は、個人の消費者ではなく、世帯レベルのターゲティングをスタートしている。」とZacharski氏。Engineは、デバイスと世帯を関連付けることで、CTVで広告を出し、モバイルでリターゲティングといったオプションを提供できるのだ。

 

Zacharski氏は、これにより、今後18~24か月でCookieレスのターゲティング機能が顧客に提供されると話すにとどまった。

 

 

GoogleとBing以外の検索空間

「3、4年前、我々は、シンプルにインテントとコンテキストのターゲティングにのみ集中することを決断した。地理などの一定のオーディエンスターゲティングを使用しているが、主にインテントに焦点を当てているのは、次の理由からだ。それは、Unified ID 2.0だけでは、あらゆる規模のオーディエンスターゲティングを勝ち取ることはできないからだ」とWaterman氏は話す。

 

このアプローチは、非常に多くのパブリッシャーのウェブサイト、特にその検索エンジンにAd.netのテクノロジーが使われていることに依存している。「我々は、インテントとはキーワード検索であると考えている。我々は、GoogleやBing以外の検索インテントを販売している。我々は、GoogleやBingが存在しない、非常に細分化されたマーケットプレイスに赴き、そのオーディエンスを獲得して、クライアントや広告主に誘導するのだ」とWaterman氏。

 

これは、コンテンツマーケティングと合致している。コンテンツマーケティングとは、読者がクリックすることでその意図や関心を明示させるという明確な目的で書かれた記事や広告のことだ「我々は、意図や関心を捉え、そのユーザーをその特定の商品を販売している特定の広告主に誘導しようとしている」。事実上、これはB2Bのファネル戦略に似ているが、規模が異なる。

 

「我々は、意図的に、当社サービスをGoogleとBing以外の拡張機能として売り込んでいる。我々は、広告費の多様化を売りにしているが、最近では顧客や広告主により共感をいただいている。なぜなら、顧客や広告主は、1社や2社にすべての広告費をかけたくないし、すべてのデータを提供したくないと考えているからだ。彼らは、オープンな状態にしておきたいのだ」とWaterman氏は語る。

 

 

ますます巨大化するモンスター

「政治家は、今の状況が本質的に何をもたらしているのかを理解していない。ますます大きなモンスターを生み出しているのだ。我々は皆、GoogleやAmazonを好み、Facebookを利用しているが、そこにいる他の競争相手、それは小規模であるかもしれないが、モンスターの公正さを保たせているものを潰してしまうことを私は恐れている。これでは、多くの企業は確実に潰れてしまうだろうし、非常に素早く適応してピボットしない限り、ウォレットシェアはますます大手に奪われてしまうだろう」とWaterman氏。

 

「Googleが効果的に行ってきたことは、独自のウォールド・ガーデンの構築だ。Facebookにアクセスするとウォールド・ガーデン、Amazonにアクセスするとウォールド・ガーデン。Googleにアクセスしてもウォールド・ガーデンだが、今では、その中のどこかにGoogleが存在する全てのエコシステムにおいて、すべての触手は、そのウォールド・ガーデンの一部なのだ」とWaterman氏は続ける。

 

Zacharksi氏はより慎重だ。「まだ最終回ではない。これから、より多くのアイデアとコラボレーションが生まれるだろう。この映画を見ていると、複数のストーリーが展開されている。そのストーリーは互いにつながっていくだろう」。

 

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の4/5公開の記事を翻訳・補足したものです。