ゲーミフィケーションは、効果的なマーケティング戦術として広く認知されている。人間には、生まれつきゲームを楽しむ性質がある。それゆえに、ゲーミフィケーション要素を顧客エンゲージメントに組み込むブランドは、その恩恵を受けることができる。ゲーミフィケーションには、様々な形態があり、どこからスタートするべきか、どれが自社ブランドに適しているのかを知ることは、難しいかもしれない。この記事では、ブランドが利用可能な多様なゲーミフィケーションの仕組みの概要を、ゲーミフィケーションとは何か、また、どのように機能するのかを説明しながら、事例と共に説明していく。
※ゲームソフト配信会社Gameloftの北米ブランド担当マネージングディレクターであるCasey Campbell氏から事例の提供を受けて作成している。
カテゴリ1 – プレイアブル・クリエイティブ
最初のカテゴリは、ブランドメッセージによってオーディエンスのエンゲージメントを最大化するための「プレイアブル・クリエイティブ」である。このカテゴリには複数の異なるオプションがあるが、そのうちのいくつかを以下に紹介しよう。
インタラクティブビデオ
このユニークな動画広告ユニットは、画面上にプロンプトを表示し、オーディエンスが動画に反応しアクションを起こすことを促す。動画上のプロンプトを用いて、ユーザーに、動画の先を観るために、画面上に表示される矢印通りに素早くタップまたはスワイプさせるというクイック・タップ(スワイプ)チャレンジ形式をとることができる。
また、インタラクティブ動画では、ユーザーが動画の進行する方向性を決定するための分岐パスを提供することも可能である。ビデオが一時停止し、オーディエンスには選択肢が提供される。ユーザーの選択によって、動画の続きのストーリー展開に影響を受ける。
Gameloft は、Legoの上級ビルダー向けシリーズLego TechnicブランドとLego Cityブランド用に、インタラクティブ動画ユニットを多数製作し、オーディエンスを、リワード動画広告の視聴中、能動的に集中させ、夢中にさせ、楽しませることを目指している。インタラクティブ動画の最後には、「リプレイ」ボタンとともに、エンドカードとCTAメッセージが表示される。
これらのインタラクティブユニットは、最高96%の視聴完了率を記録し、エンゲージメント率と視聴完了エンゲージメント率が非常に高い。さらに、ユーザーはリアクションタイムを短縮するため、また、最初に選択しなかったストーリー展開を探るために動画をリプレイした。
ゲーミファイドARフィルター
ゲーミファイドARフィルターは、広告主キャンペーンにおいて、競合他社との差別化を図るための最適な方法であり、エンゲージメントを向上させるだけでなく、視聴完了も促進する。
Gameloftは、Pucelle(フレグランスブランド)とLego Legacy「Heroes Unboxed」ゲーム(レゴをテーマにしたバトルロールプレイングゲーム)において、ゲーミファイドARフィルターで大きな成功を収めている。Pucelleキャンペーンでは、ユーザーは、ランニングゲーム中のキャラクターのアクションを、頭を傾ける動作でコントロールし、Legoキャンペーンでは、YouTuberのUnspeakable(Nathan Johnson Graham)が、ARフィルターを重ねたセルフィー動画を使って、彼が同ゲームで獲得したハイスコアを打ち負かすためユーザーを招待した。
ガソリン会社のRaceTracは、Instagramにおいて、野球ファンをターゲットに制作したゲーミファイドARフィルターによって10万3,000インプレッションを獲得。RaceTracは、COVID渦中でファンがスタジアムで試合観戦ができない中、同社マスコットのThe FreezeをフィーチャーしたレースゲームでゲーミファイドARフィルターを展開しファンを楽しませた。
化粧品ブランドのSehoraは、ラマダン(イスラム教断食月)期間中に、製品プロモーション用に作成したゲーミファイドARフィルターで高いエンゲージメント獲得。その効果は、ラマダン期間中のSephoraウェブサイトの総売上の5パーセントを占めるに至った。
ゲーミフィケーション調査
ファーストパーティの消費者データは非常に貴重である。しかし、その収集方法は、特にモバイルにおいては、課題が多い。モバイルを使用するユーザーは、小さな画面でタッチ操作を行っていて、移動中で時間の余裕がない可能性がある。これらはすべて、従来型アンケート調査を完了させる際に、深刻な阻害要因となっている。データ収集が、ユーザーにとって不満のあるエクスペリエンスとなり、データ収集側にとっても、コストがかかるものとなっているのである。
Gameloftが提供するソリューションは、通常は退屈なタスクであるアンケートに、ユーモアやアニメーション、視覚的な面白さを加えて、ゲーム化することである。その結果、従来のアンケートと比較して非常に高いアンケート完了率を達成し、データを収集するブランドは、よりポジティブなブランドイメージ獲得することが可能となる。
Gameloftが、フランスのメディア規制機関CSAのために実施したキャンペーンでは、楽しくインタラクティブなアニメーションを使ったアンケートの仕組みを使って、どのようなタイプの番組を見るのが好きか、どのタイプの番組を有料でも視聴するかを人々に尋ねた。そして、このアンケートを提示された視聴者のほぼ3人に1人がアンケートに参加するという、素晴らしい回答率を記録した。
ブランドミニゲーム/プレイアブル広告
ブランドミニゲーム/プレイアブル広告は、従来はモバイルゲームのダウンロード促進目的であったが、CPG(消費財)、エンターテイメント・プロパティ、ストリーミング、クイックサービス/ファストフードレストランなど、ゲーム以外の業種でも非常に勢いを増している。
これらは、オーディエンスを惹きつけ、自社ブランドとの交流を生み出すことができる楽しくインパクトのある方法である。受動的に消費されるコンテンツよりも、オーディエンスが集中して消費するインタラクティブなコンテンツを提供する方が、はるかに有意義で、説得力があり、効果が高い。視覚、聴覚、触覚などの複数の感覚を刺激することで、モバイル、ウェブ、ソーシャル、デジタルアウトオブホームのデジタル媒体などのすべてのデジタルプラットフォームで展開される、記憶に残るストーリーテリング・メディアとなり得る。
また、ブランデッドミニゲームやプレイアブル広告も、ゲームがポップカルチャーに与えた膨大な影響を利用している。今では、大部分の人が、毎日ではなくても、週ベースでなんらかの形式のゲームをプレイして楽しんでいる。
IAB(インタラクティブ広告協会)は、同団体が発行する「Playable Ads for Brands」プレイブックで、プレイアブル広告を魅力的なものにしている5つの要素を指摘している。それらは、「インタラクティブな楽しみ」「フリクションレスと一過性」「オプトイン」「高性能」「リッチコンテンツ」である。
また、Fyber(グローバルテクノロジー企業)が委託しSapio Researchが2018年に実施した調査は、プレイアブル広告は最も効果的なアプリ内広告フォーマットに選ばれた。回答者である広告代理店の専門家の28%が、インタラクティブ広告(23%)、リワード動画(22%)、リッチメディア広告(20%)、ネイティブ広告(4%)、メタ広告(3%)よりも、プレイアブル広告を選択した。
カテゴリ 2 – ゲーム環境へのネイティブ統合
ブランドは、ゲーミフィケーションをゲーム環境にネイティブに統合することで、ゲームをプレイしソーシャライズするゲーマーオーディエンスとつながることができる。同様に、このカテゴリにもいくつかの選択肢がある。
スポンサード・ゲーム内アセット
現在、ブランドは、自社製品をゲーム体験にネイティブに挿入し、ゲームオーディエンスに自社製品をアピールしている。ValentinoやNFLの Detroit Lions などのブランドが、任天堂ゲームソフト「Animal Crossing: New Horizons(あつまれどうぶつの森)」においてゲーム内アセットを作成している。時代を代表するゲームを利用し、ゲーム内ツールを使用して、すべてのプレイヤーが利用できる独自のブランドコンテンツを作成し、完全に無料で自社製品プロモーションを実施している。
ここでのアドバイスは、過度に売り込みをせず、ゲーム体験への付加価値を高め、自社製品の露出とオーディエンスの好意獲得にフォーカスすべきだということだ。私たちの経験では、通常、バーチャル製品に対するニーズや欲求を生み出すことが、現実生活の中でその製品に魅力を感じさせることにつながる。
ブランドは、プレイヤーのパフォーマンスを向上させ、優位性を与えるために、ゲーム内のブースターやパワーアップをスポンサー提供することで、ゲーム体験の中でブランドへの好意と認知度を高めることができる。ゲームにおけるパワーアップには、通常、現実の金銭またはゲーム内通貨が必要となるが、ブランドが無料でパワーアップを手助けすることで、同ブランドはプレイヤーのゲーム体験を向上させ、好意的なイメージを獲得することができるのだ。
これが、まさに、Gameloft がタイヤメーカーのMichelinと協働し実施した施策である。Michelinがスポンサーとなり、レーシングゲーム「Asphalt 9」のプレイヤーにパフォーマンスブースターを無料で提供したのである。
ゲーム内インテグレーション
ブランドは、ゲーム環境に自社IPを挿入し、ゲーマーが自社IPと交流し、もしくは、ブランド資産をプレイすることさえできる。
このようなゲーム内インテグレーションの優れた例として、私たちが、Fall Out Boyというバンドのニューアルバム『Mania』のリリースプロモーションで実施したキャンペーンが挙げられる。同バンドのレコードレーベルであるUniversal Music Enterprisesと協力して、レーシングゲーム『Asphalt 8: Airborne』において、車の塗装デザインを作成し、ミュージックインテグレーションを行い、プレイヤーの体験に沿った新しいストーリーモードを制作した。ミュージックインテグレーションでは、アルバム収録曲3曲がゲームのサウンドトラックに追加され、ストーリーモードでは、プレイヤーは、最も信頼されるドライバーになることを目指しバンドメンバーのためにタスクをこなす。また、FOBワールドツアーでバンドのためにレースをすることができる。
他には、ファストフードのKFCが、「どうぶつの森」内に独自デジタルレストランを非公式クロスオーバーでオープンした。昨年11月には、Fortniteの開発元であるEpic GamesがDisney と提携し、ゲーム内のバーチャルアイテムを購入したFortniteプレイヤーに、2ヶ月間無料でDisney の動画配信サービスDisney Plusを利用できる特典を提供した。また、ディズニー権利物であるTron(アメリカのSF映画) もFortniteに登場し、テーマに沿った衣装やアクセサリーを身に付けている。
イベントプラットフォームとしてのゲーム
パンデミックによるロックダウン中、現実社会でのソーシャライズが不可能になり、プレイヤーは今まで以上に安心して友人と交流できるソーシャルプラットフォームとして、マルチプレイヤーゲームを利用するようになった。今では、ブランドは、これらのゲーム内で行われるパフォーマンスをスポンサードすることが可能となり、リラックスし、交流し、新しいエンターテイメント・バーチャルプラットフォームを楽しむオーディエンスにリーチすることが可能となった。
昨年4月、ラッパーの Travis Scottは、Fortnite内で壮観なバーチャルコンサートを行い、彼のバーチャルアバターはこのコンサートのためにNIKEのウェアを身に着けていた。Travis Scottは、2019年2月にFortniteギグ(ライブ)デビューを果たしたエレクトロニックミュージックプロデューサー兼DJのMarshmelloが歩んだ道を辿っている。同様に、バーチャル環境でギグをステージングするという同じルートを辿ったアーティストには、Massive Attack、Pussy Riot、PartyNextDoorなどがいる。
カテゴリ3 – 非ゲーミングプロセスにおけるゲーミフィケーション
ブランドは、非ゲームプロセスをゲーム化することで、消費者と楽しく記憶に残る方法で関わり、人々にブランドが望む行動を促すことができる。
エデュテインメント
イタリアの食品メーカーであるFerreroとのコラボレーションは、エデュテインメントの素晴らしい例である。プレイヤー、つまり子どもや家族の生活を豊かにすることができるブランドコンテンツを、ブランドセーフティが確保される方法で作成することに成功した。これは、子どもたちに非常に人気があるFerreroのチョコレートブランドKinder用に作成された「Applaydu」というアプリである。同アプリは、私たちが、University of Oxford(オックスフォード大学)教育学部と協力して作成したもので、拡張現実(AR)を使ってKinderのおまけに命を吹き込むことができた。
「Applaydu」アプリは、4歳から9歳までの子どもを対象としており、ゲームやインタラクティブなストーリー、アクティビティなどを通じて、親子の絆を深めることができるように設計されている。広告やアプリ内購入オプションはなく、アプリの安全性を確保するためのペアレンタルコントロール機能も追加されている。
Kinder Products with Surprise部門のグローバルトップであるEmiliano Laricchiuta氏は、Applayduについて次のように述べている。「Applayduは、子どもたちの想像力をかきたて、遊びや楽しみの中で大人と子どもを一体とさせ、今日の子どもたちを幸せにし、明日のより良い大人に成長するために重要な役割を果たすことができると信じている」。
そして、Educational App Storeに掲載されているある教師のレビューでは、Applayduについてこう書かれていた。「これは、小さなアプリではない。幅広いアクティビティタイプを網羅したコンテンツを豊富に含んでいる。テーマにおいてバリエーションがあるだけでなく、確固とした遊びと学習体験を提供している」。「ApplayduのARパートでは、子どもたちは、アプリのアニメーションキャラクターが現実世界と関わる空間へのポータルとして自分のデバイスを使用している。AR技術は、まだ黎明期にあるが、それでも魔法的要素を持っている。子どもだけでなく、大人も、ARのファンタジー要素が物理的な世界に現れる様子に魅力を感じる。ARを動作させるのはシンプルそのものであり、子どもには難しいかもしれないと思う必要はない。デバイスのカメラが使えるなら、問題はない」。
また、このアプリはレビューサイトのInfluenster.comで5段階評価レビューの平均4.5を獲得している。
ヘルスケア
ヘルスケア分野では、ゲーミフィケーションによって、人々を教育し、複雑な概念を理解しやすくすることが可能である。糖尿病を例に考えてみよう。私たちが知っているアプリやサイトの中で、人々が糖尿病とより良い方法で関わり、理解するのを助けるために作られたものは3つある。
2010年から2014年までサービスを提供したHealthSeekerは、糖尿病患者向けの最初のソーシャルゲームである。ユーザーは、体重を減らしたり、より健康的な食事をしたりといった健康上の目標を達成するために役立つミッションを選択するように促された。そのサービス提供期間である4年間で、同アプリによって、3,700以上のミッションが完了され、42,000以上の健康的な行動がとられた。
製薬会社であるAstraZeneca’sが2015年に立ち上げたFit2Meは、糖尿病患者向けに健康的なライフスタイルを指導するパーソナルコーチを提供し、食事の選択やフィジカルアクティビティをサポートしてくれるサイトであった。最後に、COPEDS Black-Belt は、オハイオ州にある小児向け内分泌および糖尿病プログラムを提供するCentral Ohio Pediatric Endocrinology and Diabetes Services (COPEDS)のMD(医学博士)MPH(公衆衛生学修士)であるJennifer Dyer氏によって現在開発中のリソースである。SMBG (自己血糖値) レベルを 1 日4 回テストするか、または、食事時に速効性インスリンを毎日少なくとも 3 回投与することによって、健全な状態に改善するようユーザーを奨励するものである。また、医師や介護者が患者の経過を追跡することも可能だ。
顧客ロイヤルティおよびリワードプログラム
ゲーミフィケーションは、楽しくインタラクティブな方法で顧客ロイヤルティプログラムを活性化する最適な方法である。Starbucks は有名な成功例であり、ロイヤルティの高い顧客には、当たり前にStarsで報酬を与えるプログラムを提供している。150 Stars を獲得すると無料のドリンクが提供され、450 Stars を獲得するとゴールドレベルのステータスになり、エスプレッソ、乳製品の代替オプションやスペシャルなシロップ、ホイップクリームが無料で提供される。また、米国の3大ネットワークの一つであるNBCとスポーツメーカーであるNikeは、ロイヤリティプログラムにおけるゲーミフィケーションで成功を収めている他の2つのブランドである。
バーチャルイベントのゲーミフィケーション
この1年間はバーチャルイベントが話題になっている。対面イベントの雰囲気や賑わいを再現することは不可能だが、ゲーミフィケーションを活用することで、バーチャルイベントをよりリアルなイベントに近づけることができるのだ。
参加者がイベントのスポンサーと交流したり、ソーシャルメディアでイベントでの経験をシェアしたりすることに対し、報酬を提供することができる。イベントに積極的に関われば関わるほど、参加者のランクが上がるリーダーボードを作成し、公開すべきである。参加者は、高いランクを獲得することにより、イベントへの参加時間が有意義であったことを同僚に証明することができる。
ゲーミフィケーションには、多様な活用方法があることがお分かりいただけただろうか。ゲーミフィケーションには様々な形があり、多くのブランド目標を達成することができるのである。
※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の3/1公開の記事を翻訳・補足したものです。