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AIにおけるアプローチの分裂、シンボリックAIとディープラーニングは、マーケティングを行う上でどのように考慮するべきか

AIにおけるアプローチの分裂、シンボリックAIとディープラーニングは、マーケティングを行う上でどのように考慮するべきか

マーケティング
2021/02/04

AIは分岐点に立っている。どちらの選択肢も約束されたものではないが、実際のところ、重要な問題なのだろうか?

 

AIについて聞こえてくる全ての明るい見通しを考えると、この分野がどのように発展すべきなのかという点において、研究者のアプローチが完全に分裂していることは、驚きかもしれない。伝統的な論理ベースAIの支持者と、ニューラル・ネットワーク・モデリングの熱狂的な支持者との間で、分裂が生じているのである。コンピュータ科学者のMichael Woolridge氏は、この論争に関する簡易調査の中で、「心をモデル化すべきか、脳をモデル化すべきか」という表現をしている。

 

もちろん、それほど単純なことではない(AIについては、決してシンプルということはない)。しかし、その違いを説明することは不可能ではないかもしれない。

 

シンボリックAI:AIの歴史的ルーツは、英国の数学者、Alan Turing氏が発表した「チューリングテスト 」として知られる思考テストにある。詳細には踏み込まないが、このテストは人間の知性、つまり、心のモデル化に成功したかどうかを判断する基準の提供を目的としていた。

 

何十年もの間、知能のモデル化に成功することが、AIの目指す主なゴールであった。「シンボリックAI」とは、“人間の知能は論理的記述に置き換えることが可能であり、記号的論理によって捉えることができる”という、一般的に受け入れられている仮定を指す。

 

このアプローチは、明確に定義された規則によって明瞭に限局化された人間の知能エリアを扱うことで、AIの大きな進歩を実現してきた。それには、もちろん数学的計算や、よく知られているチェスも含まれている。問題は、人間の思考の多くが、それらの規則を、たとえそれらが人間の思考プロセスの根底にあったとしても、明示しないことであった。従来のAIは、パターン認識において遅れていて、画像を理解することができなかった。野球を打ったり自転車に乗ったりするようなスキルのための一連のルールを作成することも同様である。人間は、必要な行動を説明する一連のステートメントを学ぶことなく、その行動をする(または、しない)ことを学習する。

 

ディープラーニング:AIへの代替的アプローチは、人間の脳内ネットワークのモデリングに基づいているという誤った表現をされることがある。むしろ、それは人間のニューラルネットワークがどう機能しているかという点からインスピレーションを得ている。ここでも、あまり深く掘り下げないが、相当量のデータセットに基づいて訓練された「ノード」の大規模な人工ネットワークが、データ内の統計的関係を認識することを学習し、ノード層間のフィードバックループが自己修正の可能性を生み出す。このアプローチに「ディープラーニング」という名前がついたのは、処理可能なスケールが極めて膨大で、ノードが複数の層に分かれているからである。

 

ディープラーニングアプローチ開発の障害となっていたのは、まさにそのスケールであった。比較的最近まで、ディープラーニングを実用的かつ費用対効果の高いものにするために十分なデータやコンピュータパワーがなかった。しかし、状況は変化し、たとえば近年では、AI画像認識において急速な改善が見られている。

 

ディープラーニングの欠点は、特にテキストを理解することに関していえることだが、この非常に強力なエンジンが、本質的には何かに頼らずに作動してしまうという点である。AIは、与えられたデータの中にある膨大な量の相関関係を認識し、それに応じて反応する。データを知的に理解しているわけではないので、人間が問題を修正しない限り、エラーや、人間が考えるところの偏見などが、より深く組み込まれてしまう。

 

簡単に言えば、インターネット世界全体を吸収するのに十分な処理能力をもつディープラーニングシステムは、多くの無意味なものを吸収し、その中には悪質なものも存在するということだ。このアプローチは、大量の二酸化炭素を排出する結果となる。

 

それらの意味することは何だろうか?マーケターにとって重要な影響があるだろうか?マーケティングにおいて、人間の知性をモデル化するプロジェクトに投資していない限り、おそらくあまり問題ではないだろう。しかしそれは、ビジネス戦略や計画をAIに任せるという概念が、まだまだ先の話であることを意味する。

 

もしプラス面を挙げるとすると、シンボリックAIとディープラーニングの間の溝は、希望的観測に思えるような考えをサポートしていることである。AIが、キャンペーンの最適化、パーソナライゼーション、データ管理など、マーケティングの一部の機能をサポートすることによって、マーケティング担当者は、より自由に戦略的かつ創造的なことができるという考えである。

 

AIにおけるアプローチの分裂は、AIに仕事を奪われないことを願うマーケターにとって、それほど問題とはならないだろう。AIには、まだまだその準備ができていないということだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の1/29公開の記事を翻訳・補足したものです。