eコマースは急速な成長を遂げており、減速する気配はない。小売業者やブランドは、小売や電子小売のマーケティングにおけるニューノーマルが、移動するターゲットを狙うのに似ていることに気づき始めている。彼らは、明確化した標的を狙い、一定のリードタイム内で構築しなければならないのだ。
このマーケティング戦略では、企業はデジタルインフラや戦術を調整する必要がある。さもないと、消費者がホリデーマーケティングや広告キャンペーンに備える際に、ターゲットを逃してしまうことになるだろう。
米国国勢調査局のデータによると、第2四半期のeコマース小売の売上高は2019年から44.5%増加した。他のレポートによると、6月の米国のオンライン売上高は、前年比で80%近く増加した。
小売業者は、かつてないほどのエンゲージメントボリュームに直面している。これは、4月と5月のオンライン取引の急増を示している米国の詐欺防止企業Forterのグローバルマーチャントネットワークにおける7億5,000万人のユーザーデータによって証明されている。
衣料品やアクセサリーの取引量は99%増加し、ギフトカードの購入率は通常の3~4倍となった。残念なことに、このブームに伴い、不正行為も急増している。3月1日から5月15日までの間に、詐欺行為全体が約30%増加したと、ForterのCEOであるMichael Reitblat氏は話している。
eコマースサイトは、新型コロナウイルスによるパンデミックが収まれば、そこから得た勢いを継続することができるだろう。だが、そうするための普遍的な公式は存在しない。中小企業の経営者に焦点を当てたクラウドベースの簿記・会計サービスを提供する米国企業XendooのCEO兼創設者であるLil Roberts氏によると、現時点で成功しているeコマースマーケティングの多くは、どの業界でビジネスを行なっているかに依存しているという。
Roberts氏は次のように話している。「一部の業界は大きく成長しているが、二度と前と同じ状態には戻らない業界もある。eコマース、在宅サービスやテクノロジー企業は、規制に適応し、パンデミックとの闘いを手助けし、消費者や企業にとって必要不可欠な存在であることを証明していることから、成功しているだろう。しかし、ホスピタリティと特定の専門サービスは、渡航規制やソーシャルディスタンス(社会的距離)の規制のために苦戦している」。
新たな挑戦には新たな戦術が必要
しかしながら、eコマースの売上増加に課題がないわけではない、と米国の自動化・AIカスタマーエクスペリエンス企業Pypestreamの最高経営責任者であるEvan Kohn氏は指摘する。デジタルトランスフォーメーションを優先させていないブランドにとっては、今回のパンデミックは厳しい警鐘だ。
「ブランドは、売上の急増に対応するための強固な技術基盤が必要であるだけでなく、買い物客を楽しませ、情報を提供し、ロイヤルティを維持するために、世界基準のカスタマーエクスペリエンスを作り出すためにリソースを割かなければならない」と同氏は話している。
小売業者が、現在直面している主な障害は、調達から配送までのサプライチェーンの継続性を確保することだと同氏は訴える。現在、USPS(United States Postal Service/米国郵便公社)で起きている遅配問題は、サプライチェーンの両端に影響を与えるだろう。
「USPSを利用していないサプライヤーであるとしても、他の配送業者は限界まで追い込まれており、間接的であっても影響を受ける可能性がある」と同氏。
サプライチェーン、製造や商品の配送は、ニューノーマルに素早く適応してきた。だが、小売の販売モデルはeコマースによって改革されつつあるものの、失業率の高さは、消費者が小売事業者に費やす予算を圧迫するだろうと、米国のデジタルマーケティング企業JivoxのCEOであるDiaz Nesamoney氏は警告している。
マーケティングへの投資
消費者の行動が大きく変化している理由として、一つには店舗やショッピングモールへ出かけることに対する恐怖心があり、もう一つには、州や地方自治体が商取引の方法を制限していることがある、とNesamoney氏は指摘している。
「パンデミックがどれ位続いたのかを考えると、これらの行動のいくつかは不変のものとなっている。それゆえ、ブランドはオンライン購入が指数関数的に成長していることから、デジタル販売とマーケティングに投資し、活用することで対応する必要がある」と、同氏。
これには、1対1のパーソナライズされたメッセージングが必要だ。また、特定の関連性の高い商品と、それらの商品をデジタルで購入できる場所と方法を強調する広告も必要である。これは、画一的な広告の上を行くものだ、同氏は付け加えている。
1対1のeコマースマーケティングに対し、迅速かつ積極的に投資しない従来型大規模ブランドは、DTC(Direct-To-Customer / 自ら企画、製造した商品をどこの店舗も介すことなく自社のECサイトで直接顧客へ販売するビジネスモデル)の競合他社に市場シェアを奪われることになる。これらの競合他社は、一般的にデジタルネイティブで、強力なeコマースを提供しており、eコマースマーケティングに優れているとNesamoney氏は話す。
同氏によると、一方で、実店舗での流通に過度に依存していたがために、大手ブランドとの競争がほとんどなかった中小DTCブランドは、今、テクノロジーへの投資で先手を打たなければならないと指摘。それによって、大手ブランドから市場に流入するeコマースマーケティング予算が大幅に増加したとしても、一歩先を行くことができるという。
「eコマース市場シェアの競争は始まっている」と同氏は語る。
デジタルトランスフォーメーションの必須事項
新型コロナウイルスの感染のピーク時には、取引の20~25%が新規オンラインユーザーによるものであった。ForterのReitblatt氏によると、これは、販売店が今までに会ったことがない顧客を相手にしていることを意味するという。
「正規顧客を拒絶せず、消費者に良い体験を提供することでより多くの収益を獲得するためには、販売店は、詐欺師から正規顧客を見分け、取引を迅速に処理するのに役立つデータへのアクセスできることが必要である」と同氏。
デジタルトランスフォーメーションに投資してきた小売業者は、新しい市場機会に迅速に適応することが可能であり、今後もそうあり続けると、Reitblatt氏は指摘している。そして、デジタル重視ではない競合他社から市場シェアを奪うことになるだろう。
「投資をしてきた企業は、既存顧客を保持しつつ、新規顧客を獲得することで成長を持続させていく可能性が高い」と同氏は言う。
さらに「今や、消費者は、eコマースにより慣れ親しんでいる。そのため、顧客をリピートさせることができれば、他業者と差別化することができるだろう」と加えた。
「販促や返品条件の充実も一定の効果があるが、結局のところ、顧客は、オンライン購買プロセスのすべてのポイントでのシームレスなエクスペリエンスを求めているのだ。商品を簡単に検索、購入し、タイムリーに受け取ることができるようにすることが重要なのだ」と、Reitblatt氏は強調している。
新規顧客への丁寧な対応
確かに今は、eコマースサイトにとっては他に類を見ない時期である。サプライチェーンが急にオンライン化されたことにより、eコマース企業は、この時期に大量の新規顧客を獲得することができた。
XendooのRoberts氏によると、新規に獲得した顧客にマーケティングを行い、購入機会を提示することで、勢いを前進させ続けることができるという。勢いを維持するためには、サイトはバイヤーやオーディエンスと、継続的につながりを持つ必要がある。サイトは、フィードバックを収集し、バイヤーが求めているプロモーションやアイテムを確認し、そして、それを提供する必要があると、同氏は推奨する。
よりデジタルに精通したブランドは、eコマースの売上を維持するためにもう一つのアプローチを行なっている。それは、良好なカスタマーエクスペリエンスを維持するために、配送を迅速化する方法を見つけることだと、Reitblatt氏は指摘。
サードパーティの小売業者からの配送が遅れている場合でも、自社サイトで購入手続きに対応し、2~3日以内に商品を発送できれば、消費者とより強い関係を築くことができ、リピート率を高めることができる、と同氏。また、現在の消費者の要求、行動や好みにより合っている新たな商品を提供するためにピボットしている販売店もある。
「真に顧客の期待に応え、それを超えることだ」と同氏は話す。
メールをうまく活用する
米国のeメールマーケティング企業LitmusのCMOであるMelissa Sargeant氏によると、メールは、すべての小売店やeコマースのマーケティングミックスの中心である必要があるという。顧客はブランドに対し、自分たちが何を求めているかを知ってもらうことを期待しているため、メールは、顧客とのより本物の人と人とのつながりや体験を効果的に作り出す方法なのだ。
「これは、ブランドがメールを通じてターゲットオーディエンスに関する多くのインサイトを収集し、他のチャネルへの情報提供のために使用することの重要性を強く示している」と同氏は話している。
マーケターが、マーケティングプロセスにおけるeメールをおろそかにしていると、マルチチャネルマーケティング計画は失敗するだろう。そうではなく、ブランドのその他のマーケティング戦略へ情報を提供するために、メールによるオーディエンスのインサイトの収集に投資する必要がある。そうすれば、効率と予算を最大化する方法が分かるだろう、とSargeant氏は説明する。
メールは、これからもなくなることはない。メールのROI(投資利益率)は他の追随を許さないものであり、オンラインで購入する買い物客が増えていることから、小売業者はホリデーキャンペーンのメール送信をしたくてうずうずしているのだ。
「しかし、消費者にリーチする最善の方法がデジタルである時代において、自社ブランドを大勢の中で目立せるためには、マーケティング活動を通じて、真に本物のつながりを構築することに注力する必要がある。小売業のマーケターは、ターゲットオーディエンスのインサイト収集と必要な売上獲得を促進するために、メールに頼らなければならない」と同氏は語った。
※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の9/14公開の記事を翻訳・補足したものです。