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開催が不透明なプライムデーに、Amazonセラーが抱えるジレンマ

開催が不透明なプライムデーに、Amazonセラーが抱えるジレンマ

トレンド
2020/07/13

電子小売の世界における最も差し迫った質問の1つは、「Amazonが今年のプライムデーセールをいつ開催するか」ということだ。おそらくもっとよい質問は、「そもそもプライムデーは開催されるのか」である。

Amazonは今のところ、何も発表していない。だが、信頼できる内部の情報提供者は、プライムデーが9月のどこかで開催される可能性があることをほのめかした。

 

消費者が自宅に閉じ込められ、ほとんどの店や企業が休業し、または、最小限度の対面対応人員と在宅勤務するサポートスタッフで機能しようとしていた新型コロナウィルス感染症のパンデミック。その真っただ中で、Amazonは、従来7月に予定されていたプライムデーをキャンセルした。

2020年のプライムデーが秋に開催される場合、eコマース業界の最大のセールの両方が、数週間以内に開催される可能性がある。プライムデー以外のもう1つのセールとは、ご存じの通り、11月27日のブラックフライデーと11月30日のサイバーマンデーである。

 

困惑するAmazonセラー

SupplyKickは、Amazonのセラーにコンサルティングと戦略サービスを提供しており、何百ものカテゴリーをリードするブランドを抱えるAmazonのトップ500のセラーである。過去3年間で170%の成長率を記録し、Inc.5000(米国Inc.誌が毎年発表する全米で最も成長が著しい民間企業のリスト)に3年連続で掲載されている。SupplyKickのパートナーシップ担当副社長であるVanessa Ruminski氏は、同社が最近、売上の中間報告で1億ドルに達したと語った。

SupplyKickのブランドパートナーにとって、プライムデーの開催が不透明であることは、ブラックフライデーとサイバーマンデーのどちらかを選択し、一方のみに参加せざるを得ないことを意味する。それは、これらのセラーが大幅な値引きのバランスを取りつつ、魅力あるオファーを提供する唯一の方法かもしれない。

これは、消費者にとっては値引きの機会が減るということだ。SupplyKickのCEO兼創設者であるChris Palmer氏によると、SupplyKickのブランドパートナーやその他の提携販売業者にとっては、大きな利益を得ることができる適切なセールを選択することが、経済的回復の戦いの勝敗に響く可能性があるという。

Palmer氏は、同社が獲得している販売量について「我々のプラットフォームでは、ブランド毎に実質的な増減が見られる。それはすべて、突如として在宅勤務となったワーカーのニーズによる影響だ」と語った。

 

販売の盛衰

SupplyKickのパートナーブランドの1つに、パーティー用品を製造しているブランドがある。3月に新型コロナウィルス感染症が拡大した直後、大人数の集会や卒業式がなくなったため、その売上は90%減少した。

一方、商品の売上げが急上昇したブランドもある。Palmer氏は、売上の増減幅を示すために、非常に快適な座り心地のゲーミングチェアを販売するあるブランドを例にあげた。

「このタイプの商品は、家庭でゲームをしたり、自宅で仕事をしたりする消費者に高い需要があった。この期間、Amazonで8番目に最も検索された商品はゲーム用の椅子である。それは、これまでにない大量の需要だった」と、彼はリモート販売の皮肉について語っている。

その特定の商品の販売を促進したものは何だろうか?自宅にいるという状況だろうか、または購入者がいずれ購入しようとしていたものが店舗から購入できないという状況だろうか?

現在ショッピングモールが閉鎖されているため、従来型の実店舗は利用できないということについては、疑いの余地がない。つまり、それが要因だったのだ。もう1つの要因は、ずっと家に閉じ込められている購入者が持て余す時間にある。それに、ホームオフィスをアップグレードするというニーズもあっただろう。

「つまり、それは要因の組み合わせであり、どれか一つというものではなかった」とPalmer氏は述べた。

 

プライムデーはどう適応するのだろうか?

Palmer氏は、今や状況が解放に向かっている時期というだけに、もしAmazonの大セールが開催された場合、消費者の購買パターンとストアは変化の真っただ中に当たるだろうと話している。

多くの州では小売の売上高が一時的にゼロになった。そのため、地元での購入が回復に向かうことは悪いことではない。Palmer氏によれば、消費者の間で自分の健康を守ることについての認識が高まっているという。

それは、対面ショッピングがゆっくりと着実に回復することを意味する。だが、ビジネスのやり方が以前と同じでなくても、店舗は営業するだろう。

売り上げを活性化させたい小売業者は、プライムデーイベントに参加することで、勢いのある有利なスタートを切ることができる。そして、プライムデーのセールに参加しなければ、Amazonのマーケットプレイスでの足場固めが危うくなる可能性があると、Palmer氏は説明している。

「eコマースを最小限度にしていた実店舗とモール運営者は、すべての収益減少を補填する方法を一生懸命考えようとしている。大勢の人々は店舗に行くのではなく、まずウェブサイトに行くのを好むことを分かっていながら、彼らは時代にどのように適応していくのだろうか?」とPalmer氏は論じた。

 

新しいマーケットプレイスのオプション

今やデジタルエコシステムは、数か月前に予測されていたよりもはるかに拡大している。Stackline(米国のECデータ分析企業)のCEOであるMichael Lagoni氏によると、それは今後も成長し続けるという。そして、消費者へのダイレクト販売の台頭によって、それはより複雑になってきているのだ。

「現在のDTC(Direct-To-Customer/ネット直販)とeコマースの競争環境は、完全に変化するだろう」とLagoni氏。

SupplyKickのPalmer氏は、プライムデーイベントは、サードパーティベンダーの視点からはそれほど注目に値するものではない、と付け加えている。結局は、特定のアイテムのお買い得品を探している人々向けのものであるからだ。

「だが、通常の商品については、Amazonは大量販売を考えていると思う」とPalmer氏は語る。

 

秋に実施されるプライムデーの影響

夏季は他の季節と比べ、eコマースの消費者支出が振るわない季節だ。プライムデーは、この販売が低迷する期間において、Amazonと販売業者の収益を拡大するための方法であった。Octane AI(米国のチャットボット開発企業)の共同創設者兼社長であるBen Parr氏によれば、ブランドにとってプライムデーは、春と夏の商品を処分し、次のシーズンに向けて備える手段であるという。

「今までの年とは違って、夏の数ヶ月におけるeコマースの売上高は、平均を上回っている。Amazonの売上高は現在、信じられないほど好調なのだ。売上高が非常に好調であるため、供給の要求を満たすための十分な人員がいない」とParr氏は語った。

Amazonがプライムデーを推し進めることを決定したとしても、同社のシステムや売上に影響は生じない。同社はすでに、プライムデーなしでも申し分のない状態にあるのだ。だが、それは潜在的な参加者には当てはまらない、とParr氏は反論している。

プライムデーの延期により悪影響を受けるカテゴリーがある。必需品を販売している場合は、すでに売れ行きが順調であるため、プライムデーは必要ないだろう。しかし、旅行のようにうまくいっていないカテゴリーの場合、プライムデーは彼らの収入にとって本当に重要だったかもしれない、とParr氏は説明している。

「プライムデーが先に延期されるほど、不調なカテゴリーが受ける影響は長くなる。これらのノンエッセンシャルなカテゴリーは、パンデミックの間に損失を出し続けるだろう」と同氏は予測する。

 

後戻りはできない

SupplyKickのPalmer氏は、今後も実店舗による販売は続くと考えている。だが彼は、消費者行動が以前の買い物のやり方に戻るとは考えてはいない。

「人々が物を買う方法の大部分は変化している。eコマース販売導入曲線は、新型コロナウィルス感染症によって構造的に変化しなければならない」とPalmer氏は主張する。

また同氏は、マーケットプレイスにおいても、パンデミック前に人々が買い物をした通常の方法に戻るとは考えていない。むしろ、彼はリモートでの注文と配達が大幅に増加すると予想している。一部の業界にとっては、それはオプションとなるかもしれない。レストランのような他の業界にとっては、生き残りたいのであれば、それは必須となるだろう。

「人々は、実店舗による以前と同じ売上レベルを期待するほど浅はかではないと思う。たとえば、スポーツ用品店を見てみよう。彼らは皆、オンラインでのプレゼンスを積極的に追求しているか、または、近い将来そうする予定である」とPalmer氏は例として挙げた。

 

すべてに通用する方法がある訳ではない

すべての業界が、「小売店より先にオンラインがあるべき」という厳格な考えに適応できるわけではないと、Palmer氏は認める。だが、すべての業界は、適応する必要がある。

Palmer氏は、ファッション業界は良い例だと示唆した。人々はファッションや美容商品を間近で見て、触れて、試着したいと思うのだ。

そのため、店内でのエクスペリエンスの再現を手助けするために、ユーザープロファイルにマッチした消費者向け仮想現実アプリが、いずれは普及するだろう、とPalmer氏は考えている。

「その広範な普及に向けた準備はまだ整っていない。新型コロナウィルス感染症が始まる前では、おそらく5年後とみられていた。しかし、イノベーションの速度は、パンデミック前よりも加速している」と、Palmer氏は話している。

したがって、秋や冬のプライムデーセールイベントでは、非常に多くの潜在的なベンダーが蚊帳の外となる可能性がある。多くのベンダーがセール商品として提供する典型的なものは、夏季の限定品なのだ。

「プライムデーのスケジュール変更は、秋に目玉となる代替商品がない一部のブランドにとって問題になるかもしれない」とPalmer氏。「結果として、我々のブランドパートナーの多くがプライムデーに参加しないことになると思う。ブランドが直面している問題は、適応と進化の方法だ。彼らは、ブランドとしての自分を忘れたくないのだ」とPalmer氏は警鐘を鳴らす。

一方で、eコマース市場においては、実店舗から移行するベンダーの大きな存在感が見てとれる。新規参入者は、販売のために使えるあらゆるチャンスを利用しようとしている。

 

「パンデミックによる閉鎖で、積み上げられた在庫を抱えている企業がたくさんあるのだ」とPalmer氏は思いめぐらした。

 

※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の7/2公開の記事を翻訳・補足したものです。