マーケティングオートメーションをECサイト運用で活用するために何を注意するべきか
マーケティングオートメーションというキーワードが脚光を浴びるようになってから4年以上が経っている。当初はその概念の斬新さが注目されたが、今では多くの企業が導入し、その活用を日常的に行い、成果の出し方に頭を悩ませているフェーズに来ている。そこで今回は、マーケティングオートメーションをeコマースのようなBtoCビジネスにおいてどのように活用して成果を出していくべきかを考えていく。
※この記事はマーケティングオートメーションツールを提供するシナブル社の協力のもと、代表取締役・小林裕紀氏にお話を伺い、マーケティングオートメーションツールの現状と課題について考察し、これから導入を検討している事業者が気を付けるべきポイントの一部を紹介した記事である。ここで紹介する事例を含むシナブル社に関する資料は、以下からダウンロード下さい。
そもそもマーケティングオートメーション(MA)とは
マーケティングオートメーション(以下MA)とは、企業のマーケティング活動においてこれまで人の手によって繰り返し行っていた定型的な業務や、人手では膨大なコストと時間がかかってしまう複雑な処理、大量の作業を自動化し、効率を高める仕組みのことを言う。そのMAを行うツール、MAツールでは、事前に設定したシナリオに応じて獲得したユーザーを自動でセグメント分けし、スコアリングして、顧客に応じた施策を自動で実行することが可能だ。MAは、BtoC向けに行うのか、BtoB向けに行うのかによって大きく考え方が異なる部分がある。BtoCの場合は扱うリード数(メールアドレス数)がBtoBより大幅に大きくなるほか、オムニチャネル対応(ECサイト、店舗、ロイヤリティプログラム)などの機能が重要になってくる。
どのようにしてEC業界にMAが浸透していったのか
MAの活用方法を考えていく前に、まず歴史を紐解いていこう。
MAはインターネットの普及とともに出来上がった新しい概念と言える。2000年代に入る前まで、いわばインターネット黎明期までは、マーケティングと言えばマスマーケティングが一般的であった。より多くの人にインパクトを与えてその商品の世界観を訴求できれば商品を売ることができた。この時のハードルは「どのようにより多くの人にインパクトを与えるか」というものであり、「どのような顧客にどのように買ってもらうのか」ではなかった。しかし、インターネットが普及し、誰でも簡単に、それぞれが興味のある情報を得られるようになってからは、人々は本当に必要なものを吟味し、情報を比較し、物を買うようになっていった。この結果、特にオンライン上での消費行動は大きく変わってきた。例えば、同一メッセージを大量の顧客に送るマスマーケティング的な手法は通用しなくなり、多様な顧客1人1人に最適なメッセージを送るOne to Oneマーケティングが必要とされるようになってきたのだ。こうして商品を売る際のテーマは今や完全に「どのような顧客にどのように買ってもらうのか」に変わってきた。
マーケティングオートメーション元年と言われた2014年頃から、日本においてもこのような背景からMAの認知や導入事例が増えていき、マーケティング業務を強化する際には保有する顧客データを活かしてMAツールを導入するケースが増えてきている。
ECサイト運用においてMAが活用される3つの背景
ECサイト運営にも多用されてきているMAだが、どのような背景から各社はMAの導入を進めているのだろうか、導入の背景となる目的を整理してみよう。
細かい顧客セグメント
従来のBtoCのマーケティング施策は、メールなどの単一チャネルから同じコンテンツを決まったタイミングで顧客に送るだけで、実際は多様な顧客に対して本当に欲しい情報を届けられていないというのが現状だった。しかしMAでは、年齢や性別に加え、購入商品や閲覧履歴といった情報から顧客を細かくセグメント分けし、メールやPush通知、広告配信、LINEなどの適切なチャネルによって好みに合わせたコンテンツを配信することができる。個人の行動をトリガーに発信することで、本当に欲しいタイミングで情報を届けることができるのがMAの一番のメリットだ。
施策の自動化
例えば、3カ月で使い切る化粧品を購入した人には、使い切りそうなタイミングで再購入を促すメールを自動で送り、同時に新商品情報や人気商品を勧めることで、顧客の行動に応じた適切な施策を適切なタイミングで実行することができる。実際、このような個別施策を行うことでメールの開封率が15%→40〜60%に増加するなど、統合的な施策に比べて1.5倍から3倍の効果が得られるという結果も出ている。メール未開封のユーザーに対しては、数日後にLINEのメッセージやアプリのプッシュ配信を送信するなど、コンタクトを取るチャネルを変えればいいだけだ。このように、コミュニケーションをただ自動化するのではなく、マーケティングのプロセスに関連する全体の施策をすべて自動化するのがMAの最大の特徴だ。
各種ツールの整流化
MAツールを導入していない企業では、メール配信、Web接客、レコメンド、アンケートなど、さまざまなツールを利用することでマーケティング業務が煩雑になり、重複作業が生じるなど、一元的な顧客対応ができていないケースが発生している。ツールやデータソースによって結果に差異が生じ、そもそもどのデータが正しくてどこから取得できるかが整理されていないケースも増えてきている。そのため、必要な時に必要な情報が取得できず、データを活用した顧客サービスやマーケティング施策が行うことが出来ない、という状況に陥ることもある。また、アクセス情報と会員情報の統合ができない問題もあり、MAツールにより、各種ツールの整流化・データの統合化を図ることが可能になることがメリットといえる。
ECサイト運用でMAを活用していくための8つのステップ
ECサイトでのMAツールの活用の問題点は、導入時よりも運用時の方が大きいと言われている。期待に胸を膨らませてMAを導入しても、多くの企業で使いこなせない状態になっているのが現実だ。MAの活用が進まないEC事業者のほとんどは、成果を出すためのPDCAサイクルに入る前に、挫折してしまうケースが多いのだ。ECサイト運用でMAを活用して確実に成果を上げるためには、正しい運用ステップを踏む必要がある。ここではMAツールを使いこなしていくために必要なステップを見ていく。
Step1:自社で解決したい課題を明確にする
まずはMAツールを活用してどのような課題を解決したいのかを明確にしていくことからはじめる必要がある。MAツールで、というよりは、ECサイト運用に関わる全ての課題をひとまず棚卸ししていくことから着手したい。この際、自社内の目線だけだと気付くことが出来ない課題や改善の可能性もあるため、可能な限り外部の専門家の意見も参考にしていきたい。
Step2:課題に優先順位をつける
棚卸した課題の全てを即座に解決することは基本的には不可能だ。また、「出来たらいいな」と「解決しなければならない」というような必要度の判断や、解決することで具体的にどの程度のコスト・工数効果が見込めるのかという数字を整理して、課題の優先順位付けを行っていく。そして、初期ではここまでを対応する、というような対応順を明確にしていきたい。
Step3:課題のプロジェクト
解決するべき課題が明確になったら、可能であればその課題毎にプロジェクト化を行うことをおすすめする。そして、その課題の背景を再度整理し、その原因と改善後のKPIをしっかりチーム内で検討していく。課題毎に責任者や担当部署が決まらない状態だと、その課題がPDCAサイクルを回している最中に宙に浮いてしまうことに繋がるため、しっかりとプロジェクト化していきたい。
Step4:ターゲット選定
次に、課題の原因やKPIなどから、具体的にどのターゲットに施策を打つべきかの検討を進めていく。実際のターゲットと、MAツールで設定できるターゲットとは異なるケースもあるため、可能な限り近しいターゲットの選定・設定をMAツール上で行っていく。ただし、ここで最初からターゲットを絞り込み過ぎるのも危険だ。MAツールで手間のかからない範囲で設定できる、実際の想定ターゲットよりも少し広めの設定にしておくことで、ターゲットのボリュームの確保や、実際に想定・設定したターゲットで本当に正しいのかをチューニングしながら確認していく方がいいだろう。
Step5:シナリオ検討
ここまでの準備が整ったらはじめて、設定したターゲットに対して、具体的にどのような施策を打つべきかのシナリオを検討していく。ここもターゲット選定と同じで、初期から細かすぎるシナリオ設定はおすすめしない。まずは、骨格となるシナリオを設定し、運用しながら条件分岐を細かく設定しながら成果を確認していく方がいいだろう。
Step6:データの整理とツールへの設定
ここから実際にMAツールへの設定を進めていくのだが、ここで大きな壁が立ちはだかるケースが多い。それは、社内の各システムに散らばっているデータをMAで使えるように定義付けし連携する必要があるからだ。実はこのStepはStep3の中である程度行っていかないと、それ以降の検討が無駄に終わる可能性もあるので注意したい。データを連携した後に、検討したシナリオ通りに運用していくために、ツールの設定を進めていく。
Step7:コンテンツ作成
実際にツールの設定も行えることが確認出来たら、各トリガーで各ターゲットに送るコンテンツを作成していく。従来のECサイトの運用ではそこまで頻繁に、異なるターゲットに向けたコンテンツやメルマガの配信を行ってこなかった事業者が多いため、ここのStepも苦労するケースが多い。しかしMAではコンテンツが成果の成否を分けるため、編集体制の見直しも着手してもいいだろう。
Step8:PDCAを回す
MAは自動で施策をある程度打ってくれるため、設定が完了したら放置したくなる、もしくはしてしまう事業者も多い。しかし、MAの成果を継続的にしっかりと出していくためには、施策の効果測定を行い、目指すべきKPIへの達成度を定期的に確認するプロセスが重要になってくる。定期レポートの作成や、定例会議での報告などはPDCAサイクルを回すためには非常に有益となるだろう。
ECサイト運用でMA活用が失敗に終わるケースから見える示唆
ECサイト運用でMAを活用していくために重要なStepについて見てきたが、ここではMA活用が失敗に終わるケースをまとめてみる。
まず、上述した各Stepの問題点を見ていこう。
- どんな施策を実行すれば良いか分からない
- 施策を考えて実行する人がいない
- 施策を設定したまま検証・改善されていない
- コンテンツがチープ
- 組織内の連携が出来ていない
活用Stepに関わる課題の多くは、組織・体制の問題ともいえるだろう。従来の縦割りの組織ではMAという概念はなかなか対応しきれない。各課題やシナリオについて検討や改善を深めようとしても、連携すべき他部署のメンバーに全社で取り組むべき課題としての意識がない、早くツール設定をすべきなのに情報システム部門と連携できていない等の組織的な問題は非常に多い。また、従来には存在しなかったシナリオの成果を横断的に確認していくマーケター的な役割や、コンテンツを定常的に生成するコンテンツ作成チームなど、新たな体制の確立も重要になるだろう。MAを単なるツールとして捉えるのではなく、全社課題として捉えていくことで、費用対効果がしっかり上がるプロジェクトになるのではないだろうか。
次に、導入するMAツールに関わる問題点を見ていこう。
- 施策ごとにデータ連携開発や加工、場合によっては機能開発が必要
- 自社で保有している顧客データがMAツールで使えない
- 施策の設定方法、テンプレートの作成方法が分からない(テンプレートがそのまま利用できない)
- ベンダーのサポートが不十分
- 複数のベンダーに問い合わせる必要がある
MAツールに関わる課題は、MAツール外のデータとMAツールとの連携、そしてMAツールの使い勝手の問題が大部分を占める。多くの企業では古い基幹システムに情報が蓄積されているため、個人データに紐づけて活用することを前提としたデータ構造を組まれなければならない。また、広告データやビジネスデータ、アクセスデータといったデータがそれぞれ別の場所にあり、1つの個人IDで統合されていない場合も対応する必要がある。ターゲットやシナリオを決めたものの、実際にそのシナリオを実現するためのセグメント分けやスコアリング、コンテンツ配信のタイミングといった詳細な設定ができない場合は、「MAを使いこなせない」とツール提供企業に依頼することも必要になってくるだろう。
これらの失敗理由を踏まえると、ECサイト運用でMAを使いこなすための注意点を整理してみた。
- 解決したい課題をできるだけ明確にする
- 自社にマッチしたツールを選定する
- 人的リソースを確保して部門間の認識のすり合わせを行う
- 運用前の設計を入念に行う
- 改善につなげるPDCAサイクルを常に回す
これらを意識することが非常に重要なポイントとなってくるのではないだろうか。
ECサイト運用に適したMAツール「シナブル EC Intelligence」
今回豊富な経験をもとに多くのインプットを頂いたシナブル社が提供するMAツール「EC Intelligence」は、ECサイトを主に対象にしたBtoC向けのMAツールだ。
「EC Intelligence」の最大の特徴は、ECを熟知したメンバーが企画・開発を行っているという点にある。
メンバーは、大手企業のEC構築プロジェクトを 100サイト以上も経験したメンバー達だ。EC事業者の課題や悩みを知り尽くし、それらを解決する機能開発を20年も行ってきた。
そのためシナブルは、EC事業者の状況に応じた導入支援や運用サポートにも定評があり、MA導入から施策開始までの平均期間が他社と比べても短いという評価を得ているとのこと。
▲シナブル社 代表取締役 小林裕紀氏
また機能面でも非常に充実している。サイト内検索・レコメンドから、メール配信、LINE配信、Web接客、ABテスト、BI、広告効果分析など、分析・検証から施策までトータルにPDCAが回せるソリューションで、あらゆるツールを統合的に組み合わせたサービスを提供している点だろう。MAツールは、大きく分けてCRM(メール配信)系、Web接客系、サイト内検索/レコメンド系の3つのカテゴリに分けられるが、CRM系とWeb接客系を組みわせたMAは存在しても、サイト内検索/レコメンド系まで網羅しているMAは数少ない。シナブルは、サイト内検索/レコメンド系までを含めて対応できるため、ECサイト運用に非常にFITする。MAツールは、本来メールからWeb接客、レコメンド、ECのシステムまであらゆることを理解した上で総合的にサポートしなければならないと考えているシナブルでは、施策の立案から運用サポートまでしっかり行ってくれる。