東京・表参道の青山通りから路地を入って数分行くと、ブルックリン ミュージアム青山本店の看板が見えてきた。表参道や青山通りには高級ブランドや有名ブランドが軒を連ねるが、この裏通りは知る人ぞ知るブランドが立ち並び、虎視眈々と未来の有名ブランドを目指すエリアだ。
革小物を主に取り扱うブルックリンは「使う人にとって本当に良いモノとは何か?」ということを常に考え、素材、製造過程、デザイン全てにおいてこだわり抜いたバッグ・財布などの革小物を製造・販売している。ほぼ全ての商品を自社で製造し、手間暇を惜しまないディテールのこだわりが特徴的。また、オンラインは自社サイトの運営のみを行い、商品の持つ価値を正確に伝えることに重点を置いている。
今回は、株式会社フラクタの協力でブルックリン創設者でディレクターの草ヶ谷和久氏、代表取締役の草ヶ谷昌彦氏、EC運営担当の瀧澤由季氏に取材を実施。ブリックリンの創業から今までの歴史と、モノ作りに対する思い、ECサイトで実現させたいことを伺ってきた。
創業から一貫したクオリティ第一主義の事業展開
ブルックリンの歴史は1979年にはじまるが、驚くべきことに最初はソックスの生産からスタート。当時のファッション業界はナショナルブランド中心からセレクトショップ中心に徐々に移行し始めた時期だった。ブルックリンは、その「良い物を大切に永く」というコンセプトが高く評価され、翌年以降SHIPS、BEAMS、Paul Smith、TOMORROW LAND、Brooks Brothersといった有名セレクトショップで、徐々に取り扱われるようになっていった。草ヶ谷和久氏は非常におしゃれな感覚を持ち、市場に足りないものを自ら作っていこうという心意気で事業を展開。そのため、創業当初から素材や作りの良さに加え、個性的な色柄を取り入れ、他では買うことができないような商品提供を目指し工夫を凝らした。ソックス一つをとってもトップスからパンツ、靴に至るまでのトータルコーディネートを常に考え、エンドユーザーが商品を求める背景にまで意識した提案を続けたことで、多くのセレクトショップからのオファーを得ることが出来た。その信念は革小物中心の商品ラインナップに変わった今も生き続け、ブルックリンの商品は機能だけを求めるのではなく、周りの人に与える印象や自分の好きものを持ちたいといったニーズに応えることを目的としているのだ。
1990年代には主力商品がソックスから、レザーグッズへと変わっていく。これは草ヶ谷和久氏の親族であった革製品の職人と情報交換を続けるうちに、商品のバリエーションが自然と増えていった結果だった。常に全身のコーディネートを考えた上で提案を続けてきた草ヶ谷和久氏にとってはごく自然な流れだったという。
「良い物」に徹底的にこだわってきた同社だったが、2000年に入り、一つの壁にぶち当たることになる。時代はファストファッションがトレンドとなり、ファッション業界全体に低価格化の波が押し寄せていた。品質よりも価格が重視される風潮が広まると、取引のあるセレクトショップからも低価格での商品卸しを要求されるようになってきたと草ヶ谷和久氏はいう。しかし価格を下げればクオリティも下がってしまう。草ヶ谷和久氏にとって品質を下げてまで価格を追求していくスタイルは当然看過することができかったのだ。このような状況から「たくさん売れるものがいいものなのか」という疑問を持ち、どのお客様も本当に「クオリティが低くても安いもの」を求めているのだろうかと考えていった。
「有名なタンナーの革で作られたから」、「有名な工場で作られた」からいいものだというのは、本質でないと考えた草ヶ谷和久氏。商品を創るうえで高品質な革を使うことは大前提であり、その上での付加価値を創出していくことを目標に、「使って楽しい」「身に付けて嬉しい」「ひとつ上の心地よさ」をモットーにした商品作りにさらに磨きをかけていくことになる。その結果、モノの本質を直接お客様に伝えることができて、こだわりのある商品を思う存分触れることができる場所として2002年、ブルックリンの直営店が南青山にオープンした。
直営店オープン後は、イタリアのミラノ、イギリスのロンドンなど世界のファッション業界の中心地にあるブランドへの輸出もスタート。これがきっかけとなり、イタリアで年2回開催される、靴・革の展示会「82MIPEL」に出展。ブランドとしての招待は日本初の快挙であった。
そして、その直営店をオープンしたのと同じ頃、革小物を取り扱うショップとしては他企業よりもいち早くEC展開もスタートしたのだ。
ECでも徹底的に品質をアピール
2002年にECサイトをスタート。2004年にはモールにも出店。しかし、モールは1年半程で撤退した。モールでは値段から商品を検索するユーザーが多く、国内における商品の価格をすべて一律に設定するため、モール内キャンペーンで最終的に価格が下がってしまう可能性がある。「良い物を大切に永く」という自社のコンセプトに合わせて、あくまで価値あるもの・高品質なものを販売していくという姿勢を貫くため、モールという概念は事業スタイルにマッチしなかったのだ。その後は自社ドメインのみでのECサイト展開を行ってきている。
ブルックリンの売上比率はECよりも店舗の方が大きい。これは、ブルックリンで扱う商品の特性上、業界の中でも比較的高価格帯であることから、実際に現物を見てから商品購入に至る人が多いためだ。また、過去に主に他店舗でオンラインでの写真だけを見て商品購入した結果、失敗したという経験があるお客様が実店舗に実物を見に来るケースが最近は多くなっているという。草ヶ谷和久氏も「実際に実店舗で実物を見ることを推奨している」という。商品に関する質問があればその場で受け、商品別の目的、お客様のライフスタイルに合う商品の提案、最終的に理解してもらうことが狙いだ。
また、ブルックリンはモノをある種過剰にマーケティングしていく現在の風潮を是としていない。巷にあふれる広告の中には、商品に対する情報操作や盛り付けが行われているものを多く見かける。これは今の時代に売上を上げるためには仕方無いものであることも理解していると草ヶ谷和久氏はいう。しかし本当にそれがエンドユーザーにとって良いことなのか。ブルックリンでは、売上を上げることはもちろん大切なことではあるが、ただ沢山売る事だけが一番の目的ではないと考え、自社の製品に対して理解を示したうえで、購入してもらうことが最も重要なこととしている。そのため、ブルックリンは積極的に行っていたインターネット広告によるマーケティング活動を最低限にとどめ、口コミでの顧客獲得に切り替えた。
サイトリニューアルを期にフラクタと契約
ECサイトの運営を数年行い、徐々にブルックリンにおけるECサイトの位置づけや役割というものが見えてきた2005年の夏頃、サイトリニューアルを決意。これに伴い、今までのパートナーも含め様々な企業から話を聞いていったという。フラクタについてもWebページを閲覧し、サービスに興味を持ち、アプローチをした。
それまではレベニューシェアでパートナーと意見を出し合いながらサイト運営を行ってきたが、企画の考案から実行までのスピード感を考えると、いずれ自分たちだけで全てを運営できなければならないと感じていた。フラクタでは、雑誌と同じようなビジュアル重視のサイト制作が可能で、ECサイトだけではなくブランディングを目的としたサイト作りに最適なシステムが整っており自社運営に向けた取り組みが可能と判断。また、「こだわり」を追求するという点で、ブルックリンと非常に相性が良いと感じ、フラクタとの契約が決まった。
▲株式会社ブルックリン 代表取締役 草ヶ谷 昌彦 氏(左)、創業者・現ディレクター 草ヶ谷 和久 氏(右)、株式会社フラクタ WEBプロデューサー 木村 俊朗 氏(中)
フラクタとの契約に際して、とても長い時間をかけて自社の製品づくりと理想のビジョンについて話し合ったそうだ。同業他社も同様な取組みを行っている中、いかに他のサイトとの差別化を図るかということを課題に、お店やブランドを知ってもらうことを目的としたECサイト作りに取り組んだという。結果的にECサイトだけではなく、付随するブランドサイトのデザインを含めて全ページを大幅にリニューアルを行なった。
これまでの自社のこだわりを守り、顧客満足度を大切にしていく
その結果、ブルックリンのECサイトは、ブルックリンのこだわりが隅々まで息づいているこだわりを感じることが出来るものに仕上がり、世界観を店舗とECサイトで共通化することに成功した。今では本当にブルックリンの良さを知っている顧客に愛されるサイトになっている。
今後は、ECサイトを通して商品を売る事と、ブランドとして顧客満足度の高いモノ作りの双方をバランスよく行なっていきたいと言う。マーケティングを行うための媒体はテレビや雑誌を始めとして様々なものが存在するが、自分たちでECサイトを運用し、世界観を発信していく方が正しく伝えたいことを伝えることが出来るし、そのようなアクションも起こしやすいと感じているという。そして、良いブランドとして認知されることは重要であるものの、商品を多く売ることはゴールではないと草ヶ谷和久氏は繰り返す。自分たちで対応できないような国や地域を対象にはせず、手の届く範囲の地域を対象に、100%確実に満足のいく商品提供を行っていきたいと熱く語ってくれた。
ブルックリンのこだわりの詰まった商品は、素材だけでなく、製造過程でも手間ひまをかけるため大量生産ができない。そのような背景もあり単純に店舗を増やすことはしないという。そのためあくまでしっかりとお客様との信頼関係を作り、顧客満足度を強化することで売上に繋げていくことが大切と考えている。ブルックリンにとって「本当に良いもの」とは、素材や作りが良いことは当たり前、そこに独自のデザイン・センスを加え、楽しい気分を引き出すことで価格以上の価値を提供すること、というのも頷ける。
物が溢れかえっている現代において、「使う人にとって本当に良いものは何か」を念頭に、ブルックリンはこれからもこだわり抜いた物作りを突き詰めていく。