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「ページ作りは音楽作り」 ネットショップ総研 長山衛氏 キーパーソンインタビュー

「ページ作りは音楽作り」 ネットショップ総研 長山衛氏 キーパーソンインタビュー

ノウハウ・ツール
2013/03/22

ネットショップ総研 長山衛氏

 

eコマース業界の今後を担うキーマンに、さまざまな角度から迫るインタビュー企画。

第1回目となる今回は、ネットショップの運営代行やコンサル業務を行う、株式会社ネットショップ総研の代表、長山衛氏にお話を伺いました。

 

 

長山氏は、ネットショップ業界での長いキャリアと幅広い人脈で業界を席巻しながら、独自の音楽レーベルを立ち上げて作曲活動を行ったり、総合格闘技の経験もあるなど、幅広いアンテナを張り巡らしている活力溢れるキーマンです。

現在の会社を立ち上げる前には、勤めていた食材ネット販売会社を年商3億円に成長させた経験を持つ長山氏。商材の撮影からWebサイトの更新まで、販売に関わるすべての業務をこなし、現場を知り尽くした長山氏だからこそ分かるネットショップが抱える問題とは。

 

 

出せば売れる時代

 

ーー年商3億円を作り上げた当時、どのような施策を行っていましたか。

2002年頃ですが、今とはだいぶ状況が異なり、いわゆるショップに出せば売れる時代と言えたかもしれません。

今では大部分の方法論が使えないのですが、当時はページのクオリティが最重要項目でした。画像、撮影、デザインなど、クオリティに影響を与えるこだわりを、どれだけしっかり持つかが勝負でした。

 

ーーいつ頃から状況が変わってきたように感じますか。

徐々にですが、2003年か2004年頃から変わってきたと思います。eコマースが市場として発展してきて、競合が増えてくるに従って、視覚的表現による、ページクオリティでの差別化が困難になり、それ以外の新しい手法を取り入れることが必要になってきました。

 

 

ネットショップコンサルティングは「総合格闘技」

 

ーー現在、ネットショップ総研では、日々どのような業務を行っているのでしょうか。

独自のノウハウを体系化した“10のチカラ”と題したサービスを提供しています。

具体的には、分析や戦略の提案、広告の運用、視覚的表現についての提案、物流の作業代行などですね。

最近では、ネットショップマスター資格認定と言う資格制度の推進をはじめとする、業界の人材育成にも力を入れています。

 

ーー業務の強みはどのようなところでしょうか。

広告の運用、パフォーマンスには自信があります。また、模倣されがちな視覚的表現要素も常に新しい表現を模索し、得意としています。

言ってみれば、ネットショップのコンサルティングは総合格闘技みたいなもので、例えるなら集客手法に特化したSEOはボクシング。

利益を上げるために何でもありの世界で勝負している感じです。総合格闘家がボクサーになろうとしたら出来ることが多いですが、逆は非常に困難なんです。総合格闘家として、総合技術のレベルアップを日々行っています。

 

ーーコンサルをやる中で、お客さんの悩みで多いのはどのようなことですか。

価格勝負ができるか否かということについては、どのショップさんも悩まれていますね。

商品を検索したときに価格の安い順に並べ替えられる楽天などのモールの仕組みは、ユーザーにとっては良くてもショップにしてみたら命取りになりかねない。あくまで価格勝負ですから、極端な話、各ジャンルで1店舗しか生き残れないということになりますよね。

日本のeコマースの出店数は、経済白書によると30万店舗強と言われています。そのうち約1割にあたる4万店舗が楽天ですから、価格で攻めるのかクオリティで攻めるのかということを悩んでいる方は多いですね。

 

 

事業として成り立っているのは市場全体の2割

 

ーー他に何か感じることはありますか。

これから出店しようとしている方や出店して間もない方に多いことですが、まだまだ出せば売れるだろうという甘い考えの方が多いですね。

野村総研のデータによると、事業として成立しているネットショップは全体の2割程度と言われています。

実店舗と比べてコストがかからないというメリットを挙げる方がよくいますが、ネット上の店の人たちと戦うということを考えればみんな同じ条件となり、むしろ競争は厳しい世界となっています。

今の時代に物を売るためには、分析力、販売力、先見性、商品のブランディングなど、多様化した戦術が問われます。

 

 

自ら購入を体験することの重要性

 

ーーでは、より収益を得るためにはまず何からやるべきなのでしょうか。

eコマースの事業者さんや担当者さんの中で意外に多いのが、ユーザーとしてあまりネットショップで物を購入していないというケースです。販売のプロなら、ユーザーとしても高い頻度で購入すべきですね。

僕は週3回ぐらいのペースで何かしら買っています。

プロレスが好きなので覆面のマスクやゴングを探すことが多いんですけど、ゴングに関して言うと、プロレスの聖地である武道館で使われているものが良かったりする。

そうやってこだわって検索していくと、必ずしもモールにたどり着くわけじゃないんですよね。独自のドメインを持ったマニアックなショップに行き着くこともある。

要するに、ユーザーとしては安ければいいってものじゃないんです。ポイントがあるとか、商品について詳しい説明が添えてあるとか、そういったユーザーが良いと思うツボを分かっていないと、販売者としては厳しいと思います。

今は、販売者が思っている以上に消費者のリテラシーが高くなってきていますから。ユーザーは思っているよりも賢くて、そこの温度差は感じますね。

 

ーー事業者が消費者のレベルについていっていない、と。

そうですね。たまに“うちの商品はすごく良いものだから間違いなく売れる”と言う職人気質の方がいるんですよ。

良いものを作るのはもちろんいいことですが、売れるか売れないかということはまた別ですからね。

“他のお店とどう違うんですか”と聞くと、“俺は自分で作って他からは買わないから分からない”って(笑)。

あとは、消費者の評価(レビュー)を信じていない販売者の方も多いですね。SNSが台頭してきている今、もう少し皆さんマーケティングを知るべきだなと思います。

 

 

広告投資を行わなくても成り立つ3割のショップとは?

 

ーー集客のためにお金を投資したくないという方も多いと思いますが、そういう方に対してのアドバイスは?

広告投資をしなくても成立するショップは、私たちのクライアントでも3割ぐらいいます。

その方たちに共通して言えるのは、商品力が高いということですね。

他社にできない商品というのをしっかりと持っていて、価格では勝負していないんですね。相場からすると少し高めでも、ちゃんとしたものを売っている。それで事業として成立していたら、それは一番いいことですからね。

もし広告を出すのであれば、継続的にやっていかないと成果がしっかり現れないので、僕は2年計画ぐらいで戦略を伝えます。初年度は少しだけお金をかけて、2年目はかけないという提案をすることが多いですね。

 

ーーこれまでに長山さんが手がけたショップで、印象に残っている成功事例はありますか?

あるパン屋さんの例ですが、いわゆる普通のパン屋さんに、サイトから何まで高級ブランドにしましょうという提案をしたことがあります。

もちろん原料も高くて良いものを使っていましたが、食パンを1斤5,000円に設定して高級パン屋さんとして打ち出したんです。

今から5年前ぐらいにリニューアルしましたが、今は10ヶ月待ちという状態ですよ。原価がそれほど安くないものを使っているとはいえ、そうなると生き残りますよね。

逆に、価格を下げるというブランディングで成功したケースもあります。

 

ーー商材の面から見て今アツいものはありますか?

情報が多様化してきたので昔よりそういったものは少なくなりましたが、オーダー系は増えてきたかなと思います。

価格競争が進む一方で、より個々に対して満足度が高いものを提供するというケースは増えました。

僕らもギターのセミオーダーをやっていますが、1本20万円ぐらいのギターでも問い合わせは多いですね。月に5、6本は売れますから面白いですよ。

 

 

商品写真撮影に断食は効果的!?

 

ーー長山さんはこれまで食品を中心に扱ってきましたが、食品ならではのエピソードを教えていただけますか?

食品は写真が命ですよね。今の会社を立ち上げる前に務めていた食品の小売りの会社では、午前中に食品の撮影をして、午後は撮ったものを元にデザインして販売するということを毎日やっていたんです。

そこで気づいたのが、飯を食っているときの撮影と食ってないときの撮影って、出来がまったく違うということなんですよ。

満腹なときに撮る食品と空腹のときに撮る食品を比べると、後者のほうがうまそうに見えるんですね。

単価が高いおせちを取り扱うときなんかは当然撮影にも気合いが入るんですけど、もはや断食ですね(笑)。

 

 

 

ページ作りは音楽作り

 

ーーそんな工夫があったんですね(笑)。では、その写真を掲載するショップのページを作成する際に気をつけていることはどのような点ですか?

どういうページを作り、どういう撮影をすれば良いかを解説した食品ネットショップ「10倍」売るための教科書でも触れたのですが、ページの構成を音楽の編曲に例えて考えるととても分かりやすいと思っています。

私はデスメタルを主に作っていますが、ネットショップのページはJ-POPの構成が非常にはまりやすいと思っています。

J-POPは通常Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→サビ→サビのようになります。ページの訴求コンテンツの抑揚もこのリズムが今のところ非常にはまりが良いのです。

逆に、訳あり商品はパンクの構成の方が良いんです。パンクは短く、曲もぎゅっと詰まっています。そのイメージでページを作成していくと良いと。

また、高額な商品の場合はリフレインがないなど、作曲と同じ構成で捉えることで、ページのリズムが分かりやすくなってきます。

 

ーー音楽をやられている長山さんならではの例えですね(笑) では最後に、長山さんが考える“2013年のコマース業界”について聞かせてください。

去年は、ZERO STOREやBASE、STORES.jpのように無料でショップを出せるインフラが一気に増えた年でした。

言い方を変えると、今まで法人としてしか成立しなかったネット販売が、敷居が下がって個人でも気軽に出せるようになった。それ自体はとてもいいことだと思うんですよ。

中には、個人でいいものを作って海外で評価される方もいると思うので、国内のECにおける消費だけでなく、外貨の獲得にもつながりますよね。

個人レベルとはいえ、数が増えて裾野が広がることによって業界全体が底上げされる。

ただ、個人レベルの方が少しずつ底上げしていくのはなかなか難しいことなので、支援業界の立場から言うと、個人の方でも気軽に依頼できる個人のコンサルを増やしたいと思っています。

結果、EC業界全体が広がっていくという流れを作っていきたいですね。

 

 

 

長年ネットショップ業界に携わってきた長山氏に、総合格闘技や音楽作りと言う、独特のテーマと絡めたお話を伺うことが出来ました。

売上アップのヒント、それは皆さんの趣味に対する姿勢と同じように、楽しみながら真剣に考えることが重要だと言うメッセージを受け取ったような気がしています。