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大手家電メーカーのECサイトは既存流通網を乗り越えることが出来るのか - ソニー、パナソニック、サムスンのECサイトの未来

大手家電メーカーのECサイトは既存流通網を乗り越えることが出来るのか - ソニー、パナソニック、サムスンのECサイトの未来

トレンド
2014/05/30

大手家電メーカーのECサイトは既存流通網を乗り越えることが出来るのか

 

実生活に根付いている割にECサイトが盛り上がらない業界を挙げるとしたら間違いなく出てくるのが大手家電メーカー業界だろう。ソニー、パナソニックをはじめとする大手メーカーの家電製品は多くの場合、一家に1つや2つはあるはずだが、その製品をECサイトでメーカーから直接買ったことがある人は非常に少ない。従来から大手家電メーカーは、独自の販売網に頼らず幅広い流通を行ってきたものの、その影響から家電量販店に販売ルートの多くを依存してきてしまっている。ECが浸透してきたことにより、直接消費者とのチャネルとしてのEC事業に取り組むものの、既存流通網への配慮から取り組みが限定的となっているのが実情だ。今回はそのような大手家電メーカーのECサイトの取り組みを見ていく。

 

 

ソニー

 

まず最初に取り上げるのは、“ソニースタイル”で一世を風靡したソニーだ(以下のイメージは現在のECサイトのソニーストア)。

 

ソニーストア

 

製品や製品にまつわるストーリーを知ってもらい、そしてさらに生活に密着した使い方を提案することを目的に、ソニースタイルは2000年にECサイトとして立ち上げられた。ハードウェアにインターネットサービスなどを組み合わせて1パッケージ製品として購入できる“プロダクト・スタイル”、ユーザーの要望に応えた製品の開発を行なう“カスタマイズド・スタイル”、ユーザーが必要な製品・サービス情報を提供する“ショッピング・スタイル”の3スタイル提案を組み合わせ、時代の最先端を行くソニーならではのECサイトを作り上げた。

サイト内には、VAIOのインターネット販売専用パッケージを提供する“VAIO Style”や、カスタマイズドAV関連製品を扱う“Home Network Style”、デジタルカメラ関連製品に特化した“Visual Network Style”、メモリースティック関連製品ゾーン“Music Style”を設置。顧客の幅広いニーズや嗜好に合わせた販売方式が支持され、ソニースタイルは新たな価値やスタイルを次々と提案していく。また、開設当時はECサイトのみの展開だったが、2004年に大阪・梅田にリアル店舗である“ソニースタイルストア”をオープン。家電量販店とは一線を画した、アパレル店さながらの洒落たレイアウトも注目を集めた。

ECサイトの売上高は2005年に200億円に達し、5年以内に1000億円を目標に掲げるものの、2010年では290億円に留まり思った以上に苦戦を強いられている。一方で量販店の雄、ヨドバシカメラのECサイトの売上高は355億円(2010年)とソニーのそれを上回っているのも皮肉な現実だ。しかし、手をこまねいているわけではない。既存流通網への配慮から価格勝負を行えないものの、新規登録キャンペーン、5年ワイド保証、SONYカード払いなどで最大20%程度まで割引かれる制度を導入。また、VAIOではオンライン限定のオーダーメイドモデルの販売を行い、CPU、メモリ、HDD、マイクロソフトオフィスなどのソフトウェアの有無を選択可能とするなど、オンラインで買うメリットを極限まで追求した施策を打っている。

ソニースタイルはその後、東京・銀座と名古屋にもリアル店舗をオープン。そしてサイトの立ち上げから10年目を迎えた2010年10月に、ECサイトとリアル店舗の名称をともに“ソニーストア”に変更した。事業内容自体に変更はないが、リアルからネットまで一貫したマーケティングを行う体制を構築していくと発表。しかし今春、ソニーは2014年春モデルを最後にPC事業を収束すると発表した。VAIOがメインコンテンツの1つであったソニースタイルは、果たして過去の勢いを取り戻すことができるのか。VAIOなき後の行方が気になるところだ。

 

 

パナソニック

 

パナソニックもソニーと同様に、2000年にECサイト“パナセンス”を立ち上げた(以下のイメージは現在のECサイトのPanasonic Store)。

 

Panasonic Store

 

2008年からは、同社の看板商品ごとに家電製品直販サイト“パナセンス”、レッツノート直販サイト“マイレッツ倶楽部”、デジタルカメラ直販サイト“LUMIX CLUB”の3店舗を運営。その3店舗からなるパナソニックグループのオンラインショッピングモールの総称を“CLUB Panasonic My MALL”としていた。店頭では購入できないWEB限定商品、ユーザーの声を次期商品開発に活かすための新商品モニター販売、5,000品番以上の消耗品・付属品・オプションをはじめ、レッツノートのカスタマイズなどの受注生産方式商品にも対応。パナソニックグループの35,000アイテム以上のさまざまな商品を提供するサイトとして長年親しまれてきた。

しかしサイトが分かれていることによって分かりづらくなっているというユーザーの声も多かったため、2014年1月に3店舗を統合して“Panasonic Store”という名称の新しいショッピングサイトに生まれ変わらせた。Panasonic Storeでは、これまでと同様に長期保証や消費者個々のカスタマイズ需要に対応した受注生産、サイト独自のキャンペーン展開などを行っている。

ECサイトでの売上高は非公開だが、ソニー同様、オンラインでの目玉商品となるPCは、全販売額のうち15%は直販での売上となっており、商品によってはECサイトの存在は大きいといえる。

 

 

サムスン

 

海外の事例も見ていこう。韓国が世界に誇る電気メーカー、サムスンもさまざまなサービスを展開している。ここでは本国ではなく、米国サムスン電子を例に見ていこう(以下のイメージは米国サムスン電子のECサイト)。

 

米国サムスン電子のECサイト

 

サムスンのWebサイトは、ソーシャル化に力を入れて成功している良いケースだと多方面から評価が高い。サイトの作りは実にユニークで、さまざまな工夫が凝らされてるのだ。例えば、自社製品の紹介ページにはレビュー機能を実装。ユーザーはサムスンのすべての商品に五段階評価とコメント投稿ができ、それらはTwitterやFaebookでも共有可能となっている。ともすれば炎上の恐れもあるが、ユーザーの生の声を掲載することで製品の信頼感を高める効果を狙っているのだ。さらに外部のニュースサイトの自社製品レビューも紹介し、外部の評価によって自社製品の信頼度を高めようとしている。

また、2011年にはコーポレートサイトにゲーミフィケーション要素を取り入れた企業サイト“Samsung Nation”をオープン。製品情報ページや動画などのコンテンツ閲覧、Q&Aへの質問や回答、ソーシャルメディアへの共有といったサイト内のアクティビティに合わせてユーザーにポイントが付与され、ポイントが一定以上溜まると、報酬としてサムスンの電子機器が当たる仕組みになっている。溜めたポイント数は他のユーザーに公開され、ランキング。さらに最もスコアが高いユーザーにはトロフィーを授与するという特典まで用意されている。

ECサイトについて見てみよう。取り組み自体はソニーやパナソニックより遅いものの、2004年頃にはグローバルで共通的なECシステムの導入が完了するなど、日本企業にはない強烈なガバナンスによりサイトの機能の統合を図り、ソニーやパナソニックといったグローバルブランドを各指標で一気に追い抜いていった。しかし、2007年頃にサムスンのサイトからEC機能が消え、ebayなどの各国の流通網が展開するECサイトへのリンクの提供となった。しかし昨年からECサイトは復活。サムスンをもってしても既存流通網への配慮という側面は無視出来なかったことが伺える。

 

 

既存流通網を乗り越えることが出来るのか

 

各社のECサイトを見ると、併設されている商品サイトで掲載されている商品のうち、オンラインで購入出来るものを購入するための決済サイト、という位置付けにも見える。通常のECサイトではもう少し販売している商品や価格が前面に出ているが、ここでは一覧性も低く、それらの情報の掲載も非常に控えめで、何をいくらで買えるのかが分かりにくいケースもある。また取扱商品も量販店などで取扱っている商品数よりも少ない。

また本来であればグローバル企業のメリットを活かしてグローバル一律でECの取り組みを行いたいはずではあるが、各国の流通網の違いにより一気に各国に導入することは出来ていない。サムスンは日本ではECを行っていないし、ソニーやパナソニックも海外でECを行っている国は非常に限られる。

家電は日本だけでなく、グローバルで見ても外部の流通網に頼りすぎている状態。量販店に流通の主導権を握られ、ECを使った自前での販売チャネルの構築の足枷となっている。価格を量販店より安く出来ない、新商品を量販店より早く出せない状態で、限定商品の取り扱いなどで活路を見出すもECの強みを出せずにいる。そのためユーザーにとってメリットがあるだろう一部の商品のみをオンラインで取扱っているのだろう。Appleなどそもそも自前での流通チャネルが強いメーカーにはない悩みを内包しているのだ。

 

 

同じく流通網を幅広く活用しながらもECサイトでの取り組みが成功している業界としてアパレル業界があげられる。家電とアパレルの大きな違いは価格の統制力。家電の場合は、大部分はオープン価格となり定価があってないようなもの。価格の決定権も量販店などの流通網が持つ。一方でアパレルの場合は店頭で購入する場合もオンラインで購入する場合も価格に大きな差異はなく、消費者がオンラインで購入しやすい状況となっている。ユニクロのような自前での流通チャネルが強いメーカーだけでなく、百貨店等の流通網に依存しているメーカーも商品の価格を統制することが出来ている。

家電業界の歴史は古いが、Appleのように隣接業種からの参入だけでなく、GoogleやAmazonなどの他業種も、イノベーションと共に参入してくる可能性の高い。良いモノを作れば売れ、利益を確保できた時代は終わり、良いモノを作った上で売り方まで考えないと利益の確保が出来ない時代が到来している。新規事業領域では初期から直販の確立を行うなど、ドラスティックな流通改革を行い、価格統制力を持たせるなどの抜本的な取り組みが必要なタイミングが来ているのではないだろうか。

 

 

 

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