CX(カスタマーエクスペリエンス)領域におけるAIの導入はほぼ普遍的なものになりつつあるが、アーキテクチャやガバナンス、またROI(投資対効果)を実現しながら顧客の信頼を築くことについては、組織によって見解が分かれている。
AIを活用した高度なCXプラットフォームを提供する米国企業Five9の「2026 Business Leaders CX Report(2026年版ビジネスリーダー向けCXレポート)」によると、CX関連組織の90%が、現在AIの試験運用または本格的な導入を進めているという。
同報告書では、AIの導入については組織間において概ね方針が一致しているものの、ガバナンス、導入戦略、そして新たな複雑さを生じさせたり、顧客の信頼を損なったりすることなく顧客サービスにAIを活用する方法については、組織間でアプローチが大きく分かれていることが明らかになった。
AI導入は広く普及しているが、その最適な導入方法については依然として考え方が一致していない。回答者は、エンドツーエンド型のプラットフォーム、ハイブリッド環境、ベスト・オブ・ブリード型ソリューションの3つにほぼ均等に分かれており、業界全体で標準的なAIアーキテクチャが確立されていないことを示している。各組織は、まったく異なる経路を経て同じ目標に到達しようとしているのだ。
インフラ領域でも、同様に考え方の不一致がみられる。組織の84%はオンプレミスシステム(サーバーやネットワーク機器を自社で保有・運用するシステムの利用形態)からクラウドへの移行過程にあるものの、大多数は依然としてハイブリッド環境での運用を続けている。多くの組織は、クラウド移行を急いで完了させるよりも、AIモデル、ベンダー、顧客の期待が絶えず変化するなかで、フレキシビリティを維持しようとしているようだ。
このようなフレキシビリティの重視は、AIプラットフォームそのものにも及んでいる。多くの組織は、単一のプロバイダーに依存するのではなく、タスクごとに異なるモデルを選択できる環境を構築している。その目的は、あらゆる機能を備えた単一のプラットフォームを見つけることよりも、技術の進化に合わせて柔軟に対応できる自由度を維持することにある。
信頼はオペレーションにおける課題である
信頼は、事業運営における最大の課題の一つになりつつある。
同報告書によると、データセキュリティが最大の懸念事項として挙げられており、回答者の31%がこれを指摘している。また、信頼性、拡張性、顧客の同意についてはそれぞれ27%が、倫理、規制遵守、インフラ、AIの専門知識、予算の制約、顧客の不快感についてはいずれも20%以上が懸念事項として回答している。重大な導入上の課題に直面したことがないと回答したのはわずか4%にとどまった。
出典:Five9社「2026年版ビジネスリーダー向けCXレポート」
組織は、AIを最初に導入する領域についても慎重に検討している。最も一般的な導入事例は、カスタマー・エクスペリエンスを根本的に変革するのではなく、既存の業務の改善に重点を置いたものである。
セルフサービス自動化の導入率が42%でトップを占め、次いで品質管理と自動化された品質保証(41%)、音声・テキスト分析(40%)、リアルタイムでのコンプライアンス監視(39%)、エージェント支援(38%)と続いている。これらのアプリケーションは、企業にとって既に馴染みのあるワークフローに組み込みながら、効率性、一貫性、従業員のパフォーマンスを向上させる。
顧客向けのAI導入率は依然として低い
顧客向け機能のAI導入は、より緩やかなペースで進んでいる。ナレッジ・オーサリング(ナレッジ作成)の導入率は30%、ジャーニー分析は28%、パーソナライゼーションは26%となっている。これらのユースケースでは、より豊富な顧客データ、より強固なガバナンス、そしてAIによる意思決定に対する高い信頼性が必要となるため、大規模な導入はより困難となる。
これは、企業がより高度なカスタマー・エクスペリエンスへと展開する前に、まず運用面でAIの価値を実証しようとしていることを示唆している。
インフラストラクチャに関する意思決定についても同様の傾向がみられる。現在、回答者の74%がハイブリッド型のカスタマーケア環境を運用している。完全にクラウドベースのシステムを導入しているのはわずか16%にとどまり、10%は依然としてオンプレミス環境を維持している。
出典:Five9社「2026年版ビジネスリーダー向けCXレポート」
こうした環境間の移行は依然として困難である。移行に関する課題として最も多かったのは、データセキュリティとプライバシーへの懸念(36%)で、次いで既存のITインフラとの統合(35%)、データ移行と信頼性(各34%)、カスタマー・エクスペリエンスの中断と規制遵守(33%)、ソフトウェアの適応(32%)、導入コスト(31%)、そして技術サポート、拡張性、およびスタッフ研修(各29%)となっている。移行に関する課題が全くないと回答した組織は、わずか4%にとどまった。
以上の調査結果を総合すると、フレキシビリティが戦略の一部になりつつあることがうかがえる。AIの機能が急速に進化するにつれ、組織は将来の選択肢を狭める可能性のある技術的な決定に慎重な姿勢を示しているように見える。
カスタマーサービスの業務体制の変化
同報告書では、カスタマーサービス業務体制におけるより広範な変化も指摘されている。
米国の回答者のうち、45%がAIの最大のメリットとして効率性と生産性の向上を挙げている。また、42%が意思決定の改善を挙げ、同じく42%がAIによって自社に対する顧客からの評価が向上したと回答している。
出典:Five9社「2026年版ビジネスリーダー向けCXレポート」
AIは、エージェントがどの業務に時間を費やすかという点においても変化を及ぼしている。回答者の45%は、AIがデータに基づいた意思決定を適切にサポートしてくれると回答し、44%は、AIがエージェントの例外対応や判断を要する場面で役立つと回答している。やり取りの記録、ナレッジ検索、会話の翻訳、顧客とのやり取りの要約、セルフサービスの依頼処理といった定型業務は、ますますAIによって処理されるようになっており、これによりエージェントは、状況判断、共感、そして人間の判断力を必要とする状況に集中できるようになっている。
組織もまた、財務的なリターンを得ている。調査対象となったすべてのAI活用事例において、回答者の10人中約9人がプラスの投資対効果(ROI)を報告しており、議論の焦点は「AIが価値を生み出すか」から、「AIが最大の価値を生み出すのはどこか」に大きく移りつつあることが示されている。
今回の調査結果は、業界がAI導入においてさらなる成熟段階に入りつつあることを示している。AI導入はもはや必須条件となっている。競争上の優位性は、運用面での実行力、つまり、顧客が信頼できるガバナンスを構築し、AIの進化に対応できる柔軟性をチームが提供し、AIを活用したカスタマーサービスを向上させることにかかっているのだ。
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