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AIがわずか1年で変えた5つのマーケティング戦略のポイント

AIがわずか1年で変えた5つのマーケティング戦略のポイント

マーケティング
2025/12/15

新しいデータによって、AIが購買者の行動からマーケティング運用に至るまであらゆる領域を再構築しており、昨年の戦略がもはや通用しない理由も明らかになった。


特に人工知能に関しては、この1年で驚くほどの大きな変化があった。Scott Brinker氏(コンピュータプログラマー兼起業家)とFrans Riemersma氏(マーケティングテクノロジーアナリスト兼コンサルタント)は12月2日に「2026年版Martechレポート(Martech for 2026)」を発表した。2025年版との違いは、この12か月間でAIとマーケティングがどのように進化したかを如実に物語っていることである。

ここでは、マーケティング分野におけるAIエージェントの活用方法と理解について、5つの主な変化を紹介する。


1
.効率性から成長へ

2024年、多くのマーケターはチームやツールからより多くの成果を引き出すことに注力していた。それは理にかなっていた。というのもAIは新しいテクノロジーで、最も手っ取り早く成果を上げられるのが生産性分野だったのだ。コンテンツのアイデア創出ツール(69%が使用)とコピーライティングツール(62%)が最も代表的な用途に挙げられていた。

今日、求められる基準はより高くなっている。効率性は、もはや当然のことと考えられている。現在、焦点は「成長」に移っている。AIを活用してイノベーションを推進し、新たな収益源を開拓し、差別化を図ることに。「少ないリソースでより多くの成果を上げる」のではなく、「より多くのリソースでより多くの成果を出す」へと変化しているのである。2026年版のレポートが指摘しているのは、「多ければ良いわけではない。質の高いものが良いこと」なのだ。言い換えれば、重要なのはAIを「どれだけ使うか」ではなく、AIで「何をするか」である。


2
.競合プラットフォームからAIを活用した購買者へ

2025年版のレポートでは、主な混乱はマーケティング部門内部に生じていた。具体的には、既存ベンダー対新興AIネイティブツールの対立、あるいは拡大を続けるマーテック(マーケティングテクノロジー)ツール群の管理の課題である。

2026年版では、マーケティングの制御が及ばない領域で大きな混乱が生じている。消費者がChatGPT(米国OpenAI社)、Claude(米国Anthropic社)、Gemini(米国Google社)といったAIツールをリサーチや購買決断に活用するようになったことで状況は一変した。全消費者の半数が既にAI搭載の検索を利用しており、従来型検索トラフィックの最大50%が危機に瀕している。これは非常に大きなパワーシフトである。

これに対応するため、マーケターはAIエンジン向けにコンテンツを最適化する取り組みを始めている。AIエンジン最適化(AEO)と呼ぶか、生成型エンジン最適化(GEO)と呼ぶかにかかわらず、それは関連するスキーマタイプ(例:製品、よくある質問ページ、口コミ、記事)を組み込むことを意味する。これにより、機能、ユースケース、顧客評価などの詳細情報をAIが抽出し、検索結果に表示されやすくなる。初期段階ではあるが、傾向は明らかである。SEOだけではもはや認知されなくなっている。


3
.置き換えから拡張へ

2024年は、AIが従来のマーテックに取って代わるという話題で持ちきりだった。たとえば、「AIエージェントはSaaS(Software as a Service、インターネット経由でソフトウェアを利用できるサービス)を食い尽くすのか?」「従来のプラットフォームは時代遅れになるのだろうか?」などの声があった。

結局のところ、現実はそうでもないようだ。2026年版のデータによると、ほとんどの企業は既存のシステムをAIに置き換えるのではなく、既存の機能を拡張するためにAIを活用している。実際、回答者の85.4%が「既存ツールの強化にAIを活用している」と回答し、「主要なシステム構成要素の置き換えを実施している」と回答したのはわずか30.1%に留まった。

台頭しつつあるのは、従来のルールベースのソフトウェアと、推論、生成、適応が可能なAIを組み合わせたハイブリッドモデルである。決定論的システムと確率論的システムの融合は、急速に新たな標準となりつつある。


4
.データの収集からデータの質へ

2025年の最も重大なデータ課題は、データへのアクセスを確保することだった。マーケターは、クラウドデータウェアハウス(企業内にサーバを設置せず、インターネットを介してクラウド上でデータを管理・分析する形態)の構築、情報の集中化、ユニバーサルなデータレイヤーの構築に注力した。

現在の問題は、そのデータが本当に使えるのかを確認するという点である。2026年版での最大の障壁は、データの質の低さだ。マーケターの半数以上が、データの欠落、古さ、一貫性のなさに苦労していると回答している。AIエージェントがデータに基づいて洞察を提供する際、データの品質はこれまで以上に重要となるのだ。

この問題を解決するため、マーケターはコンテキストエンジニアリング(大規模言語モデルに与える情報全体を体系的に最適化し、望ましい応答を導く手法)に注力し、AIが適切なタイミングで正しい入力を得られるようにしている。これには、顧客関係管理(CRM)と顧客データプラットフォーム(CDP)データの連携、デジタルアセット管理(DAM)やコンテンツマネジメントシステム(CMS)の活用、そして内部シグナルと外部シグナルの両方によるインサイトの強化が含まれる。信頼できるコンテキストがなければ、どんなに賢いAIでも誤りを犯すことがある。


5.システムの稼働維持からビジネスへの影響創出まで

AIは、マーケティング業務の役割を他の何よりも急速に変えつつあるかもしれない。現在マーケティング業務は、ツールの管理やキャンペーンを期日通り確実に進行することに加え、戦略的な責任も担っている。

2026年には、マーケティング業務チームは「ビジネス価値エンジニア」へと変貌を遂げつつある。つまり、「AIの可能性」を売上増加や顧客基盤の拡大、戦略的洞察といった重要な成果へと転換する役割を担うことを意味する。これは、技術的ノウハウ、部門横断的な連携、そしてデータを方向性へと転換する能力の融合である。


結論

わずか1年で、マーケティングは「AIをどう活用するか」から「AIをどうリードするか」へと変化した。それに伴い、マーケティングチームへの期待も高まっている。

AIは今や、マーケティングの運営方法における新たなレイヤーとなっている。それは、ツール群の構築方法、顧客ジャーニーの形成方法、そしてチームが価値を創造する方法を見直すことを意味する。好むと好まざるとにかかわらず、マーケティングは組織における主要な変革の推進役となりつつある。その成果と課題は計り知れない。


※当記事は米国メディア「MarTech」の12/3公開の記事を翻訳・補足したものです。