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米コンサルBCG、小売業者は生成AIを利用する買い物客への対応に備えるべきと警告

米コンサルBCG、小売業者は生成AIを利用する買い物客への対応に備えるべきと警告

マーケティング
2025/11/12

グローバル経営コンサルティング企業のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が11月3日に発表したレポートによると、ホリデーシーズンが近づくにつれ、買い物客は例年通り年末商戦のセール品を探すが今年はより多くの人が人工知能(AI)を活用して購入判断を行うようになるとのこと。


同社が10か国の1万人以上の消費者を対象に実施した年次のブラックフライデー調査によると、ChatGPTGeminiGoogle AIなどの生成AIツールは実用的な買い物支援ツールとして活用されており、消費者が重要な意思決定の場面において「何を購入するか」、「どのブランドを選ぶか」、「どこで最適なセール品を見つけられるか」について、より迅速に、自信を持って判断するための支援を行っていることが明らかになった。

さらに、2025年の調査では、すべての調査対象国で生成AIの利用が明らかに急増していることが明らかになった。消費者の48%が年末商戦期間中に生成AIを「既に利用した」、または「利用する予定である」と回答しており、これは2024年比で9ポイントの増加である。

出典:BCGによるBlack Friday Consumer Study(ブラックフライデー消費者調査)、2025年10月(無加重、回答者総数10,240名、調査対象国:米国、カナダ、オーストラリア、ドイツ、フランス、チェコ共和国、英国、ポーランド、イタリア、デンマーク)。


「この成長はほとんどの国で共通しており、ショッピングアシスタントとしての生成AIに対する関心の高まりと信頼感の向上を反映している」と、BCGのマネージングディレクター兼パートナーのTiffany Yeh氏は語る。「生成AIは、顧客体験における重要な意思決定ポイントで、大きな影響力を持つ存在となっている」。

さらに同氏は、買い物客の46%が生成AIを使って商品を比較し、44%が特定の商品のお得な情報を探すために利用し、42%が商品の技術情報を得るために利用していると付け加えた。

「小売業者にとって、これは可視性を従来の検索エンジン以外にも広げる必要があることを意味する」と同氏は説明する。「生成AIによる回答に表示されるためには、構造化された、機械読み取り可能な製品データを確保し、一貫性のある価格設定のロジックを維持しなければならない。そうすることで、生成AIが自社製品を正確に解釈、表示、推奨できるようになるのだ」。

「商品や代替品のリサーチ、最安値の確認は、すでに大半の買い物客にとって購買行動の一部となっているが、現在では生成AIを活用することで、買い物客のニーズに合わせたよりパーソナライズされた形で、イベントベースの買い物も支援できるようになっている」と、グローバル市場調査会社IDCの小売部門リサーチ担当バイスプレジデント、Ananda Chakravarty氏は付け加える。

「小売業者は顧客にリーチするために、オムニチャネル戦略に生成AIを組み込む必要がある」と同氏は語る。「これは、小売業者が独自に提供するロイヤリティプログラムやポイントプログラムへの依存度が高まること、そしてより質の高いコンテンツを提供する手段を指している可能性もある」。


小売業者にとっての新たな商品発見経路

シカゴに拠点を置くデータ管理企業、Syndigoの社長兼最高製品責任者であるTarun Chandrasekhar氏は、小売業者にとって生成AIは商品発見と意思決定のための新たな窓口となっていると話す。

「消費者はもはや単に検索しているだけではない」と同氏。「彼らは、AIツールと対話しながら、購入決定へと導かれているのだ。これは機会であると同時にプレッシャーでもある」。

「これらのAIモデルは、何を推奨すべきかを判断するために、正確で完全かつ文脈に富んだ膨大な製品データに依存している」と同氏は続ける。「自社のコンテンツが正確で構造化され、メタデータで強化されていることを担保する小売業者やブランドは、こうしたAI主導のエコシステムにおいて、可視性を高める大きなチャンスを得ることができるだろう」。

ペンシルベニア州エリーに拠点を置くSEO分析プラットフォーム、Local FalconのCEOであるDavid Hunter氏は、消費者が「何を買うべきか」「どこで買うべきか」「なぜ買うべきか」について、即座の答えを求めていると説明する。「小売業者にとって、これは大きな変化だ」と同氏は話す。「ブランドの可視性は、もはやSEO(検索エンジン最適化)だけに依存しているわけではない。AIの回答の中に自社ブランドが表示されるかどうかにかかっているのだ」。

「小売業者は、優れたWebサイトがあるだけでは不十分だ」と同氏。「AIが容易に読み取り、識別できる、強力で構造化された信頼性の高い情報発信をWeb全体にわたって展開する必要がある。これを怠れば、時代の変化に適応している競合他社の中で見過ごされ、忘れ去られてしまうリスクがある」。

「はっきり言って、生成AIを活用したショッピングツールは、小売業者にとって機会であると同時に課題でもある」と、ラスベガスに拠点を置く技術コンサルティング会社、SmartTech Researchの社長兼主席アナリストであるMark N. Vena氏は付け加える。「これらのツールは消費者の意思決定をリアルタイムで左右し、多くの場合、従来の検索や比較方法に取って代わっている」と同氏。「可視性を維持するためには、小売業者はデータを最適化し、AIモデルが自社製品、レビュー、価格情報を容易に抽出できるようにする必要がある。つまり、小売業者は顧客に対するマーケティングと同様に、『機械に対するマーケティング』を学ぶ必要があるのだ」。


世代を超えて信頼を得るAI

BCGのレポートによると、AIの利用はX世代の消費者層でも拡大しており、過去1年間で利用率は8ポイント上昇して42%に達した。ベビーブーマー世代でも7ポイント上昇し、31%となった。「この変化は、生成AIがアーリーアダプター(早期導入者)向けの目新しいツールから、世代を超えた主流のショッピングパートナーへと移行していることを示している」と、BCGのYeh氏は述べる。

「高齢の消費者にとっては、信頼性、シンプルさ、そして確実性が重要となる」と同氏は続ける。「AIツールは、透明性のある、操作しやすい体験を提供すべきである。小売業者やブランドは、パーソナライゼーションと分かりやすさ、そしてユーザーのコントロールを融合した包括的なインタラクションを設計すべきだ」。

「このレポートは、新しいテクノロジーの導入に通常は慎重なグループが生成AIを信頼し始めていることを示しており、これまでにない行動変化の速度を示唆している」と、オレゴン州ベンドに拠点を置くコンサルティング会社Enderle Groupの社長兼主席アナリスト、Rob Enderle氏は付け加える。

この信頼性は、次なるAIの大きなトレンドである「エージェント型AI」にとって重要となるだろう。「AIを信頼できるようになれば、AIエージェントに買い物を任せることも可能になる」とEnderle氏。「ソーシャルメディアのデータに基づいて学習したエージェントは、より適切な贈り物を選定し、買い物に伴う不安や手間を大幅に軽減してくれるだろう」。

「AIの導入は前例のない規模で進んでおり、エージェント型コマースも同様の軌跡をたどると予想される」と、グローバル戦略・経営コンサルティング会社、Kearneyのパートナーであり、食品・医薬品・日用品部門の責任者を務めるKatherine Black氏は述べる。

「他のテクノロジーとは異なり、生成AIの学習曲線は、特に調査や情報探索分野では非常に緩やかである」と同氏は話す。「使い方を理解するのに時間はほとんどかからず、ユーザーがプロンプトを繰り返し入力してより多くの情報を得ることで、このテクノロジーの恩恵が受けられるようになるため、導入は非常に速いペースで進む」。Black氏は今後数年間でエージェント型コマースが拡大するにつれ、小売業者に多大な影響を与えるだろうと指摘する。

「Kearneyは、一部のカテゴリーにおいて、利払前・税引前利益(EBIT)が最大500ベーシスポイント(5%)減少すると予測している。この要因としては、買い物かごサイズの縮小によって引き起こされる『ハロー効果(ある商品やブランドの一部の良い印象が、他の要素にも好影響を与える心理的現象)』の消失と配送コストの増加、価格の透明性向上による価格圧縮、そしてリテールメディア収益などの高利益率の収入がエージェント型プラットフォームへ移行することなどが挙げられる」と同氏は述べる。


小売における商品発見はAIエージェントへ移行

BCGのYeh氏は、エージェント型AIがショッピングを能動的な検索主導型の活動から、AIエージェントがユーザーの代わりに商品発見、比較、さらには購入まで代行する委任型のプロセスへと変革する可能性があると指摘する。

「この進化は、小売業者がデータと商品をAIエコシステムに統合しない限り、消費者との直接的な接点を失いかねないリスクをもたらす」と同氏は述べる。「関連性を維持するためには、小売業者は自社ブランド独自のAIエージェントを開発し、サードパーティのAIプラットフォーム全体における可視性の最適化を検討すべきだ」。

「また、ロイヤリティプログラムや限定特典、パーソナライズされたオファーなどを通じて顧客との直接的な関係を強化し、サードパーティ仲介業者への依存度を減らし、顧客離れを抑制する必要がある」と同氏は付け加える。

サンディエゴに拠点を置くクロスチャネルマーケティングプラットフォーム、Cordialの小売戦略・インサイト責任者であるRob Garf氏は、検索エンジンの台頭以来、消費者がブランドを発見する方法において最も重要な変化が社会で起きていると指摘する。

「すでに買い物客の3分の1が、AIパーソナルエージェントを商品発見やインスピレーションを得るために活用しており、この割合は2026年までに少なくとも50%にまで急増すると予測されている」と同氏は話す。「しかし、小売業者が理解すべき点は、もはや消費者を自社のWebサイトに誘導することが目的ではないということだ。重要なのは、消費者がすでにいる場所に自社ブランドを届けることなのだ」。

「2000年代に検索エンジン最適化が必須となったように、エージェント型エンジン最適化が新たな戦場となる」と同氏は説明する。「これらのプラットフォームは文脈と記憶を理解する。特定の買い物客が2年前にマラソンを走ったこと、股関節を負傷していること、そして幅広の靴を必要としていることなどを把握しているのだ」。

「豊富で構造化された商品データを配信し、閉鎖的な環境のプラットフォーム内で自社を発見可能にするブランドこそが、この新たなショッピングモールを支配するだろう」と同氏は続ける。「そうでないブランドはどうなるか? 購買意欲の高い消費者セグメントが拡大するなか、単に存在しないも同然になるだろう」。


※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の11/4公開の記事を翻訳・補足したものです。