チャネルの過多とインパクトの欠如により、Z世代とミレニアル世代のメール離れが進んでいる。ブラックフライデーを前に、彼らの関心を取り戻す方法を紹介しよう。
小売業界のマーケターは、一年で最も重要な時期に向けて準備を進めており、なかでもメールキャンペーンは彼らの戦略の中核となっている。しかし、Validity(顧客データ品質を提供する米国企業)のデータによると、綿密に作成されたメールメッセージにもかかわらず、消費者の31%は件名を見て数秒以内にメールを削除してしまうという。
このような問題は、特にミレニアル世代とZ世代において顕著である。
メールの量が膨大であることもその一因だ。Validityによると、2020年初頭のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミック発生以降、世界中のメール量(正規の許可を得たメール)は倍増し、ブランド各社はデジタルチャネルに全力を尽くしてきた。しかし、パンデミック収束後も、その量が減少することはなかった。
若い世代がメールから離れ、他のチャネルを好むようになっているというのは、必ずしも正確とはいえない。メールの利用とエンゲージメントに関する人口統計は、非常に複雑である。
「若い世代も、まだメールを積極的に利用している」と、Validityの顧客エンゲージメント担当副社長であるGuy Hanson氏は語った。実際、年齢を重ねるにつれて、人々はメールをより積極的に利用する傾向がある。Hanson氏によると、教育や収入はすべて、チャネルの嗜好に影響を与えるという。
「他のチャネルと比較して、メールの人気は下降傾向にあり、その主な要因はZ世代にある」と、Sinch(顧客コミュニケーションクラウドを提供するスウェーデン企業)の製品マーケティング担当SVP、Sophie Cheng氏は語った。
Sinchの調査によると、今年、メール利用を好む消費者は5.5%低下し、一方でWhatsAppの利用率は5.1%増加している。若い世代は新しいテクノロジーを採用し、それに伴い新しい嗜好も受け入れる傾向があるため、これは当然のことだろう。
しかし驚くべきことに、小売マーケティングの2大柱も消費者の間で人気を失いつつある。マルチチャネル体験への需要は7%近く減少し、消費者の6人に1人がパーソナライゼーションをプライバシー侵害と感じているのだ。
Sinchのデータによると、過度に個人的なメッセージ対する苦情は昨年比で43%増加している。消費者の約73%は依然としてカスタマイズされたプロモーションを望んでいるものの、その数は昨年よりも7.1%減少している。
「オムニチャネル」ではなく「最適なチャネル」を考える
消費者は、メール、SMS、 RCS(リッチコミュニケーションサービス、スマートフォンの電話番号を利用した新しいメッセージサービス規格)、WhatsApp(メッセージングアプリ)、ソーシャルメディアプラットフォーム、Amazonなどのサードパーティアプリ、そしてブランドのモバイルアプリなど、複数のチャネルを通じてブランドと関わることができる。マーケターにとって、把握しておくべきチャネルは膨大であり、個々の消費者の好みに左右される余地も大きい。
SinchのCheng氏は、消費者が本当に望んでいるのは「コントロール」だと語る。
「消費者は選択肢を求めている」とCheng氏。「消費者は、ブランドや企業が自分にアプローチしてくるチャネルを自分で選択することを望んでいるが、多くのブランドがまだそれについては遅れをとっている。彼らは必ずしもその選択肢を消費者に与えることができていないのだ」。
また、顧客はチャネル間で一貫性のあるエクスペリエンスを求めており、これもブランドが苦戦している点だとCheng氏は指摘する。顧客は、たとえばSMSから電話といったチャネル間での会話の文脈を引き継いでくれることをブランドに期待しているのだ。
顧客が何を期待し、ブランドが何を提供できるかという点で、エンゲージメントの選択肢ははるかに洗練されつつある。Cheng氏はブランドに対し、「オムニチャネル」ではなく「最適なチャネル」を考えるようアドバイスしている。
メールマーケティングがブランドマーケティングに与える影響
毎年のように新しいチャネルが登場するなか、メールはその魅力を失いつつあるように思われるかもしれない。しかし、元祖デジタルチャネルの一つとして、消費者とマーケターのメール活用方法も進化を続けている。
ValidityのHanson氏は、ブランド構築戦略、つまりブランドとその製品を常に消費者に意識させ続けるための手段として、メールが過小評価されていると指摘する。これは、多くのブランドが送信するメールの量が多いためであり、また、メールを上手く運用することで、ブランドの声として消費者に語りかけることもできるためである。
ブランドの測定はマーケターにとって長年の課題だが、メールが持つブランドポテンシャルを認識すれば、マーケターは適切な指標を探すことができる、とHanson氏。
「たとえば、サイト全体のトラフィックが急増したかどうかといった点に着目できる」とHanson氏は述べた。「同様に、検索ボリュームは増加したか?あるいは、Amazonのようなサードパーティを通して販売している場合は、Amazonでの売上が急増したか?といった点も指標になる」。
他社はどうしているか?
ホリデーシーズン、特に繁忙期となるブラックフライデーからサイバーマンデーまでの週末に、マーケターは自社のメールキャンペーンだけでなく、消費者からの注目を競うすべてのメールキャンペーンを考慮する必要がある。
メールの到達率と受信トレイでの表示を向上させるための推奨事項の一つは、メールプロバイダーが(消費者も同様に)大量のメッセージを受信する時間帯である「正時」を避けてバルクメール(マーケティングメッセージ)の配信をスケジュールすることだ。メールの一斉送信を毎時15分過ぎや10分前にすることで違いが出てくる可能性がある。
メールの配信時間を問わず、消費者はブラックフライデーからサイバーマンデーまでの短期間に多くのメールの件名を目にすることになる。Hanson氏のアドバイスは以下のとおり。
- 凝った件名にせず、オファー内容が目に留まるよう全面に出す。
- 絵文字を件名の先頭に置くことで、インパクトを与え、途中で切れるのを避けることができる。
- 信頼できるデータがある場合は、件名に「あなたのようなゴルファーは…」などと記載することで、興味に基づいてパーソナライズする。
- メールの件名については、AIに100%依存しないこと。
最後に述べたアドバイス(AIの利用)について、Hanson氏は、「多くの送信者が件名の作成にAIを活用しているだろうし、生産性向上ツールとしてそれは正しいことだ。しかし、AIに100%頼り切らないことも提案したい。AIにアイディア出してもらい、それから人間の手で微調整するのだ」。
同氏によると、AIは件名に非常に緊急性の高い用語を使うことを推奨することが多いが、それはクリックベイト(クリックを誘導するために誇張や虚偽の内容を用いること)になりうるという。
「実際には、ブランド中心の色彩表現や、顧客がその企業を連想するような具体的なフレーズが使われていることが重要である」とHanson氏。「AIはまだ、そうしたことすべてを把握しているわけではないのだ」。