The Unofficial Shopify PodcastのホストであるKurt Elster氏は、消費者との間に持続的な影響力を築くには、ニッチな専門性が鍵であると語っている。
ブランドは、従来の広告を重視した戦略から離れ、信頼性と専門知識が高いニッチなインフルエンサーに目を向けつつある。彼らの影響力が業界をまたいで消費者行動を静かに変革している。
英国のソーシャルニュースおよび戦略的インテリジェンスエージェンシーのStoryfulのインテリジェンス担当シニアバイスプレジデントであるTara Naughton氏によると、ソーシャルメディアインテリジェンスは、オーディエンスが何に関心を持ち、その興味や行動を左右する要因を理解することから、新たなリスクに関する早期の兆候の把握に至るまで、企業が戦略をたてるのに役立つ強力なリソースである。
Storyfulの一部門であるStoryful Intelligenceが2025年7月30日に発表したレポートによると、新進インフルエンサー50人(5つのカテゴリに10人ずつ)は、今までブランドが頼りにしてきた「多くのフォロワー」や「エンゲージメント」を持たずとも、人工知能(AI)からヘルスケア、小売、金融、スポーツまで、業界を静かに再編しつつあるという。
Storyfulの指標は、フォロワー数を追う従来のインフルエンサーランキングとは異なり、すでに高い知名度を持つインフルエンサーを除外し、業界を横断して急速に影響力を伸ばし、新たに権威性を確立しつつあるインフルエンサーに焦点を当てている。このレポートは、業界が大きな変革期を迎える中で発表された。
この指標はいつもの顔ぶれが上位を占めるインフルエンサーランキングとは違う、と語るのはStoryfulのCEOであるMaria Pacheco氏だ。この調査は、Storyful独自のネットワークマッピングツール「Cosmos」を使って、その仕組みを解明した。この指標は、「いいね!」の数ではなく、ネットワークのつながり、ソート(思想的)リーダーシップ、社会的影響力を測定するものである。
「私たちは、新たに影響力を発揮しつつあるクリエイターを特定することを目指した。その影響は目に見えにくいが、理解する価値がより高い。この指標は、ただ単に最も声の大きい人を把握するものではない。ネットワーク全体でどの考え方が浸透しているか、その人の信頼性がいかに公共の議論を形成しているか、そして実際の意思決定が行われている場所で誰の声が重要視されているか、それらを測るものなのだ」とPacheco氏は語った。
新進インフルエンサーの台頭
クリエイターが購買決定に影響を与え、アフィリエイトモデルが進化し、小売業者は信頼を構築し、注目を行動に変換する方法を再考している。米国メディアNews Corp傘下のStoryfulの一部門であるStoryful Intelligenceは、ソーシャルプラットフォーム上の会話を解読し、文化的な変遷、新たな物語、影響のパターンを、主流の注目を集める前に特定することに特化している。
Storyfulの方法論は、ネットワークのつながり、ソートリーダーシップ、社会的影響力に焦点を当てており、フォロワー数だけを基準とする従来のインフルエンサーランキングとは異なっている。調査チームは、2025年2月1日から2025年5月1日まで、X(旧Twitter)、Instagram、TikTok、Bluesky(マイクロブログに特化したSNS)、YouTube、LinkedIn(ビジネス特化型のSNS)のSNSプラットフォーム、SNS以外のデジタルメディアでの会話を分析した。そして、各インフルエンサーを「社会的影響力」(25%)、「ネットワーク影響力」(25%)、および「ソートリーダーシップ」(50%)の3つの基準で評価した。
Storyfulはさらに、インフルエンサーを「ソートリーダー」「ネットワーク構築者」「増幅者」「会話のきっかけ提供者」という4つのひな型に分類し、影響力がどのように形作られるかを明らかにした。
主な洞察は次の通り。
- Shopify(カナダに拠点を置くECプラットフォーム)に精通しているクリエイターたちが、次世代のeコマース教育をけん引している。
- プラットフォーム戦略は、eコマースインフルエンサーが成長し、つながるための鍵となる。
- 本物の創業者の物語が、eコマースインフルエンサーを信頼できるアドバイザーに変える。
- ニッチな専門知識は興味や趣味嗜好を共有する小規模なグループを生み出す。最も影響力のある声は、幅広いオーディエンスにではなく、熱烈なサブカルチャーに訴えかけるものである。
- 信頼性がより深いエンゲージメントをもたらす。最も反響があるインフルエンサーは、個人的な経験や実体験を共有している。
この調査では、個人の資産管理、eコマース、ウェルネスと長寿、AIとヘルスケア、サッカーという5つの業界それぞれで最も注目される新進インフルエンサーを特定した。
影響力の測定基準
Naughton氏は、「わが社は、インフルエンサーが会話の中でどれだけ目立ち、中心的な役割を果たしているかを検証し、各分野において、ソートリーダー、増幅者、ネットワーク構築者としての役割を理解することを重視している」と述べた。
Storyfulインテリジェンス担当シニアバイスプレジデントであるTara Naughton氏
同氏は、「私たちは、インフルエンサー自身の発信や、専門家として主流のニュースメディアに登場しているか、さらにLinkedInのようなプラットフォームでのソートリーダーシップの伸びなどを確認している。リーチの大きさだけを指標にせず、複数のプラットフォームにまたがって分析することで、なぜ彼らが評価されているのかをより深く理解でき、彼らが影響を及ぼす独自のオーディエンスを特定することができるのだ」と語っている。
これらの独自の基準は、Storyfulが市場、政策、小売文化の形成に果たしてきた実績に貢献している。その取り組みは、主要な消費者向けソーシャルプラットフォームにおける健康関連の誤情報拡散の根本原因を浮き彫りにし、その結果、大幅な政策変更につながった、と同氏は付け加えた。
Naughton氏は、「Storyfulは、当社が取り扱う膨大なソーシャルデータに文脈を与えるための専門アナリストの分析作業、および広報、マーケティング代理店、ブランド、メディアクライアントに実践的な洞察を提供することで、他社と差別化している」と語った。
専門性が影響力を生む
新進のインフルエンサーとして選ばれたKurt Elster氏(上の写真)は、「『専門性』はインフルエンサーとして生き残る唯一の方法だと15年前にわかっていたものの、当時は具体的にどのようなものになるのか全く分からなかった」と語った。
彼はコアとなるオーディエンスを特定する方法を学んだ。それが、製品と思想のインフルエンサーとしての彼のコンテンツと成長戦略を形作ったのである。
eコマースの新興インフルエンサー上位10人
Storyful Emerging Influencer Indexは、Kurt Elster氏、Justin Welsh氏、Alex Momeni氏、Kamil Sattar氏など、eコマース界の有力者トップ10を特集している。(画像提供:Storyful 2025 Emerging Influencer Index)
「私たちは(ブログソフトウェア・コンテンツ管理システムの)WordPressサイトを量産していたが、地元の自転車店を経営する友人が、プラットフォームをShopifyに移行する手伝いをしてほしいと頼んできた。初めてのShopifyの構築は目から鱗だった。すっかり気に入ったので、即座にほかのものには一切手を出さないと決めた」と同氏は語った。
彼は重要な教訓を学んだ。ニッチな分野を選ぶことと、実際にクライアントを獲得することは、全く別の課題だということだ。
「私は営業電話をかけるつもりは全くなかったので、完全にインバウンドに振り切った。ポッドキャストのゲストとしてスタートし、ニュースレターを書き、ソーシャルメディアに投稿した。そういった活動が積み重なって、やがてThe Unofficial Shopify Podcast(Shopifyを使ったeコマース起業家たちのリアルな成功・失敗ストーリーを紹介するポッドキャスト番組)とYouTubeチャンネルの立ち上げへと発展した」と、Elster氏は明らかにした。
ニッチの発見が成長を形作る
独学で起業家として成功したElster氏は、自身の経験に共感する仲間を引き寄せてきた。
「我々は感覚が似ている。eコマースは、その起業家精神という土台に技術的な複雑さが加わる世界なので、私にとっては理想的だった。ブラックフライデーの午前2時に決済機能がダウンした時、私のウェブ開発の経験が一気に非常に価値あるものになった」と、彼はオーディエンス構築の成功について語った。
彼のShopify Podcastの成功の秘訣は、本物の情熱だ。eコマース分野で興味深い仕事をしている人々と出会うと、彼らのコンバージョン最適化戦略やカート放棄対策のアプローチに胸が躍る、と彼は打ち明けた。
「その情熱は偽装できないし、オーディエンスは遠くからでも不誠実さを嗅ぎ分けるものだ」と彼は言う。
プラットフォーム戦略が成功を形作る
Elster氏によると、Twitter(現X)が彼にとっての「ホーム」だという。同氏はこのプラットフォームを「ソーシャルメディアのスウェットパンツ」と表現した。
「かしこまった印象を与えなければならないという、プレッシャーがずっと少ない。しかも、まさにECの専門家たちが集まる場所でもある。彼らが『DTC Twitter』(Twitter上で Direct-to-Consumer = 消費者直販型ビジネスに関わる人たちのコミュニティや会話の場)と呼ぶ場所は、まさに私の自然な居場所だ」と彼は説明した。
Elster氏は、コンテンツは、それぞれのプラットフォームにカスタマイズして提供される、と説明した。LinkedInにはフォーマルで分析的な見解を、Twitterでは会話的でカジュアルな内容を、Facebookを始めとするMetaのSNSには初心者に分かりやすい説明を提供している。また、YouTubeは、ポッドキャストインタビューを中心に、時折、詳細なチュートリアルを配信している。
「今や、どのプラットフォームも外部リンクを嫌っているため、コンテンツ戦略もそれに合わせて適応させる必要がある。また、LinkedInでは、動画コンテンツは長文の考察記事ほど効果的でないことを、思い知らされた」と彼は詳細に説明した。
彼にとって、ポッドキャスト形式は究極のインフルエンサー戦略である。これがすべてを牽引し、本音の会話が交わされる場だからだ。
「そういった複雑で繊細な議論は、ツイートや60秒の動画には収まりきらない」と彼は冗談交じりに語った。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の8/21公開の記事を翻訳・補足したものです。