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AIアシスタントによる会話型コマースはカスタマージャーニーをどのように変えていくのか

AIアシスタントによる会話型コマースはカスタマージャーニーをどのように変えていくのか

マーケティング
2025/06/12

AI搭載のボイスチャット技術は、ショッピング体験をよりスムーズでパーソナライズされたものへと大変革している。


要点

  • 消費者は何よりも利便性を求め、生活が楽になる製品を必要としている。
  • 購入プロセスにボイスチャットをシームレスに組み込んでいるブランドは、ロイヤリティ、効率性、売上成長が高まるだろう。

インターネットが普及する前は、消費者とブランドが実際にやり取りする方法はなかったが、今や状況はすっかり変わった。会話型コマースは、音声アシスタント、チャットボット、AI搭載のメッセージングプラットフォームを活用し、すべての商取引の状況を一新している。これによって、ショッピングはより直感的で、パーソナライズされ、シームレスになっている。そして、消費者の意識も変化し、これまで以上のことを期待し始めているのである。

音声検索とAIチャット技術の発達にともない、適応できない企業は後れをとるリスクがある。もはやブランドは会話型コマースを「導入すべきか」ではなく、「うまく活用できているか」が問題なのである。会話型のインターフェースは、顧客体験を強化し、ブランド戦略の最適化にも不可欠なものになりつつある。

 

会話型コマースの普及

Amazonの音声アシスタントAlexaからWhatsApp(Metaのメッセージングアプリ)のチャットボットまで、こういったツールの普及が進んでいる。これには正当な理由がある。人々は何よりも利便性を求め、消費者は生活が楽になる製品を必要としている。

たとえば、ただ音楽を再生したり、天気予報を教えたりするだけでなく、実際にピザを注文できるスマートスピーカーがあったとしたらどうだろうか。画期的だ。米国の市場調査会社eMarketerによると、2025年までに米国の50%以上の世帯がスマートスピーカーを所有すると予測されている。英国の市場調査およびコンサルティング会社のJuniper Researchは、2024年までに企業はチャットボットによって年間80億ドルを節約できるとレポートしている。

さらに、英国に本部を置く総合コンサルティングサービスファームPwCによると、現在、消費者の40%が音声検索を毎日使用しているとのこと。

会話型コマースとは、音声やテキストによってブランドと消費者がAIを介してやり取りし、自然な対話型の形式で購入やサポート、製品の発見を可能にするものである。つまり、消費者はスマートデバイスを購入すると、実質的にAIアシスタントが自宅に常駐することになる。

消費者は、複雑な手順を踏むのではなく、口頭やテキストでの指示によって、必要な(または欲しい)ものを入手できるようになるのだ。

 

会話型コマースは顧客ジャーニーをどう変えるか

従来のeコマースは、ユーザーが製品を検索し、絞り込み、比較しなければならなかった。これでは、購入までのプロセスに倦怠感を覚え、時間も浪費しがちである。一方、AI搭載の会話型インターフェースは、「100ドル以下でしっかりしたアーチサポート(足裏サポートインソール)付きのランニングシューズを見せて」というような自然な言語で商品を検索できる。さらに、「このドレスの返品ポリシーは?」といったよくある質問にもすぐに回答する。

さらに、これらのインターフェースは、過去の行動を参考にパーソナライズされたおすすめを提案することで、製品を簡単に発見できるようにもしている。

たとえば、「エスプレッソが好きなら、この新しい深煎りのブレンドコーヒーを試してみては?」と提案したり、カレンダーを読み込んで今後開催されるイベントを見つけたり、以前利用したことのある特定のブランドで近々行われるアウトレットセールの情報を知らせたりすることができるのだ。

 

ボイスチャットによるスムーズな取引

音声操作による購入はもはや目新しいものではない。必需品である。AmazonのAlexaだけでも音声コマースで数十億ドル規模の取引が実現しており、WhatsAppとFacebook Messenger(Metaのメッセージングアプリケーション)はチャット内で直接の決済が可能である。Googleアシスタント経由の日用品の再注文など、ハンズフリーで購入できることが主な利点だ。

他にも、たとえば、米国に本社を置く宅配ピザチェーン店のDomino’s Pizzaは、Alexa、Googleアシスタント、Twitter(現X)のDMでも注文ができるため、カート放棄が減り、リピーターが増加している。このような利便性が、顧客の求める基準を一段と引き上げている。

 

24時間365日の顧客サポートとリテンション(顧客維持)

会話型AIはただ売上を増やすだけではなく、購入後の体験も強化している。チャットボットは、日常的な顧客サービス関連の問い合わせの約80%を解決し、待ち時間と業務コストを削減している。例としては、利用者が「配送中の商品は今どこ?」と質問すると、リアルタイムで最新の配送情報を回答する、即時注文追跡機能がある。

欲しい情報を即座に受け取ることができれば、利用者の満足度は向上する。考えてみてほしい。郵便局に電話を掛けて荷物の追跡情報を調べてもらうのに15分かかるのと、スマートスピーカーに聞いて瞬時に教えてもらうのとどちらが便利だろうか。

 

自動化と人間による引継ぎを組み合わせる

すべての問い合わせを自動化する必要はない。センチメント(感情)分析を使用して不満や苛立ちを感知した場合、必要に応じて人間の担当者に引き継げば良い。たとえば、あるユーザーの不満を感じ取った場合、ボットが「専門スタッフにつなぎます」または「担当者と話しますか」と応答することで、顧客は自分の話を聞いてもらうことができ、安心することができる。

自動化と人間による対応のバランスを取ることは、顧客の信頼と満足度を維持するために極めて重要だ。チャットボットは日常の問い合わせを処理し、複雑または感情的な問題は人間が対応する方が良い。

 

データとオムニチャネルの一貫性を活用する

利用者がFacebook Messengerで会話を始めたものの、より迅速な解決のため音声通話に切り替える場合がある。顧客が同じ内容を繰り返し話さなくても良いように、プラットフォームが変わってもシームレスな継続性を確保しなければならない。また、顧客の履歴をデータベースに保存することも、満足度を強化するための鍵となる。つまり、すべてのタッチポイントで前後関係を維持するために、バックエンドシステムと統合することも同じくらい重要なのである。

過去のやり取りを参考に、対応を調整しよう。何度も利用したことがあるレストランであれば、店員はあなたのいつもの注文を覚えているはずだ。しかし、AIに同様の対応ができれば、非常に便利ではないだろうか。コーヒーショップの音声アシスタントが、より効率的に顧客の顔の特徴を認識し、注文ごとにパーソナライズできるようになるかもしれない。

パーソナライズは、製品をおすすめするだけではない。決済方法、配送先の住所、好みのコミュニケーション方法さえも記憶する。体験をカスタマイズすればするほど、ユーザーは繰り返しそのサービスを利用するだろう。

実際に会話ログを分析して、たとえばチャットの途中でカート放棄するなどの離脱ポイントを特定できれば、購入完了率の向上にも役立つ。継続的な対話は、急速に進化する会話型コマースの世界で優位に立つための鍵であり、顧客はゼロからスタートする必要がないことを理解すれば、購入手続きへと進む可能性がはるかに高くなる。

 

結論

会話型コマースはただの流行ではない。顧客エンゲージメントの未来なのだ。ボイスチャットをスムーズに購入プロセスに統合したブランドはロイヤリティ、効率性、売上成長を高めることができるだろう。重要なのは、心の知能指数(EQ)を忘れずに最先端のAIを組み合わせることであり、これによって、あらゆるやりとりが直感的で有益と感じられるようになるのだ。

今まさに声(voice)から価値(value)への転換が始まっている。

あなたのブランドは、この「対話」に参入する準備はできているだろうか。


Boris Dzhingarov

米国の起業家向けメディアEntrepreneur Leadership Networkの寄稿者
ブルガリアのマーケティングエージェンシーであるESBO ltdのCEO。

Boris Dzhingarov氏は起業家であり、ブランド認知と可視化に特化したデジタルPRおよびSEOエージェンシーであるESBO Ltdの創業者。同社はブルガリアに拠点を置き、世界各地にクライアントを持つグローバル企業である。現在、Boris氏はタイ在住で、不動産開発も手掛けている。


※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の5/29公開の記事を翻訳・補足したものです。