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DX店舗最前線!世界の無人決済・無人レジの今から見える将来展望

DX店舗最前線!世界の無人決済・無人レジの今から見える将来展望

マーケティング
2025/06/27

DX店舗最前線!世界の無人決済・無人レジの今から見える将来展望

 

近年の技術進歩により、デジタル技術を活用することにより店舗の運営効率化や人員削減を図る「スマートストア」が注目を集めている。このスマートストアの目的は社会問題の解決だけでなく、店舗内での情報管理や運営戦略立案のためのデータ分析の進化なども期待されている。

2018年頃から店舗内のシステムの無人化に留まらず、常駐スタッフが一人もいない無人店舗が世界的に拡大した。さらに新型コロナウイルスの蔓延がこの拡大に拍車をかけたことで実店舗の無人化が加速してきている。

今回は、様々な無人決済・無人レジの仕組みと採用されてきた事例を紹介し、コロナ禍を乗り越えた現状を整理し、将来的な無人決済・無人レジの可能性について考えていく。

 

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無人決済・無人レジなど、スマートストア関連の用語整理

 

スマートストア

スマートストアは、最新のテクノロジーを採用することで効率的な店舗運営を実現する新形態店舗のことを示す用語だ。商品棚から商品がなくなったことをAIカメラで認識し正確にかつ効率的に在庫管理を行うシステムや、入退店時の顧客を自動認識することで店内にいる顧客を把握したり、商品在庫の補充タイミングなどを自動で通知するものなど、スマートストアの定義の中には様々なテクノロジーが存在している。

ここでは店舗で買い物をする中の、顧客による操作が必要であり手間を必要とするレジ操作をテクノロジーにより効率化するレジシステムの自動化にフォーカスしていく。人件費高騰や労働者人口の減少などの社会問題に加え、店舗の運営効率化などにも効果的な策として、無人決済システムや無人レジの導入が進んでいるが、それぞれの用語の意味を続いて見ていこう。

 

 

フルセルフレジ

画像出典:フルセルフレジ機能(NeoSarf/POS) | 小売業向けPOSシステム | NECソリューションイノベータ

スタッフが常駐しない無人決済の中でも、レジが設置された店舗はフルセルフレジ型と呼ばれる。販売している商品や顧客の平均購入個数があまり多くない場合にはフルセルフレジの導入により人件費削減に繋がる利点がある。しかし、顧客がセルフレジの利用に不慣れな場合や購入商品数に波があると、従来の有人レジよりも混雑してしまう場合もあることが欠点だ。また、セルフレジレーンを使用する中でも、さらなる効率化を実現するために、様々な決済方式があるが、レジカートとICタグ方式を紹介していく。

 

レジカート

画像出典:レジ待ち時間が最短4分の1に!トライアルのレジカートの使い方 – TRIAL MAGAZINE (トライアルマガジン)

レジカートは、フルセルフレジの決済方式の1つで、正式名称はスマートショッピングカートと呼ばれる。商品のバーコードを顧客自身がスキャンしながら買い物をすることで、レジでのスキャンの手間を省き店内の省人化が実現できる。顧客はリアルタイムで合計金額を確認しながら買い物ができ、支払い時にはレジカート専用ゲートに設置されたセルフレジに買い物時に使用したコードをスキャンするだけで購入商品を一括反映できる。これによりセルフレジで各商品をスキャンする手間や時間を短縮し運営効率向上が可能だ。

 

ICタグ方式

画像出典:ユニクロのセルフレジを体験! 時短&快適ICタグで商品を瞬時に読み取る – ライブドアニュース

ICタグ方式もフルセルフレジの決済方式の1つだ。日本でも大手チェーン店などにはICタグ方式が広く導入されている。各商品に電子(RFID)タグを取り付け、専用センサーで一括読み取りを行うことで、買い物かごやトレイから瞬時に商品の種類や個数を正確に認識し合計金額を算出することができる。セルフレジでの決済が必要ではあるものの、レジでのスキャンを省略し効率的な運営が実現できる。またICタグでは商品情報の管理も正確に行うことができ、在庫管理など高精度な運営が可能だ。

 

レジレス

画像出典:NEC、商品をレジに通さず決済可能なレジレス型の店舗を本社ビル内にオープン (2019年12月23日): プレスリリース | NEC

これまで紹介したレジが設置されているフルセルフレジ型とは異なり、レジが設置されていない店舗がレジレス型となる。近年ではAIの著しい発展やデジタルシステムの活用により、店舗にレジ自体を置かない形式が拡大しつつある。レジなしでどのように顧客が会計までを済ませるのか。いくつかの形式があるが、ここでは顧客による操作が必要なもの、不必要なものについてそれぞれを挙げていく。

 

ウォークスルー

画像出典:ミニストップ ポケットでAIを活用したレジレス店舗実証を開始 | お知らせ・報道発表 | 企業情報 | NTT東日本

ウォークスルーはレジレスの1つの形態だ。顧客は店内で自由に買い物をし、レジを通らずそのまま退店できる革新的な店舗形態と言える。ウォークスルー型は高い画像認識技術が必須となり、店内の天井に張り巡らされた多数のカメラやセンサー、さらにAI技術を組み合わせた最新の無人レジシステムであり、顧客は商品を手に取ることで自動的に仮想カートに追加することができる。入店、退店にはスマホを用いたQRコード認証を使用し、退店時にはアプリに紐づけられたクレジットカードやモバイル決済により会計を済ませる。レジ操作を完全に0にすることで顧客のスムーズな退店が実現可能である。顧客にストレスの少ない、そして新奇的なサービスの提供が実現できるとともに店舗の運営効率化を図る策として有力だ。

 

モバイルオーダー

画像出典:マクドナルドの新サービス モバイルオーダー ついに誕生! | マクドナルド公式

モバイルオーダーもレジレスの1つの形態だ。日本国内でも広く導入されており、非常に馴染み深いものとなっている。店員を介さないため人員削減に繋がるほか、顧客は店舗に到着するタイミングに合わせ柔軟に注文タイミングを調整できるため、スマホ決済でスムーズに注文が可能なことから顧客にとっても満足度の高い方式だといえる。現在は従来のレジシステムと併用している店舗が多くを占めるが、国内でのスマホ決済が浸透していくことですべての注文がモバイルオーダー型に移り変わる未来も遠くないだろう。

 

 

導入事例

 

それでは、国内外の無人決済・無人レジの事例をいくつか見ていこう。

 

Amazon Go

レジレス店舗の先駆けとして多くの注目を集めたのが、一度は使ったことのあるであろうECサイト、Amazonが運営しているAmazon Goだ。

レジ自体の設置をなくし、最先端技術の活用により顧客の買い物を認識することで画期的な買い物体験を実現するウォークスルー型レジシステムだ。主に食品を扱う店舗でありAmazonが買収したwhole food marketの商品やAmazonのオリジナル商品の販売、さらにシアトル発祥のスターバックス商品なども手掛ける。このAmazon Goでは画像認識方式が採用されており、Amazonのレジレス決済システム「Just Walk Out」により実現している。Just Walk Out(以下JWO)は、天井のカメラや重量センサー、さらにAIによる分析を掛け合わせることで来店者の行動、商品認識、追跡を行いバーチャルカートでの買い物を実施する。利用者は事前のアプリダウンロードによるクレジットカードの連携が必要であり、また入店時のQRによる認証で入店記録が残るため、小売業などと異なり持ち逃げなどのリスクも低いとされてきた。2022年にはJWOは米国と欧州合わせて90店舗以上の小売店に導入されており、さらにJWOの外販によりイギリス国内Sainsbury‘sやアメリカHudson Nonstopにも展開した。

Amazon Goはレジレス店舗の先駆けとして展開を始め、この分野での様々なスタートアップ企業が世界的に立ち上がり拡大している。しかしAmazon Goの決定的な違いはその実現意義である。少子化や労働人口の減少などの社会問題にアプローチする策として挙げられることの多い無人店舗、無人決済システムだが、Amazon Goは自立型店舗と呼ばれる形態で運営されている。実はAmazon Goはユーザーにストレスの少ないサービス提供を実現することを目指して展開がされており、店内外にはトータル20人程度のスタッフが常駐している。つまり、レジレスではあるが人員削減のための施策としてではなく、顧客の新奇的な買い物体験の創出を目的とした店舗なのだ。

7年前の導入時にはテスト段階とされながらも高精度な運営を可能として一躍注目を集めたAmazon Goだが、2023年には8店舗が閉鎖しサンフランシスコから完全撤退、さらに2024年にはAmazon運営の食品スーパーであるAmazon FreshへのJWO導入の取りやめと既存店舗からの撤去の方針を発表し急速に規模を縮小している。この背景には、米メディアから報じられた、最新技術によるレジレス自動決済と謳われる裏側での人員の関与が示唆された。報道に対するAmazonの反論はあるものの、実際に店舗を利用した顧客への誤請求が絶えず、買い物後に顧客自身での明細確認が不可欠だという利便性の欠如や自動決済システムへの不信感、さらに店舗内での顧客を常にシステムが監視しているプライバシー問題の懸念や入店の認証における個人情報管理など様々な問題が相まってAmazon Goの収束に至ったと考えられる。

これらを踏まえて、AmazonはJWOの撤廃とともに、代替策としてスマートショッピングカート「Dash cart」を取り入れた。Dash cartへの転換で、店内での多数のカメラ設置の代わりに顧客が手作業で商品を登録するカートの利用に繋げ、さらにアプリでの入店時の認証システムについても、クレジットカードによる入店やAmazon oneを利用した非接触な手のひら認証など顧客への選択肢の幅を広げた。しかしこの結果として、Amazon非会員向けたセルフレジ設置を余儀なくされ、無人決済システムの拡大に逆行することになり、やはり規模の縮小に落ち着いた。近年の情報としては、2025年2月後半にはロサンゼルスからAmazon Goが完全撤廃となり、2023年ピーク時にはアメリカ内に30店舗あった店舗は2025年2月時点で現在16店舗となっている。

高精度なレジレスシステムの運営には課題が残っており多くの市内から撤退となってしまったAmazon Goだが、顧客体験創造を見据えた新たなサービス展開も行われている。それが2024年11月に発表されたAmazon GoによるRFIDレーンの販売だ。1日程度で設置可能でありRFIDチェック機能を追加することのできるRFIDレーンの販売事業で、小売業者や会場運営者のビジネス変革に有効な事業とされている。既存システムにシームレスな統合が可能なことや導入環境にスペースとしての規制が小さいこと、そして設置や撤去を含め店舗レイアウトの再構成にあたり柔軟性の高さが期待されている。様々な決済プロバイダーとの統合により決済方法を多様化することで迅速な退店や効率的な運営、そして顧客目線でも満足度の高い買い物体験を可能にすることができるとされている。

このように、導入当初は会計の要らない店舗として爆発的な注目を集めたAmazonGoだが、画像認識システムの裏には人間による認識エラー訂正が不可欠であり、顧客自身による精算確認の手間などから従来店舗と比較しても支持を得られなかったためメイン店舗の閉鎖や事業展開方針の転換に至ったようだ。

 

eatsa

サンフランシスコにあるeatsaは、完全無人のサラダ専門店であり、2015年に誕生した世界初のセルフレジ型無人レストランである。

画像出典:生活に浸透していく「無人化」。 ニューヨークにオープンした無人レストランを体験した(安部かすみ) – エキスパート – Yahoo!ニュース

タッチパネルを備えたセルフレジで注文、またクレジットカードでの決済を済ませればコインロッカーのような受け取り口から購入した商品を受け取ることができ、注文から受け取りまで完全に店員を介さない仕組みになっている。困ったときのための案内係1名が常駐しており、その他接客作業をすべて自動化したことで効率的な運営が可能となった。

2017年には最大の7店舗を展開したが、2019年7月にはeatsa全店舗が閉鎖となり現在は飲食店舗の経営はされていない。

 

BingoBox

中国で2016年から急速な展開を続けた無人店舗「BingoBox」は、28都市に展開するコンテナ型無人コンビニであり、半年で29都市300店舗にまで急速に拡大した。

画像出典:半年で300店舗出店、中国の無人コンビニ「ビンゴボックス」。現地の状況は・・・(池田恵里) – エキスパート – Yahoo!ニュース

店内の商品すべてにRFIDタグがつけられ、ICタグ方式を採用することで素早い商品認識とスムーズな決済が可能だ。この拡大を可能にした背景には、中国国内のスマホ決済が98%と浸透しており、無人コンビニの決済をスマホ決済にするための素地が出来上がっていたことが挙げられる。またコンテナ型コンビニとして、店舗のコンパクト化から住宅立地や学校、ビル内の一角にも容易に設置、撤去が可能であるという柔軟さもBingoBoxの拡大を後押ししただろう。出店コストを見ても、通常の店舗の出店に比べて25%のコストで出来上がるのだ。入店時には精度99%と謳われる顔認証システムとQRコードのIDスキャンを併用し、購入時には機会の上に商品を置くことでスキャンするとスマホに合計金額が表示される。Amazon Goと比較するとスキャンの手間がかかるものの、低コストで導入できる無人店舗として注目を集めた。

さらに大型スーパーなどが近隣にあると対峙してしまうと考えられるが、大型スーパーの強みである品ぞろえと、BingoBoxの売りである決済までのスピード感により来店動機の違いにより差別化を図ることもできていた。しかしオープン当初大盛況を見せた店舗には列がなくなり、開店当初は長蛇の列ができていた珠海市の店舗が2018年には閉店に追いやられたことで倒産が危惧されていた。ほかにもいくつかの店舗が閉店を余儀なくされており、オープン当初の急激な拡大は収束した。この要因としては入退店時を含め決済や操作などスキャンの手間が多いこと、また従来のコンビニよりスペースが小さく商品の種類が少ないことなどがあった。退店時にはドアの施錠を解除させるために決済を完了させる必要があったため、緊急時の安全性についても多くの不安が寄せられた。2024年時点では200店舗にまで運営規模を縮小している。総括し、新たな顧客体験としても、利便性の高い小型無人店舗としても利点が少なく従来の店舗より高い需要は得られなかったのだろう。

 

また、2017年に創業しわずか3年後の2020年にはセブンイレブンの店舗数を超える1,500店舗以上の拡大を遂げた「便利蜂」もスマートコンビニとして注目を集め、2021年には2,800店舗にまで展開し続けた。こちらはBingoBoxとは異なり、レジでのセルフスキャン方式を採用した。しかし最先端技術の活用によるシステム自動化の利便性への過信が挙げられ、人員削減と顧客満足度向上のどちらも叶えられない結果となった。大量閉店となり2024年5月時点での店舗数は1,510店舗にまで縮小されている。BingoBoxと同様に従来の有人店舗の代替店舗としてではなく立地や顧客の来店目的、客層などの総合的な判断のもと無人店舗の設置や拡大について検討すべきなのだ。

 

TOUCH TO GO

日本で初めて展開されたウォークスルー型店舗は完全キャッシュレス店舗「TOUCH TO GO」だ。

JR東日本スタートアップとサインポストの共同出資により無人決済システムの全国的な浸透を目的として設立された。都市部を中心に拡大しており、従来のコンビニと同程度のサービスを提供できる店舗として労働人口の減少や店舗運営の効率化に効果的だとしてニーズがある。2020年、高輪ゲートウェイ駅に第1号店を出店したTOUCH TO GOは2020年後期のTOUCH TO GOのシステム外販により新たに外部導入された店舗の展開も始め、2021年のファミリーマートとの資本業務提携では既存の店舗への導入を含めて拡大したことで、これまで約80店舗にまで規模を広げてきた。2022年度にサービスの全国提供を開始後は毎年、前年度比200%の導入店舗拡大を達成しており、2024年10月には200店舗以上の導入を実現した。

Amazon Goの事例で紹介したJWOに似たシステムとして捉えられがちだが、TOUCH TO GOは顧客が決済エリアに入ると、持っている購入予定の商品の明細がタッチパネルに表示され、確認したうえで決済をする方式を採用している。さらにもう1つ、他国のシステムと異なるTOUCH TO GOの大きな特徴として、個人認証を必要としない点がある。多くの無人店舗ではセキュリティの面や決済システムとの連携のしやすさから入店前にアプリを登録する必要があることや、クレジットカードやスマホ決済との連携が欠かせなかった。しかし本システムでは認証手続きを省くことで顧客の入店しやすさを優先した仕組みとなった。さらに画像認識方式で不可欠な多数のカメラによる監視についても、商品の監視に特化し店内の個人についてのデータは不使用である。高齢者などシステムに不慣れな顧客向けに遠隔体勢のサポートを呼び出すこともでき、日本人向けとして幅広い年齢層のユーザーの利便性や、プライバシー保護の面で特化したシステムなのだ。

2024年6月には、それまでの店舗規模と比較し小さな、商品棚1本からの設置が可能な「TTG-SENSE SHELF」と呼ばれる極小スペース対応無人決済システムの提供を開始した。さらに2025年2月には、TOUCH TO GOの無人決済システムが初の国外出店となるシンガポール店をオープンしており、実証実験店舗として運営を開始している。無人化により事業者、顧客双方に利便性を提供するソリューションとして更なる拡大が期待される。これまでの運営を通じて収集したデータの活用によるマーケティング強化にも注目だ。

またTOUCH TO GOに限らず、2023年時点で日本国内の無人店舗市場規模が1,200億円に上る中、ウォークスルー店舗の市場規模は120億円程度と推定されており、コロナ禍の非接触店舗の拡大や人員削減策など様々な要因の複合によりウォークスルー型店舗のさらなる展開が予測されている。

 

Catch&Go

Catch&GOは国内ウォークスルー型店舗の中で最大規模の面積を誇る店舗だ。

2021年に株式会社ダイエーと株式会社NTTデータが、レジを通さずキャッシュレス決済が可能なウォークスルー型店舗としてNTTデータ社内にオープンした。NTTデータ社内の店舗ではAIカメラが約30台、重量センサーが約800個設置されており、約37平方メートルの店内に一度に10人まで入店可能である。さらに約600点の商品を扱い、画像認識システムによる購入商品の認証精度は99.8%と高精度だ。実証店舗として実験を開始しているミニストップポケットでは商用化とともに、ウォークスルー型実店舗導入時のオペレーションや店舗設計などを検討し、環境構築面でのノウハウ確立を目指している。そしてこの実証を基に、顧客当たりの購入数の少ない店舗や同じ商品を求めて来店するリピート客を中心に、レジ待ちをなくした効率的な店舗運営の拡大を見据えている。なお、NTTデータのCatch&GOサービスは2024年12月時点でダイエーやローソンなど小売企業4店舗に導入されている。

 

AmazonGoの運営開始時にはAIによる分析精度が低く、従来店舗よりも利便性に優れた無人レジ、レジレスシステムの運営は実現しなかったが、現在では日本国内でもAIによる画像認識を要するウォークスルー型を採用している店舗も展開されており、さらにこれまで広範囲に展開されてきたコンビニエンスストアやチェーン店舗などにも導入することで国内でのレジレスシステムの急速な拡大も期待される。

 

 

事例から見る無人決済・無人レジのメリットと課題

 

効率的な運営や顧客体験の創出など、店舗側と利用者側ともにメリットが多く挙げられた無人決済・無人レジだが、従来店舗と比較してどのようなメリットがあるのか、また最新技術による自動化にあたり解決困難な課題にはどのようなものが残っているのかについて見ていこう。

参考:無人コンビニとは?店舗数・仕組み・メリット・デメリット・導入事例 | 無人販売ナビ
おすすめのモバイルオーダー比較17選!費用相場や選び方もまとめて解説

 

論点1 ヒューマンエラー

店員のレジ操作をシステムが一括でかつ正確に行うことが実現できれば、新人によるレジ誤操作や金銭の受け渡しなど店舗運営に直結するようなヒューマンエラーを未然に防ぐことができる。AIやICタグ認識システムでは商品認証を一任しているシステムは高精度なことから高い信頼性があり、またモバイルオーダー式ではアプリ内などに完結させた注文を行うことで顧客と店舗の間で相違のない注文や会計が可能だ。一方レジカートでは顧客によるスキャン操作や注文作業が必要なため、店舗側に責任が問われるようなヒューマンエラーは回避できる策ではありながらも、顧客の不本意なスキャン漏れや操作ミスの可能性は否めない。レジに常駐するスタッフにスキャン操作を一任する必要がない代わりに、顧客による正確な操作の必要性が生じる点が課題だ。

 

論点2 顧客利便性

レジカートでは専用レーンが必要ではあるものの事前に顧客自身による商品スキャンを済ませていることで顧客あたりのレジ滞在時間が短縮でき、さらにレジ自体がない方式ではレジ列自体の解消が可能だ。設置されている従来のレジに加えてレジカート利用客専用レーンを導入することでも運営効率化に繋げることができ、導入コストの低いモバイルオーダー式との併用などによってもレーン渋滞を防ぐことができ、人員削減と店舗運営効率の向上を両立できるのではないだろうか。ICタグ方式やウォークスルー型では顧客による商品スキャン自体を省くことで言うまでもなく顧客利便性の向上が期待できる。

高い顧客利便性が期待できる無人決済システムだが、懸念点も残っている。BingoBoxの撤退理由としても挙げられた通り、従来店舗と比較した利便性の低さは無人店舗の浸透拡大に向けて解決すべき課題だ。セルフレジ操作に不慣れな顧客が結果として長蛇の列を作る要因になってしまったり、何度もスマホ決済画面の提示を要することで顧客の満足度低下に繋がることも大いに考えられる。

今回紹介した方式ではいずれも、システム化されたレジの操作や店舗利用時の個人認証アプリ登録など、高齢者やシステム利用に不慣れな顧客には壁を感じるであろう操作が不可欠だ。店舗利用客がある程度若年層に限られる立地や固定の商品を購入する顧客が大半を占める駅構内店舗など、日常的な購買機会がある利用者に向けて展開するにはとても効果的であり高い浸透率と満足度が期待できるが、大型スーパーや地域に根付いた小売店など顧客層が広い店舗では有人レジを併設したハイブリッド店舗としての実現が現実的だろう。店舗利用時の顧客操作の簡易化はもちろん店舗運営の効率化に直結するが、スムーズな決済を可能にするためには年齢層や地域に偏りなく決済手段の浸透率を高めることも重要であり、顧客全体にとって利便性の高い無人決済システム導入に向けた素地の醸成も並行して進める必要がある。このようなことを踏まえると、決済完了までのスピードアップだけを目的とするのではなく、店内の品揃えや決済方法の多様化など、多角的に顧客の利便性向上に取り組むことで従来店舗との差別化を図ることを指向した方が得策と言える。

さらにシステムに何らかの異常が発生した場合にも顧客が気づかず買い物をし、不正確な請求がされる場合も考えられる。利便性の高さだけでなく、顧客が信頼と安心を持ちながら利用できるシステムを確立させるためにはシステム上での精度向上や正確性の実証も進めることが不可欠だ。

 

論点3 万引きや不正利用

ウォークスルー型導入当初はAIによる画像認識精度の欠陥を狙う犯罪も不安視されていたが、近年ではICタグ方式を含め認識精度は99%を超えており、ほぼ正確な会計をスムーズに実現できることで万引きや犯罪を未然に防ぐ策として期待できる。しかし無人店舗は店舗スタッフの配置を不要にした分、スタッフ常駐の従来の店舗に比べて万引きのリスクが高まることが考えられる。レジレス店舗で広く活用されている画像認識システムではカメラやAIの分析による認識技術を用いるため、専門領域として知識を有する人などにとってはその脆弱性を突くことで不正ができる可能性もあるだろう。さらにレジカートでは顧客自身のスキャン操作で購入品を登録するため、従来導入されてきたセルフレジシステムと同程度である約4%の不正確率が考えられる。万一犯行があったとしても即座に対応できる体制をとるためにはやはり店舗常駐のスタッフや警備体制が必要であるが、それでは人員削減の策としての有効性も薄れてしまう。また、故意的な万引きではなくとも商品スキャンの重複や誤操作の可能性もあり、これらを防ぐためにもセキュリティの強化は不可欠だ。プライバシー保護の観点から店舗利用時の個人認証や監視カメラの設置についての賛否が問われる中で、どのようなセキュリティ対策を講じるか検討が必要となるだろう。

 

論点4 導入コスト

モバイルオーダーの導入コストが低いことに比べ、他の3方式では初期導入時のコストは高い。レジカートでは100~300万円程度が必要であり、導入店舗の規模によっても左右される。ICタグ方式でも同程度のコストが見込まれており、取扱商品数に応じてはさらに高騰することも考えられる。ウォークスルー型ではレジカートやICタグ方式の5倍以上の500~2,000万円が導入コストとして見積もられており、高い分析精度を誇りながらも初期導入に踏み込むには大きな壁となっている。前述したとおりシステム利用者のスキル構築までは有人レジを併設した店舗運営を余儀なくされることからも、ウォークスルー型ほどの膨大な投資は難しいのが現状だ。

 

 

無人決済・無人レジの可能性

 

多くの課題が残っている無人決済・無人レジだが、前述した課題を克服することで将来的に実現できるスマートストアの可能性は多岐にわたる。従来店舗では管理することができなかった膨大な顧客データや購買記録、さらにデジタル技術を採用しなければ得られなかった情報を活用することでできることにはどのようなものが考えられるだろうか。店舗運営効率の向上や顧客への新奇的な購買機会の提供など、様々な切り口で考えてみる。

 

可能性1 データ分析によるパーソナライズドプロモーション推進

顧客それぞれに対し最適なプロモーションを行うパーソナライズドプロモーションの推進が考えられる。膨大な顧客の購入履歴やデータを管理し、従来では得られなかった統計データを得ることやAIによる高精度な分析により顧客ごとに最適なプロモーションを提供することができる。テクノロジー導入によりスタッフを減らすことで、顧客とのコミュニケーションや顧客個人への直接的なアプローチの低減が懸念されるスマートストアだが、それぞれの顧客にフォーカスしたデータ分析により顧客満足度の向上、また新奇的な買い物体験を実現できるかもしれない。

 

<参考>

デジタルとリアルの融合がもたらすマーケティングのパーソナライゼーションの進化

 

可能性2 顧客行動分析による店舗の新たな経営戦略立案

顧客ごとに最適なプロモーションを提供することも店舗側の新たな戦略立案や売上向上に繋がるが、AIを活用し顧客の行動分析をさらに深めることで、購買機会を逃してしまった要因特定や在庫最適化も並行できる。画像認識方式では顧客の購入商品だけでなく店内でどのように行動しているのか、各商品棚の前でどのくらいの時間足を止めたかなど、店内での顧客の移動を正確にかつ高精度に追跡した膨大の顧客の動線データが得られる。店舗側が期待する導線との違いを明確化することで店舗内レイアウトの改善に活かすことができ、これまでの購買機会損失を新たな戦略立案のデータとして活用できるだろう。

 

可能性3 在庫管理や生産最適化による市場均衡の実現

ICタグ方式では店舗内の商品管理を一括で行えるため素早くそして正確な在庫管理が可能だ。すべての購買データを記録しており、商品ごとの売れ行きを長期的に追うことができるほか、店舗在庫数との照合により万引き対策や特定にも活用できる。また、顧客の登録している情報と購入商品を紐づけることができれば商品ごとに客層を絞ったプロモーションの提供も可能だと考えられる。店舗の立地や利用する顧客の年齢層などの情報を掛け合わせ、購買データと総合的に評価することで需要予測としての活用も期待でき、市場均衡の実現も期待できるだろう。

 

 

無人決済・無人レジの将来展望

 

店舗内作業をシステムの活用により自動化し店舗運営を最適化するスマートストアは近年様々な形で展開を続けている。コロナ禍前には世界的に注目を集めたものの近年取り上げられる機会が少ないことで発展途上にあると思われた無人決済店舗は事業展開の方針を転換しているものも多く、また展開当初の課題であったAIによる認識精度は現在では国内事例で99.3%と高い水準を誇るようになった。店舗の規模や立地など様々な条件を総合的に判断したうえで最適なレジシステムを導入し、日本の社会的課題である労働者人口の減少にアプローチする策としてはもちろん、近年では当たり前になったネット通販のように新たな買い物のかたちの1つとして社会に浸透していくことに期待したい。