人工知能(AI)を開発する米国企業OpenAIは4月28日、同社のChatGPTチャットボットにショッピングに特化した機能を追加すると発表した。一部のテクノロジーウォッチャーは、この動きは、オンラインで商品や情報を見つけるための、より優れたパーソナライズされた体験を提供することで、AIのライバルであるGoogleに対抗するための取り組みだと見ている。
ChatGPTにはさまざまな質問が寄せられるが、よくあるトピックの1つは商品のリサーチと購入である、とOpenAIはWebサイトで説明している。現在、プロンプトがショッピングの意図を示唆した場合、ChatGPTは関連する製品の選択肢を視覚的にリッチなカルーセルで表示し、追加の製品詳細を提供し、ユーザーが詳細を学んだり購入したりできるWebサイトにリンクすることができる。
OpenAIは、ChatGPTは独自に商品を選択しており、広告を表示しないと付け加えた。ユーザーのために商品を選ぶ際、AIは価格や商品の説明など、サードパーティプロバイダーからの構造化メタデータや、商品レビューなどのサードパーティコンテンツを考慮している。
このショッピングインテリジェンスは、無料版を含むChatGPTのすべてのバージョンに搭載されている。
OpenAIはまた、メモリ機能(ユーザーとの過去の会話を記憶し、次回以降の対話に活用できる機能)をショッピング機能に近々統合する予定であると予告したが、これはProおよびPlusユーザーのみを対象としている。メモリ機能により、ChatGPTはユーザーの過去のチャットを参照し、よりパーソナライズされた商品レコメンデーションを提供できるようになる。
「ChatGPTは、ユーザーがプロンプトでパラメータを指定しなくても、個人のショッピング嗜好を予測する能力がますます向上する可能性がある」と、フロリダ州タンパに拠点を置くAIファッションテクノロジー企業Scoutの創業者、Michael Roney氏は指摘する。
「AIモデルが、私が最も好む小売店、私が最も狙う可能性が高い価格帯、そして私が過去に購入した商品を既に把握していれば、商品発見プロセスに多大な付加価値をもたらすだろう」と、同氏は語った。
Googleに焦点を定める
「ChatGPTは、オーダーメイドの製品提案をチャット・インターフェースに直接埋め込むことで、リサーチから購入までの流れをシームレスで、パーソナライズされた、会話の流れにまとめることによって、Googleのショッピングとコア検索に挑戦している」と、ニューヨークと英国マンチェスターにオフィスを構える、製品情報とデジタル資産管理のためのSaaSベースのソリューション・プロバイダーであるPimberlyのCEO兼共同設立者であるMartin Balaam氏は述べる。
「このオーガニックでプロモーションのないモデルは、有料広告の影響を受けず、従来のアフィリエイトマーケティングを根底から覆し、ブランド各社にパートナーシップの収益化方法やデータフィードの管理方法の見直しを迫る可能性がある」と、同氏は語った。
「しかし、OpenAIがこのプロモーションのないモデルを長く維持できるとは思えない。ChatGPTの継続的な発展には安定した収益が必要となるため、OpenAIは必然的にスポンサー付の広告やアフィリエイト収益の分配を導入せざるを得なくなるだろう」と、同氏は付け加えた。
ChatGPTショッピングの収益化はほぼ確実に将来的に実現すると、ニュージャージー州のプリンストン、ニューヨーク市、インドのチェンナイにオフィスを構えるWebおよびモバイルアプリケーション開発会社Fleet StudioのCEO、Venu Moola氏は主張する。「今は価値創造と行動形成が重要である」と、同氏は語る。「人々に流れに慣れてもらい、信頼を築く。人々が会話型コマースに本当に求めているものを学ぶのだ」と続けた。
「しかし、将来的には?」と同氏は問いかける。「アフィリエイトとの連携、戦略的パートナーシップ、そして収益分配といったものが組み込まれると予想している」。
「重要なのは、収益化レイヤーがどれだけ透明性が高く、押し付けがましくないかだ」と同氏は続けた。「OpenAIが商品提案によって少額の利益を得ることについて、その提案が利益を目的としたものではないと信頼できれば、人々は気にしないだろう。実用性と収益化の境界線は尊重されなければならない。そうでなければ、この信頼の架け橋全体が崩壊してしまうだろう」。
「適切な安全対策を講じれば、生成AIは検索コストを削減し、レビューを要約し、個人の好みに合わせて結果を調整することで、買い物をより簡単にすることができる」と、ハーバード大学にある研究センターBerkman Klein Centerの研究員であるBen Brooks氏は付け加える。
「しかし、もしその結果が手数料や有料広告によって歪められている場合、プロバイダーはユーザーにそのことを明確に伝える責任がある」と、同氏は語った。
広告の必然性
ChatGPTショッピングの開発者にとって、広告もまた魅力的すぎるかもしれない。しかし、OpenAIのCEO、Sam Altman氏はその見通しに否定的である。「私は(広告に)反対しているわけではない。広告を出す正当な理由があるのなら、それを否定するつもりはない。しかし、我々には、サブスクリプション販売という素晴らしいビジネスがある」と、同氏は3月20日のStratechery(テクノロジー業界やビジネス戦略に関する分析を提供するニュースレター)のインタビューでBen Thompson氏に語った。
「広告は最終的に導入されるだろうが、おそらく非常に巧妙で、AIに最適化された形になるだろう」と、ラスベガスのSmartTech Researchの社長兼主席アナリスト、Mark N. Vena氏は主張する。「従来のバナー広告ではなく、自然な会話に溶け込む『スポンサー付きおすすめ』が見られるようになるかもしれない」。
「OpenAIは、ユーザーの信頼と収益の創出を慎重にバランスさせる必要があるが、商業的な圧力はいずれ何らかの形で統合広告へと向かうだろう。広告はChatGPTにとって見逃すことのできない魅力的な機会である」と、同氏は語る。
サンフランシスコの市場調査会社Near Mediaの共同創業者であるGreg Sterling氏も同意見だ。「ChatGPTは多額の資金を消費しているため、新たな収益源を見つける必要がある。ChatGPTに何らかの形で広告を導入することは避けられないだろう」と、同氏は語った。
Amazonへの影響
ChatGPTの新しいショッピング機能は、Amazonの商品検索における優位性にも影響を与える可能性がある。「ChatGPTショッピングは、Amazonのカジュアルな検索による購入の一部を奪う可能性がある。ユーザーが信頼できる商品推奨のためにAIによる会話に頼るようになれば、従来のAmazonでのブラウジングを完全に避けるようになるかもしれない」と、Vena氏は述べる。
「ChatGPTが直接販売していなくても、上流で購入決定に影響を与えることで、Amazonの検索における優位性を弱める可能性がある」と、同氏は続けた。「また、ユーザーをより幅広い小売業者に誘導し、Amazonによるeコマースの発見における独占力を弱める可能性もある」。
「適切に運用されれば、ChatGPTはAmazonの代替となり、Amazonが他の小規模小売業者を前面に出しているのと同様に、Amazonをそのように扱う可能性がある」と、オレゴン州ベンドに拠点を置くアドバイザリーサービス会社、 Enderle Groupの社長兼主席アナリスト、Rob Enderle氏は付け加えた。
「問題は、『信頼』である」と、同氏は述べる。「サービスに対価を払っていない場合、資金提供者が推奨にバイアスをかける可能性が高く、信頼性を著しく低下させてしまう。AIがうまく機能しないというわけではないが、このアプローチでは、設計上機能しない可能性が高い」。
Sterling氏は、ChatGPTショッピングによって、本来Amazonに流れていたかもしれない少量の購入量が奪われる可能性があると指摘した。しかし、Amazonへのロイヤリティは、少なくとも購入においてはデフォルトの行動として非常に強力なため、悪影響があったとしても、せいぜいわずかなものだろう。
「AmazonよりもGoogleショッピングの検索クエリの方が大きな影響を受ける可能性がある」と、同氏は述べる。「以前はGoogleで行っていた検索にAIツールを使う人が増えている。その数はまだ比較的少ないが、増加傾向にある」。
ChatGPTは商品発見に役立つ可能性
ニューヨーク市に拠点を置く消費者向けテクノロジーコンサルティング会社、Reticle Researchの主席アナリスト、Ross Rubin氏は、Amazonが検索の起点ではないとしても、最終的には取引が行われる場所になる可能性があると指摘する。「そのため、短期的には、ChatGPTのショッピング機能は大きな影響を与える可能性は低いだろう。GoogleとMicrosoftのデフォルト検索戦争で大きな影響がなかったのと同じように」と、同氏は語る。
「品揃え、消費者の信頼、そしてプライム会員への投資という点では、Amazonにはまだ多くの利点がある」と同氏は続けた。
サンディエゴのマーケティングソリューション企業SOCiの市場調査ディレクター、Damian Rollison氏は、オンラインショッピングは多くの消費者にとってフラストレーションの溜まる体験になり得ると指摘する。
「あらゆる種類の商品が豊富に存在するにもかかわらず、市場は誇大宣伝、詐欺的なSEO、偽レビューやインセンティブレビュー(投稿の対価として何らかの利益や恩恵が提供されているレビュー)によって支えられた低品質の商品で飽和状態にある。ChatGPTはこうしたノイズを排除し、消費者がより迅速に、安心して適切な商品を見つけることができるコンシェルジュのようなショッピング体験を提供することができるかもしれない」と、同氏は語った。
「新しいショッピング統合は、顧客が取引を完了できるリンクをチャットボットが容易に表示できるようにすることで、ChatGPTの既存の検索機能を強化し、マーケターがオンライン商品をChatGPTのクローラー(Webサイトから情報を収集し、AIモデルに適したデータ形式に変換してくれるツール)に適したものにするよう促す。ChatGPTの本来の強みである、ニュアンスに富んだアドバイスやレコメンデーションの提供は、強力なショッピングツールとして活用できるだろう」と、同氏は述べた。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の4/30公開の記事を翻訳・補足したものです。