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世界の主要10ヵ国の医薬品EC市場の現状と課題

世界の主要10ヵ国の医薬品EC市場の現状と課題

マーケティング
2025/10/22

世界の主要10ヵ国の医薬品EC市場の現状と課題

 

デジタルが身近となり、オンラインで購入出来ないものはほとんど無くなってきていると言われているが、売るためのハードルが高い商材も存在している。その中でも身近な商材の代表格が医薬品と言える。新型コロナウイルスの影響もあり、医薬品市場は以前よりもオンラインシフトが進んでいるが、依然としてハードルも多く活用されているとは言い難い状況だ。今回は、世界各国の医薬品ECの現状のデータを確認し、規制やオンライン診療、電子処方箋などの視点から課題を整理し、日本の医薬品EC市場の今後を考察していく。

 

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世界の医薬品EC市場の概況

 

世界の医薬品EC市場規模は2018年に497億2,770万米ドルとなっており、2026年までに1,777億9,490万米ドルに達すると予測されている。また、北米、ヨーロッパ、アジアパシフィック、中東・アフリカ、ラテンアメリカを対象とした医薬品EC市場の年平均成長率は13.96%となっており、大幅な上昇が見込まれている。さらに、世界の電子処方箋市場は2021年から2027年の期間において23.3%以上の成長率が見込まれており、2020年の約12億米ドルから、2027年までに52億米ドルに達する見込みである

この著しい成長の背景の主な要因は、新型コロナウイルスの影響でオンラインでの医薬品購入や遠隔医療の需要が急増したこと、そしてデジタル技術の浸透に伴い、規制の緩和やセルフメディケーションの意識向上などが挙げられる。

このようなトレンドは2つの理由から継続していくと考えられている。1つ目は医薬品のオンライン購入は継続的に同じ薬を必要とする慢性疾患患者や外出が困難な高齢者にとって利便性を担保する非常に有効な手段となっていることだ。2つ目は、ミレニアル世代以降は化粧品や市販薬などのオンラインでの購入に依存しており、新しい世代の需要はさらに高まることが予測されているからだ。

 

 

主要国での医薬品のオンライン販売事例

 

それでは、まず、主要国での医薬品のオンライン販売の事例をいくつか見ていこう。

 

アメリカ

Amazon Pharmacyは、サイトやアプリから処方薬を注文するとオンライン服薬指導から処方薬の配送までを行う米国内向けサービスで、患者は加入している医療保険や既住歴、定期処方薬などのプロフィールを登録することで電子処方箋を受け取ることが出来る

薬の調剤と配送の両方を管理しており、薬剤師への問い合わせは24時間可能である。さらに、リフィル処方箋も対応可能で、この場合一度処方箋を提示すれば医師の指定した回数まで診察なしで薬を受けとれる。また、店舗の薬局からAmazon Pharmacyへ処方箋をトランスファーすることもできる上、サブスクリプション制度によって処方薬が多い顧客にとって非常に嬉しいサービスである

 

CVSは、時価総額1,410億ドルに上る世界第二位のヘルスケア企業だが、コロナウイルスの蔓延により顧客がネットに流れたことで、2021年以降小売り事業を再編し、3年間で全体の1割弱に相当する900店を閉鎖した

店舗を医薬関連商品の販売からサービス提供の場に変えるとともに、オンライン医薬品販売に力を入れている。具体的には、糖尿病のオンライン治療や在宅医療サービス、店舗内に設けたMinuteClinicによるオンライン診療を用いた軽傷の治療やスクリーニング検査、薬物やアルコールなどの使用障害や精神病のオンライン治療、予防ケアとウェルネス、希少患者の個別化治療など、様々な企業と提携することで幅広い分野のオンライン治療に挑戦している

アメリカでは他にもWalmartなどの大手企業がオンライン医薬品販売事業に参入したが採算がとれず2024年4月に撤退しており、大手企業であってもこの分野への参入が難しいことがわかる。この特殊な業界では、医薬品分野での信頼度と価格競争力や、データ管理による効率的なサービスであることなどが重要のようだ。

 

中国

中国ではJDhealthAlihealthなどの大手ECプラットフォーム企業がオンライン医薬品販売市場を独占している。ここでは、中国国内で主要なプラットフォームのうちビジネスモデルの異なる3つのプラットフォームを紹介しよう。

 

 

JDhealth(京東健康)は、京東グループが運営する「薬+診療」型のECサイトであり、個人向けと病院向けの双方に幅を広げて医薬品に加えて医療用消耗品や医療機器なども販売している。

オンライン診療では、「対話型AIロボットに相談」か、「医師に相談」かを選択すると、24時間医師が待機しており、約400円ほどでオンライン診療を受けることができ、デジタル処方箋が発行され、ECサイトから処方箋に応じた薬を購入することができる。さらに、北京市と連携して高齢者向けに健康食品販売サービスを提供することで高齢者への不審な売り込みを防ぐ取り組みも行っている。病院向けにインターネット受付の提供、企業向けにオンライン診療や健康管理サービスの提供、医学研究のためのデータ収集、AIの開発など、ヘルステック市場における新たな取り組みの大部分を担う企業として最先端を走る。2022年6月末でのJDHealthアクティブユーザー数は1億3,100万人、インターネット医療利用者数は一日平均25万人を超えている。ユーザーの9割以上が子供の相談を目的とする女性であり、医師とのビデオチャットが人気の理由である

 

 

平安好医生(Ping An Good Doctor)は、3億人以上のユーザーを抱える大手保険会社平安保険が出した「診療+保険」型の無料アプリで、医療に関わる一連の流れをすべてオンライン上で解決できるプラットフォームである。

JDHealthが一般消費者向けであるのに対して平安好医生は主に保険加入者向けである。医師の問診や患部の写真の送信ができるチャット「快速問診」により病院の選択が容易。医師単位の口コミを見れる「探医生」で予約。「閃電購薬」によりオンラインで処方薬を注文。こうした流れを作ることで病院の混雑緩和や大病院から近隣のクリニックへの患者の分散が実現した。初診であってもオンラインで受診すれば薬の処方が可能で、過去に処方された薬であれば画面上で問診に答えるだけで再処方が可能であることが患者の負担を軽減している。また、自社で調剤薬局をもっているため配達が速いこともメリットである。

 

 

WeDoctor(微医)は、テンセントグループが支援する「医療機関+患者のマッチング」型のプラットフォームで、チャットメニューの代わりに音声やビデオチャットでリモート診療をする。

医療機関ネットワークを強みにしており、中国全土の病院別に内科・外科・小児科・中医科などの分野で経験のある専門医へのアクセスを重視し、勤務歴などの詳細なプロフィールと診療形態や診断料が登録されている。また、「微医通」で微医利用に特化した端末やスマートバンドなどの家庭用医療端末を販売しているため、それを利用して得た血圧などのデータと過去のカルテを合わせて診断する。さらに、医療情報・健康情報に関するコラムや、妊娠中の女性のために個人の状況に合わせた基礎知識や食事療法などの情報を掲載している

 

このように中国のヘルステックプラットフォームは、それぞれ異なる分野やビジネスモデルを活かし、多様な需要に応えている。広大な国土をもつ中国で、地域格差を解消し、より公平な医療提供を実現する有効な手段としてオンライン医療はますます重要になっていくだろう。

 

インド

インドでは、コロナ拡大防止のためロックダウンを実施した際に「Telemedicine Practice Guidelines」と呼ばれる遠隔医療に関するガイドラインが政府によって定められ、遠隔医療を推進し、薬のオンライン販売についても規定が明記された。

処方できる薬の種類はガイドラインのP.22に記載されているように、リストO、A、B、処方禁止の4つに分けられ、オンライン販売の際の診療形態や診療回数が定められている。明確な法規制がなされていない間は無免許でのオンライン販売を禁止していたが、オンライン薬局のスタートアップ企業からの投資を受けずらいという声を受け、政府が明確な方針を打ち出したことでスタートアップ企業の動きに拍車がかかった。低コストで信頼性の高い薬を提供することができるオンライン薬局はインドの脆弱な医療体制とマッチして急成長しているといえる。

 

 

世界主要各国の医薬品EC販売の現状と課題をデータ側面から考察

 

それでは、ここからは世界の主要10ヵ国(日本、アメリカ、中国、インド、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス)の医薬品EC販売の市場規模データや課題などを整理していく。一般的に、医薬品のオンライン販売は、オンライン診療導入率と電子処方箋普及率と比例して伸びる。しかし、各国の状況をみると、それらの値が伸びているにも関わらずオンライン市場規模が頭打ちしている国も多いため、これらの課題も考察していく。

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各国の医薬品に関する規定

医薬品は一般用医薬品と医療用医薬品に分けられ、日本では、一般用医薬品はリスクに応じて第一類から第三類に分類され、販売時の説明義務が異なる。医療用医薬品は医師の処方が必要であり、厳格な管理下にある。各国には安全性と有効性を確保するためにそれらを司る規定が存在し、国ごとに制度が異なり、流通方法や価格にも影響を与え、結果として医薬品のEC販売の浸透度合いに差が生じている。

米国では、FDA(食品医薬品局)が規制を担い、処方薬とOTCに分類される。欧州ではEMA(欧州医薬品庁)が医薬品の承認を統括し、各国の規制当局と協力して管理を行う。中国ではNMPA(国家薬品監督管理局)が認可を行い、特に輸入医薬品には厳しい審査基準が設けられている。

 

各国の医薬品のオンライン販売市場規模と割合

オンライン医薬品販売の市場規模は国ごとに大きな差が見られる。人口に左右される部分ももちろん大きいが、オンラインでの購入がどの程度浸透しているかによる部分も大きい。

2024年、日本の医薬品のオンライン販売の市場規模は5.2億ドル(予測値)と小規模で、かつオンライン販売割合も0.55%と主要各国の中で最低の浸透率となっている。アメリカは2027年には896億ドルに達すると予測され、オンライン販売割合は26%となっている。中国はすでに2021年時点で298億ドルの規模を誇るが、オンライン販売割合は8.3%とそれほど高くない。インドは2022年に37億ドルで販売割合は8%とアメリカや中国には劣るが、急成長を見せている。

欧州の医薬品のオンライン販売の市場規模は、ドイツが6.84億ドル(2019年時点)、フランスが14.6億ドル(2025年推測)、イタリアが8.97億ドル(同)で、いずれもオンライン販売割合は3%と浸透率はそれほど高くない。一方、イギリスは31億ドル(同)でオンライン販売割合も13%となっており、欧州の中では市場規模も浸透率も高い。オーストラリアは10.5億ドル(同)、ニュージーランド2.6億ドル(同)とこちらも小規模で、オンライン販売割合も5%となっている。

※数値の根拠や推測方法はダウンロード資料内に詳細記載

 

各国のオンライン診療の導入率

オンライン診療の導入率はオンライン医薬品販売の利用数に大きく影響する。オンライン診療を行うと、電子処方箋での処方がほぼ確実に行われ、それを使用してオンラインで医薬品を購入するという流れに繋がりやすいからだ。

各国のオンライン診療導入率は半数以上の主要国で正確な数値が公表されていない。

日本のオンライン診療導入率は15%となっている。一方、アメリカは導入率60%、イギリスは70%となっており、非常に高い導入率といえる。中国は政府の支援やテクノロジーの進展によりオンラインヘルスが浸透し、70%(ecclab推測値)とこちらも高い導入率である。インド、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドは同規模の導入率で20%~30%(ecclab推測値)で、イタリアはそれよりも低い。

アメリカではオンライン診療が広く導入されているが、中国ではコロナ後に需要が急減したようだ。日本を含むその他の国々では20%程度で落ち着いており、拡大や縮小の大きな傾向も見られない。

また、この数値はあくまで導入率であるため、実際の利用率はこれより大幅に低い。オンライン診療は、対面患者がいる場合後回しにされるため対応が遅い、基本的にかかりつけ医師からの勧めがないとオンライン診療にいきつかないなど、従来の対面診療と言う深く根付いている慣習からの脱却にはまだ多くの時間がかかりそうだ。

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各国の電子処方箋普及率

オンラインで医薬品を購入するためには、電子処方箋が必須となる。そのため、電子処方箋普及率はオンライン医薬品販売の利用数と大きな相関関係がある。この電子処方箋普及率は対面診療とオンライン診療で大きく異なってくる。対面診療で電子処方箋を処方してもらうためには、病院側がそのサービスを利用できる状態になっている必要があり、病院の大小でサービスインフラへの投資状況も異なってくることが推測される。一方、オンライン診療では電子処方箋普及率はほぼ100%であると考えられる。

各国の電子処方箋普及率は半数程度の主要国で正確な数値が公表されていない。

イギリスが96%と最も高く、アメリカ、中国、ドイツ、フランス、イタリアでも90%となっており、ヘルスケア分野のデジタル化が進んでいる。一方、日本では導入が遅れており2.6%の普及率に留まっていて、処方薬のオンライン流通の成長を阻んでいる状況だ。インドは25%となっており、普及が進みつつあるものの、未だ成長段階であり、限定的な状況にとどまる。

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各国で医薬品のオンライン販売が進まない課題

医薬品オンライン販売は、オンライン診療の普及率や電子処方箋の普及率が大きく影響しているが、オンライン販売割合がまだ伸び切っていない原因を各国の実情から考えていこう。

 

医薬品のオンライン販売割合が頭打ちになっている原因は主要各国の状況を読み解くと4つに分けることが出来そうだ。

一つ目は消費者の薬局へ通う習慣にある。多くの消費者にとって薬局に直接足を運ぶことは当たり前の習慣となっている。診療所の近隣にある「かかりつけ薬局」に定期的に通い、薬剤師との対面での相談を行うことで得られる安心感や、現在約2割の病院が導入している院内処方など、診療から薬の受け取りまでの流れが定着しているため、新たな方法が浸透しづらい。さらに、患者の多くを占める高齢者層のデジタルサービスへの抵抗感も要因の一つだ。服薬デバイスの使用法を対面で指導してほしい、病院や薬局に通うことを運動や交流の機会として大切にしているなどの理由から、オンラインでの薬の購入を選ばないケースもある。

二つ目は医療インフラの整備状況にある。ネットで薬を購入すると、配達までに1~5営業日かかることが多い。特に症状的にも突発的な対応が求められるケースも多いため、少しでも薬を早く受け取りたい場合が多い。そのため、オンライン診療などで電子処方箋を受け取っても、結局近隣の病院に薬を取りに行くことが多い。また、オンライン診療を受けた上で紙の電子処方箋を郵送してもらうケースも少しある。郵送の手続きが煩雑である場合やオンラインでは保険適用がスムーズに処理されない場合は消費者が宅配より店頭受け取りを選ぶ傾向にある。さらに、病院や薬局の数が少なく医療体制が整っていない国ほどオンライン診療やオンライン販売は普及すると予測できるため、医療体制が整っており、徒歩圏内に薬局があるような国では今後も頭打ちの傾向は続きそうだ。

三つ目は消費者のオンライン販売への信頼度である。偽薬の流通や詐欺のリスク、個人情報である疾患情報をAmazon Pharmacyなどのプラットフォームへ入力することに対する不安などを取り除くことが必要不可欠である。偽薬については特に中国やインドで懸念されているようだ。アメリカは部分的なリスクが指摘されるが、日本やニュージーランド、ポルトガルなどは厳格な管理が行われており、リスクは低い。一方、欧州では疾患情報の入力への不安を感じている患者が多いため、信頼を受けているとは言い難い現状である。

四つ目は規制や法的要件である。国や地域によっては、医薬品のオンライン販売への規制が厳しい場合や、薬剤師の対面指導を義務付ける法律が存在し、それがオンライン販売の普及を阻害する要因となっている。一方で、アメリカではリフィル処方箋の精度がAmazon Pharmacyの普及を後押しした。電子カルテや健康アプリと紐づけ自分の体の状況を確認できるようにするなど、オンライン販売ならではのメリットを整備することが市場拡大には必要だろう。

 

 

医薬品EC販売の主要10ヵ国の国別の状況

 

それでは、各国の状況を個別に見ていこう。

 

日本の医薬品EC販売の現状

日本ではオンライン診療と処方箋なしでの医療用医薬品のオンライン販売は禁止されている。一般用医薬品に関しても、一類は薬剤師の承認がなければオンラインで購入することができない。アメリカや中国に比べてオンライン販売の流通額は小さいが、医薬品の中にサプリを含めない値であることを加味すると実際の値はもう少し大きいと予想できる。一般用医薬品の通販についての2017年のアンケートでは、35歳未満では賛成が反対を上回ったのに対し65歳以上では反対が賛成を大きく上回っており、世論も規制に対して揺れていることがわかる。日本の課題は電子処方箋普及率が2%台と他国に比べて非常に低いことにあり、電子処方箋のみの利用を許可しているAmazon PharmacyはAmazonアプリ上で診療を受けられず他のアプリを経由する必要があるため手間がかかることも相まって日本で利用率は低い。

日本のオンライン販売の浸透率は0.55%と非常に低い。これは対面診療での電子処方箋普及が進んでいないことが影響して電子処方箋の普及率が2.6%と非常に低くなっていることが最も大きな原因だといえるだろう。

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アメリカの医薬品EC販売の現状

アメリカは一般用医薬品のオンライン販売を許可するとともに、医療用医薬品の一部認可済の薬はオンライン診療を受けた場合に限り許可している。諸外国に比べてオンライン販売の流通額は高く、オンライン診療の浸透度も高い。偽薬の流通が多く安全性に課題がある一方で、FDAが国民向けに一般用医薬品を購入する際の危険性について注意喚起することに加え、VIPPSにおいて書類審査、検察官による立入検査を行うなど、安全性の確保に注力している。COVID-19の影響で処方薬のオンライン購入が急増したことが追い風となり、2020年の調査ではアメリカ国民の約50%が医薬品をオンラインで購入している。そのうち高血圧や喘息、糖尿病など慢性的な症状への処方が23%である。2020年には遠隔医療サービス(オンライン診療)の導入率が全米の病院で約75%に急伸し、ズームやシスコシステムズがシェアを獲得している。電子処方箋普及率が高いことから、定期処方薬などのプロフィールを登録するとウェブサイトや専用アプリから処方薬を注文でき、自宅に配送してくれる米国内向けサービスであるAmazon Pharmacyの利用が日本より活発であり、Amazonにより即日配達を目指している。

アメリカのオンライン販売の浸透率は26%と他国に比べて高く、電子処方箋の普及率も90%と非常に高い。これは対面診療における電子処方箋の導入が進んでいることが影響している。アメリカではリフィル処方箋の利便性が電子処方箋の普及を後押しした。しかしアメリカでは高額な診断料が起因して、薬局で簡単な診療をしたりワクチン接種をしたりするなど薬局の整備が整っているため、電子処方箋を受け取っても近くの薬局に受け取りに行くことが多い。Amazon Pharmacyはプライム会員であれば2日以内に配達されるが、非会員であれば地域によっては最長4日かかることもある

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中国の医薬品EC販売の現状

中国は中薬を含む一般用医薬品のオンライン販売を許可するとともに、米国同様認可済の医療用医薬品をオンライン診療を受けた場合に限り許可している。オンライン販売の利用率は諸外国に比べて非常に高いが、オンライン診療利用率はCOVID-19直後に比べて利用率が激減した。一方、偽薬の流通や無許可販売などの違法行為が多く安全性に大きな課題がある。中国ではHIS、EHR、EMRなどの電子医療記録の普及が進んでおり、EHR、EMRに関しては9割の病院で導入済であるが、中央集権的でなく各病院が独自のシステムを使用しているため情報のサイロ化が指摘されている。中国の医薬品販売プラットフォームの特徴はJDHealthやAlihealthなど大手IT企業が市場を独占していることであり、デジタル処方箋を用いて薬剤師との対話サービスや高齢者向けに健康食品販売サービスなどが提供されている。

中国のオンライン販売の浸透率が8.3%と比較的高いことを考えると、電子処方箋の普及率は90%(ecclab推測値)程度に達すると推測される。さらに、対面診療における電子処方箋の導入率も70%以上(ecclab推測値)に及ぶと予想され、これはアメリカと類似した形態であると考えられる。中国では偽薬の流通により消費者の信頼を得られていないことが重要な要因であると考えられる。

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イギリスの医薬品EC販売の現状

イギリスでは一般用医薬品は自由にオンライン販売が可能であり、医療用医薬品は認可済のもののみオンライン診療の受診を条件として許可されている。電子処方箋の発行率は2010年6月の1%未満から 2018 年6月には63%へと増加し、スタッフと患者の時間を節約したと報告されている。さらに2021年以降96%に増加した

イギリスのオンライン販売の浸透率は13%とアメリカに次いで高く、電子処方箋普及率も非常に高いことから、アメリカ、中国と類似した形態であることが言える。

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インドの医薬品EC販売の現状

インドは麻薬以外の医薬品のオンライン販売をすべて許可しており、医療用医薬品はオンライン診療の受診を必須としている。オンライン販売流通額は中国、アメリカに次いで三番目だが、二カ国とは大きく差がある。電子処方箋普及率や偽薬の流通に関して課題は多くあり、コロナ禍から市場は急成長しているが全体のシェアはまだ少ない。冬季春季の繁忙期に供給が追い付かず、郊外への即日配達が難しいなど、配達に関する課題も残っている。その一方で、NetmedsやMeDLIFEなど会員登録して処方箋をアップロードすることで薬剤師の確認、承認の上薬を購入できるプラットフォームが充実しており、オンライン診療と組み合わせて利用されている。2014年から2019年の間に約20億ドルがインドのヘルステックスタートアップに投資され、その22.4%がオンライン薬局分野に渡っているなど、注目されている分野である。インドのオンライン薬局の規模は世界3位と言われ、普及率約73%であるスマートフォンから簡単に薬局にアクセスできる利便性が後押しし、オンライン診療と合わせて農村部や貧困層に普及した。インドでは病院へ行かずに安価な市販薬を手にする人が多く、低品質のジェネリック薬品や偽薬が出回っていたが、インド各州がオンライン薬局を監督しているためその問題を解決できるという実態も影響している

インドのオンライン販売の浸透率は8%と本記事で取り上げた国の中で4位であり、電子処方箋普及率は25%(ecclab推測値)と推測できる。インドにおけるヘルステック分野の発展は都市部に集中しており、特に即日配達の点で郊外との格差が顕著であるため、郊外への早急な対応が求められている。

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ドイツの医薬品EC販売の現状

ドイツでは精神科関連薬や麻薬など危険性の高い薬以外はオンライン販売を許可しているが、第一類医薬品は薬剤師の承認が必須であり、医療用医薬品はオンライン診療が必須である。ドイツはアメリカや中国に比べてオンライン販売やオンライン診療の浸透度は低いが、その分偽薬の流通は少なく、即日配達の需要もあまりない。一方、2022年1月1日から電子処方箋の導入が義務化され、ヘルステック分野の発展は進んでおり、市場拡大が期待されている。また、大幅な割引により咳止め薬、風邪薬、インフルエンザ薬のオンライン販売は急増しており、ヨーロッパのヘルステック分野の成長には大きく貢献している。EUでは「国境を越えた処方箋」としてEU加盟国で発行された処方箋は他のすべてのEU加盟国で有効としており、これを電子化するガイドラインも示されている。これには個人が自分の医療データをコントロールできること、よりよい医療提供や研究のためのデータの活用を支援することを狙いとしている。

ドイツのオンライン販売の浸透率は3%と非常に低く、医療用医薬品のオンライン販売浸透率が2%(ecclab推測値)と計算できる。しかし、EUの「国境を越えた処方箋」の普及で電子処方箋普及率は非常に高いため、対面診療における電子処方箋の導入率も非常に高いと推測できる。よって、電子処方箋をオンラインで使わず店頭で医薬品を受け取る人が多いと推測できる。ヨーロッパでは消費者のオンライン販売への信頼度が低いことと、医療体制が整っていることからオンライン販売に需要を感じないことがオンライン販売規模が停滞している大きな要因だと思われる。

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フランスの医薬品EC販売の現状

フランスでは一般用医薬品のうち二類三類のみが許可されており、それ以外のオンライン販売は禁止されている。フランスのヘルスケア市場に関する情報は少ないが、2021年に約40万件の電子処方箋が発行され、2024年末までに健康保険金庫のオンライン・サービス「統合電子処方箋」に接続することも義務付けられるなど医療分野のIT化は進んでいる。

フランスのオンライン販売の浸透率は3%と低く電子処方箋は広く普及しているため、状況はドイツと類似している。

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イタリアの医薬品EC販売の現状

イタリアでは一般用医薬品のうち二類三類のみが許可されており、それ以外のオンライン販売は禁止されている。イタリアのヘルスケア市場に関する情報は少ないが、Amazon Prime Airの利用が開始するなど医療分野のIT化は進んでいる。

イタリアのオンライン販売の浸透率は3%と低く電子処方箋は広く普及しているため、状況はドイツやフランスと類似している。

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オーストラリアの医薬品EC販売の現状

オーストラリアでは麻薬以外のすべての医薬品がオンライン販売を許可されているが、一般用医薬品と認可済の医療用医薬品は許可を受けた販売チャネルのみ許可、その他の医療用医薬品はオンライン診療の受診を経た場合のみ許可している。オンライン販売やオンライン診療の浸透度は低いが、その分偽薬の流通も少ない。

オーストラリアのオンライン販売の浸透率は5%と低い。オーストラリアでヘルステック分野の発展が他国に比べて遅い理由は、僻地などでの医薬品へのアクセスの整備や災害時の薬局への信頼度が高いため、オンラインでの医薬品購入のニーズが低いことにあると思われる。電子処方箋の浸透率の具体的な情報がないため、55%程度と推測で計算している。オーストラリアではオンライン販売の規制が厳しく取り決められているためオンライン販売規模が伸びていない。

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ニュージーランドの医薬品EC販売の現状

ニュージーランドでは一般用医薬品のうち二類三類のみ許可し、それ以外の薬のオンライン販売は禁止されている。オンライン販売やオンライン診療の浸透度は低いが、その分偽薬の流通も少ない。ニュージーランドでは、ニュージーランド薬剤師会(PSNZ)による販売基準の規定やハイパーリンクシール(認証シール)の導入など、ヘルステック分野の整備を精力的に行っているため、偽薬などの問題は少ない。購入者は認証シールをクリックすることでPSNZのサイトで薬局の情報を確認できる仕組みである。

ニュージーランドのオンライン販売の浸透率は5%とオーストラリアと同程度となる。電子処方箋の浸透率の具体的な情報がないため、こちらも推測で計算し55%としている。ニュージーランドもオーストラリアと同様に、オンライン販売の規制が厳しく取り決められているためオンライン販売規模が伸びていない。

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医薬品EC販売状況パターン

 

世界の主要10ヵ国の状況を読み解いていくと、電子処方箋の状況や結果としてのオンライン販売の状況から4つのパターンに分けることが出来る。

 

パターンA-電子処方箋停滞

日本とインドがこのパターンとなる。他の国と比べても、対面診療での電子処方箋普及率が非常に低いことが全体の電子処方箋普及率の低さにつながり、医療用医薬品のオンライン浸透率が低くなっている。最も初歩的なところで躓いているパターンだ。まず、電子処方箋の利用率をあげることがオンライン販売浸透に必要である。

 

パターンB-電子処方箋普及・オンライン販売普及

アメリカのみがこのパターンとなる。他の国と比較して、電子処方箋普及率も高く、その結果として、オンライン販売の浸透率に繋げることが出来ている好例と言える。ただ、それでも浸透率は26%に留まっているので、これが市場の限界と見るのか、まだまだ伸びると見るのかは判断が分かれるところだろう。

 

パターンC-電子処方箋普及・オンライン販売停滞

中国と、欧州諸国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)の5ヵ国がこのパターンとなる。中国ではコロナ禍の影響で、欧州地域ではEUの取り決めにより電子処方箋普及率が非常に高い状態が出来上がっており、非常に医薬品のオンライン販売に向けた環境は整っている。しかし、上述した課題により、オンライン販売の浸透率が非常に低い。環境は整っているため、世代交代が進めば浸透率は増えていく可能性は高い。

 

パターンD-電子処方箋中程度・オンライン販売停滞

オーストラリアとニュージーランドがこのパターンとなる。この2ヵ国では、電子処方箋の普及率が50%程度度、普及の余地があり、また上述した課題により、オンライン販売の浸透率も伸び悩んでいる。電子処方箋の普及率を今よりも更に高め、オンライン販売に向けた課題の解決も同時に進めていく必要がありそうだ。

 

 

医薬品のオンライン販売はどこまで普及するのか

 

世界の医薬品EC市場はこれまでその市場を拡大してきたが、電子処方箋などの整備が進んでいるアメリカや中国では頭打ちの傾向が見られる。未だ急成長中のインドや新たな動きのあるイタリアではこれからの成長が見込めるが、医療制度が整備されている欧州では遠隔医療の需要が少ないため普及に時間がかかるだろう。日本はオンライン販売に対する規制が多く、医療の整備がされているため需要も少ない。しかし、市場の拡大に成功した主要国の事例を見ると、日本の電子処方箋の普及率の低さやオンライン販売に関する規定が明確化されていないこと、ECサイトと医療機関の連携が少ないことなどが課題だといえるだろう。